第十四章 プロトンの守護神
ヨモツヘグイ
一角獣の王編
第十四章 プロトンの守護神
硬直するエクリを無視し七人目はリントンの体を離れた。叫び狂うメテユを横にエクリはそれでも唯じっと目を見開いたままであった。
「…メテユ、うるさいぞ…」
エクリは呟くがその声はメテユには届かない、メテユは全てを否定しようとそれどころでは無いのだ。そのメテユの胸倉を掴むとエクリはメテユを激しく揺らした。
「おい!しっかりしろ!」
エクリはメテユを突き飛ばすとさらに叱咤する。
「剣を抜け!今…すぐだ!」
その声は喉を詰まらせる。エクリの声の震えがそうさせた。その言葉の前でもメテユは横隔膜を激しく痙攣させ肩を揺らす。その揺れは何度も剣の柄を握ることを失敗させた。
「は、はい。…はい…」
メテユは何度も鞘から剣を抜こうとするも手に力は入らずその刀身は鞘へと戻って行った。その様にエクリは彼の頬を殴りつける。
「お前はヴァレリーユ、お前が継ぐヴァレリーユは俺が作る。だから立て、そして戦え!あの害虫に一太刀浴びせるまで許さんぞ!」
「あ、兄様…はい」
メテユは微かにエクリの目の奥に涙を見た気がした。彼は力の入らないその手を力強く噛み肉を剥いだ。
「…殺す…殺す、殺す殺す殺す」
メテユの目の色は変わった、血走り月の目を赤く滾らせるようだった。その手は血を噴く、しかし確かに剣を握っていた。
エクリはそれを見るともう彼を見ることは無くそこにあるリントンの胴体を眺めた。
「メテユ、…メテユ。この糞共を打ち破った後は…リ、リントンを…弔おう」
エクリの背はその涙を隠せずにいた。
***
ヒュエイはその黄金の蛇を阻む巨大なワームが姿を消すと体が自由になる。
「お?終わったか。お前の戦いなんぞにゃ興味ねーんだわ。二度と邪魔するなよ」
ヒュエイは指で何度もその蛇を指さしそう告げた。その背後に巨大な杭のような蜘蛛の足が振り下ろされた。ヒュエイはその切っ先を左手で掴むとその足を逃がさないように力を入れる。
「どうであれ油断する、どいつも。だからつまらないんだ。この蛇より私が弱いと思ったんだろ?へし折るぞ」
その手の中の足は亀裂を走らせ握力に屈する。蜘蛛は巨体を揺らし慌て、その場を離れようとするも思うように行かないままでいた。
「だめだな柔すぎる」
そう言うとヒュエイは少し力を入れると。その甲殻は四方に弾け飛んだ。するとその中から黒い鉱物が覗くそれは悍ましく何か黒いオドを纏っていた。
「ああ、これは見たぞ。あいつの持っていた…」
そう言う間も無くそのコウジンと言う蛇は体の鱗を剥がすとその白い肌に入れ墨を走らせた。するとヒュエイの顔の入れ墨も体を這うように広がる。
「しゃべってねーで戦えってか、それにしても私の体をいじくるなよ。気分悪いぞお前」
ヒュエイはたじろぐエフタの残りの足を瞬く間に3本潰し、自立が出来なくなったエフタは地面に平伏した。その後踵を返すととどめを刺そうと蜘蛛の目に狙いをつける。その攻撃はとても人間の目で追えるものでは無く正しく閃光であった。しかし動きを止めたと思ったエフタは体勢を整えるのであった。
「あら、ついてくるねえ」
エフタは先程壊された足を何本か剣の力にて修復するとヒュエイに威嚇をした。
「やっぱりお前この間の戦で戦った奴と同じ剣を持ってるな、めんどくせーな。でも面白いよ、その調子でどうぞ」
そう言うとヒュエイは一直線にエフタの頭部に攻撃を仕掛けた。エフタは体を覆う布の下に眠る呪詛を使用する。しかしヒュエイの速さには追い付かずエフタの牙は破壊された。
「ヒュエイ!呪詛は生きてるぞ、今すぐその場を離れろ!それはやばい!」
