第十三章 リントン・ヴァレリーユ
ヨモツヘグイ
一角獣の王編
第十三章 リントン・ヴァレリーユ
鼠殺しはラキエとアスヒダと距離を取ると自分の垂れ下がる頭をもとに戻す。二人は呪詛を警戒しつつ構えを取る。
「しかしあのキラゴの騎士、大した者だ。マフェリですらあそこまで呪詛に合わせた戦いは出来ないぞ」
「時代は進んだと言うことです。キラゴの騎士はこの大陸の剣術を網羅しさらに昇華させる鍛錬を積みます」
腹をさする鼠殺しは怒りの表情を向ける。
「死にぞこないの爺共が、唯で済むとは思うなよ」
「来ます」
鼠殺しは刻印を念じると口を大きく開いた。アスヒダ達は何の呪詛かは把握出来ず身構えに全集中する。トリロはそれに感ずくと仲間に警告する。
「耳を塞げ、鵺の悲鳴だ!」
トリロの助言に応じた者達はそのけたたましい呪詛の影響を軽減することが出来たが、それに対処出来なかったリゲリは壁に衝突し落下した。
呪詛、鵺の悲鳴とは神話の大鷲のカラーザが使ったと言われる敵を混乱に陥れるものである。その悲鳴を聞いた者は最悪精神に異常をきたし我を失う。
「リゲリ!」
トリロは動転し七人目との対峙を止めリゲリのもとへと駆けつける。抱き起されたリゲリは舌を出し気絶していた。それをトリロは介抱する。それを好機と見た七人目は続けざまに呪詛を使う。
「くそ、この刻印は何だ?トリロ!」
「しまった!」
トリロはリゲリに気を取られその刻印に意識を向けられなかった。その呪詛は周囲の床を赤く滾らせる。それは溶岩であり一番近くにいたリントンは片足を負傷する。
「リントン大丈夫か!?」
エクリはリントンに肩を貸すとリントンの足の具合を見る。リントンは悲鳴一つ上げずに周囲を警戒していた。七人目は敵との間合いをその溶岩で稼ぎ新たな呪詛の使用で自身の回復を試みる。
(こいつら、呪詛の使用に何の躊躇も無い。足無し、元より死しているこいつらに、寿命を犠牲にする呪詛は使い放題と言う訳か。まずいな、あまりにも不利だ)
イシスは焦る。相手との力の差をここに来て理解し始める。足無しの呪詛使いとは生きた人間が手に負えるとは考えにく異質な存在である。故にトリロは短気決戦にこだわったのだと理解した。
「エクリ!リントンを下げろ。敵はこの蜘蛛だ!トリロ俺は行くぞお前も覚悟を決めろ!」
イシスは自身の後ろを覆うような暗闇の塊に振り向き短刀を抜く。その巨大な蜘蛛は折りたたんでいた八本の足を布から覗かせ場を威嚇する。
「何なんだこいつは」
たじろくイシスはトリロの決断を待った。七人目は次なる呪詛の使用に一手を掛ける。アスヒダ達は鼠殺しに受けは止め攻めに転じていた。そしてトリロの龍笛が鳴らされた。
「ヒュエイ!必ず殺せ!」
トリロの叫びと共に再び扉が開かれた。
「早く呼べっての、おらおら真打のお通りだい」
ヒュエイは左手を額にあてそれをゆっくり撫でおろす。すると神々しい黄金の輝きが部屋を覆う。トリロにとってそれは一つの賭け、ヒュエイを信じる他無かった。
「やはりここではこうなるか、ヒュエイ頼むぞ!」
「…まさか、トリロこれって」
「お前の言うキオウコウジンだ」
その黄金の光は形を成し翼をもつ蛇を象った。それを間の当たりにしたその部屋の者達は息を飲む。その中でもエフタは明らかに動揺を隠せず慌ただしく部屋の奥に逃げようとした。その姿は唯の小虫の様であった。ヒュエイはその神に纏われその逃げる蜘蛛を追う。
「エフタ様!不味い…こうなればこの呪詛で対抗する他無い」
ヒュエイの移動に合わせてその部屋の壁は瓦解し無限とも思える隠夜の闇に溶けていく。その行くてを阻む為に七人目は呪詛オクトバスの影を使用した。これはリュクノースの影と同様神話の剣の神オクトバスの幻影を作り出す代物である。その代償は命を数分単位で消耗する。
姿を現したオクトバスはヒュエイを纏うその何かに牙を剥き出しに襲い掛かる。その間ヒュエイは首根っこを強い力で掴まれるように足を止めざる負えなかった。
「何だあ?あっちも蛇じゃねえか、おいお前私に憑りついてんだぞ!負けんじゃねえぞ」
コウジンと言うその神は少し笑みをこぼすと背後から迫るオクトバスに翼を広げ威嚇する。その後空間が波を打つように歪みを見せると一瞬にしてオクトバスの背後に回りオクトバスの首筋を噛み切った。それに対抗するオクトバスは八振りの剣を召喚するとオクトバス目掛け放つのであった。
「神々の戦、俺は何を見ているんだ」