トリロはヒュエイにそう言うとその呪詛がアルフィアの影であることを悟っていた。その呪詛は神話のフィディラー王の弟大賢者アルフィア・アプロディの幻影を作り出すものである。
その神は姿を現すと言葉を発する。
「エフタよ、無益な生を続ける者よ。仕方がないが盟約には準ずる。しかしその姿いつまでも露わにするものでは無いぞ…悲しき者よ」
アルフィアの言葉にその場の者達は唖然とする。トリロは眉間に皺を寄せ再び大声を上げた。
「ヒュエイ!イシス!逃げろ!あれは、神アルフィアそのものだ!」
トリロは理解した。ここは彼等が住まう隠夜、そして呪詛使いは人では無い。アガスが死の間際に召喚したリュクノースも意識を持っていた。その呪詛は恐らく書物に記されている比では無い。目の前のこれも異様なオドを纏っていた。
「予想等出来ない。確実にやばい…」
ヒュエイは目を滾らせその神を睨む。
「おい蛇擬き、私は蜘蛛、お前はあの白い化け物だ。…手、貸せ」
流石のヒュエイも目の前の神に怖気づく。イシスは先程見えた剣の足を見た。
「あの剣…あれを奪えば全て終わるのか。間違い無い、あれは八振りの剣の一つだ」
イシスは再度状況を確認する。アスヒダ達は鼠殺しを組み伏せている。七人目は空に浮きその場に留まっている。トリロはリゲリと共に、エクリ達は。
「エクリ!?」
メテユは剣を低く構え走り出す。その目標はエフタであった。エクリは姿を晦ませる。いきなり視界に入るメテユの影にヒュエイは驚く。
「お前!?…そうだな、踏み止まれば死ぬ!」
コウジンはアルフィアに牙を剥き襲い掛かる。ヒュエイも再び次々とエフタの足を粉砕した。しかし、コウジンはアルフィアの結界に行く手を阻まれ体を大きく仰け反らした。アルフィアは結界を完全に敷き終えるとヒュエイとメテユを結界外に吹き飛ばした。
「まだだ!」
ヒュエイは再びエフタに挑む。しかしその結界の力は凄くいくら力を入れようが指先すらも中に入ることは出来なかった。
「蛇!ちゃんとやれ!」
コウジンは体の鱗を再び剥がし美しく輝く白い肌を更に輝かせた。その光は熱を帯びやがて赤く色を変える。アルフィアはその様を見ると眉を上げ興味深くその黄金の蛇を観察した。
「まさか、貴方様は…これは凄い」
アルフィアは力を込めると次なる衝撃を予想した。コウジンはアルフィアを睨み口を開く。
「この娘を傷つけることは許さんぞ」
コウジンはそう言うと体を弾け飛ばす勢いで溜め込んだ光を周囲に放ち姿を消し去った。トリロは片目を瞑り視界を奪われるのを防ぐ。その目を開くとそこには体を神々しく輝かせるヒュエイがいた。先程までその結界に拒まれていたのが嘘かの様にヒュエイはその結界を殴り壊す。
「…」
彼女は完全に憑依され今はコウジンのものとなっていた。コウジンに支配されたヒュエイはエフタの足を掴むと足場の外へと軽く放り投げる。アルフィアは目を瞑ると深く両手を握り合わせた。
その後アルフィアは遥か遠くに輝く青い月の様な球体に手をかざした後にそっとヒュエイに指を向けた。その青い球体に向かう光が筋を作りヒュエイを貫こうとその地面を蒸発させる。その場にヒュエイはいない。彼女は隠夜に落ちるエフタに飛び移ると腹を抉り内臓を引きずり出す。その横には布を掴み振り落とされまいとするメテユがいた。
彼は未だに目を滾らせ何度も剣をエフタに突き刺そうと試みる。しかしその刃はエフタの甲殻を貫くことは出来ずにいた。
「目だ…目なら」
***
大賢者アルフィア・アプロディは兄フィディラー王を慕いプロトン城の執政官として優秀に勤めプロトンの都を繁栄させた。プロトンの都とはフィディラー王が築いた最初の国であり現在はフェガリ領である。
彼は国を守り、民を守り、兄を護ったのだ。