イシスはその光景を眺め唯立ちすくむしかなかった。八振りの剣はコウジンの皮膚を貫くとコウジンは牙を剥き出しに怒りの表情を露わにする。コウジンは更に空間を震わせるとイシス達の部屋は足場を残し完全に壁を壊し隠夜に包まれた。
「これが隠夜、大賢者アルフィアが目にした死後の世界か」
トリロはその空間に広がる闇と無数の光と巨大な四つの球体を目にした。一つは蒼く、一つは紅く、一つは白く、一つは黒くその巨大な塊達は鼓動をするように細かい光を吸い込んでいた。
「あれはセリニ様、紅く輝くのはリオス様か、なら白いものと黒いものは何だ?」
「何をぶつくさ言っている、そんな状況か」
イシスとエクリ達はトリロの側に駆け寄ると肩を揺らし七人目と鼠殺しの対処に迫った。
「すまない、この状況だからこそだ。ここは隠夜この足場から離れれば二度と現世には戻れない気負付けてくれ。それとエクリ、お前の部下のメテユはもう助からない覚悟を決めてくれ」
「何故だ!?」
リントンはトリロの言葉に声を荒げた。
「七人目の使用している呪詛はオクトバスの影、あれは使用者の寿命を数分で食い尽くす。七人目は自身の命を糧にはしていないだろう、おそらくはメテユの命を使用している」
「…なるほど、故に体を奪ったのか、しかし奴は足無し。寿命の心配などいらんだろう?」
イシスは疑問を伝えた。
「いやいる、アスヒダとラキエだったか。彼等はエフタに生命力を奪われてから姿を現せなかったのだろう?奴らは自身の生命力が枯渇すれば行動が制限される。あの呪詛は自身を糧にはリスクが高すぎる」
「くそ!」
リントンはエクリの手を解くと酷い左足を引きづり七人目のもとへと急いだ。
「リントン!」
エクリはその肩を再び掴もうとする。その手を払うとリントンは動かせないはずの足を激しく叱咤すると、涙と叫び声を撒き散らし走り出す。七人目は呪詛に集中しておりその怒号にも反応することは無かった。
リントンがメテユの肩を掴むとリントンは目を閉じ荒げた心を静めた。
「返せ、メテユはヴァレリーユの光だ」
リントンはそう言うと七人目はようやっとリントンに気付く。
「!?」
七人目はメテユの体を離れリントンの体に引きずり込まれる。それはオドを扱う上でのもう一つの技法、放ち分かつ手段の逆。寄せ取り込む技であった。彼はこの瞬間にその技法を編み出した。
七人目がリントンに移ると同時にオクトバスは姿を消しそこにはコウジンのみが残った。
「兄様!私など」
メテユは理解していた。彼は体を奪われている時間その目と耳で状況を理解することは出来ていたのだ。
「メテユか!これはどうなっている!?」
エクリはメテユに焦り尋ねた。
「兄様の体に奴が憑りつきました!どうすれば」
「リントン!」
エクリはリントンの体を揺するとリントンはそのまま体を崩し両膝をつく形になった。その目は虚ろで生気が失われた様に動かない。
「…のむ、エクリ」
リントンが口を開く。聞き取ることが出来なかったエクリは尋ねた。
「リントン!無事なのか?聞き取れない」
「エクリ…ヴァレリーユを頼む。お前は今日から…」
「今日から?」
リントンは体を奪われまいと七人目に抗う。その力は七人目の手に負えず憑りついた意味を成さずにいた。それでもリントンの体全ての自由を奪えない訳では無かった。
「頼む、必ずヴァレリーユ復興を成してくれ…エクリ」
「何を言っている…どうにかならんのか」
エクリは焦る気持ちのみで何も出来ない自分に歯がゆい想いを唯募らせた。七人目はリントンの体から逃げ出そうにもそれもリントンに阻まれる。
「エクリ、いや…兄さん」
リントンはそう言うと左腕を捩じりはじけ飛ばした。エクリはいきなりのことに動揺する。
「兄さん、今日からあなたはエクリ・オスノ・ヴァレリーユ。ヴァレリーユの当主だ」
そう言うとリントンの首は勢いよく弾け回転を絶やすことなく隠夜の闇へ落ちて行った。エクリは唯震え、メテユは気が狂ったように叫んだ。
***
足無しを従えた暗転のヤワタリは足無しの攻略を行うヒプロの騎士達に焦りを感じ、対抗策を考えた。それを阻止したのは狂獣狩りのダイラ。かつて神話の域にてリュクノースが指揮いたカルディアの狂獣の復活に対し。徒党を組み対抗したと言われる。
しかし、ダイラは足無しに体を奪われ他界する。彼は強かった。しかしその固い毛革は足無しには意味を無さなったのだ。




