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ヨモツヘグイ  作者: うぇどwed
一角獣の王 編
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第三章 七人の足無し

ヨモツヘグイ


一角獣の王編


第三章 七人の足無し




 エクリ・オスノとリントン・ヴァレリーユはカドルの森、霊峰セリニの南方にある七人の足無しの狩り小屋を目指す。


「燃えるようだ、朝露に濡らし続けなければ次期に孵化するぞ」


 リントンはぶつぶつと焦りを主張する。それに神経を苛立たせるエクリは言う。


「分かってるなら、朝露に浸し続けろ。どうにもならんことをいつまで言うんだ」

「でも、見てみろ益々赤くなるのだ!」

「…剣を抜け、今すぐ殺すぞ」


 エクリはリントンから紅い真珠を奪い取ると目も合わせず先を急いだ。彼等は幼き頃より互いを意識して育った。リントンは華族の名家ヴァレリーユ家の跡継ぎとして、エクリはロエオスに剣の才能を見出されて孤児としてヴァレリーユ家に引き取られた。二人は言わば兄弟とも言える。それ故エクリのリントンに対する劣等感は深いものであり、リントンはそれを理解出来ずにただ対立するエクリといつも喧嘩をするのである。それでも二人の絆は固かった。プラテイユによるシュネイシス派狩りの際、ヴァレリーユ家は粛清され二人は家族を殺されたからである。


「見えた…ぞ、あれが狩り小屋?」


 エクリが眉を顰め見つめる先にはおおよそ小屋とは呼べぬ威圧する程の屋敷が聳える。


「ここが七人の足無しの狩り小屋か、うむでかいな」

「小屋では無いだろーが何言ってんだお前は、くそ、道を迷ったか?いやそれは無い、間違いなくセリニ川の西を上って来た」

「人気が無いな、中に入ろうお前も疲れたろう」


 エクリは呆れるが、どうもしようも無い為無言で屋敷の扉を開いた。

 埃も無い良く磨かれた床、丁寧に洗われ染み一つ無い絨毯やカーテン。ドアノブのような金具の類は曇り一つ無く煌めいている。


「すまない誰かいないか」


 リントンは何度か尋ねるが怪しく薄暗いそのロビーに人が現れることは無かった、その異質に気付きつつもエクリは返事の無い館の中に進む。


「まずくは無いか?ここはカーグ領、ここはどう考えてもその華族の屋敷だろう」

「いや、ここは…狩り小屋」

「違う館だ」


 会話のかみ合わない二人はいつものことのようにお互い気にかけもせず屋敷を徘徊する。


「いないな、誰も」

「おい見てみろ紅い真珠の熱が冷めて行くような」


 リントンは少し慌てエクリの前に袋を広げて見せた。


「…先程迄の焼けるような熱は無いが、少し安定期に入ったのであろう。俺も詳しくは無いが孵化前に幾度か熱が鎮まると聞いたことがある」

「ふむ、よくわからんなドラゴンと言うものは」

「何にせよ今産まれてしまったら、アリアス様に顔向け出来んこのまま安定し続けてほしいものだが」


 二人が紅い真珠を不安に眺める中、窓の外に陰りが差す。


「この森は危険だ、どうも怪しい屋敷だが今夜はここで過ごすのが無難か」

「あぁ…この先休息出来る刻など予想も出来ないからな」


 エクリはまた悪い癖のようにリントンを横目で見ると揶揄う。


「お前はすぐ休めるさ、お前の剣技は幼子の遊戯のそれだ。すぐ死ぬ」


 無言でエクリの胸を軽く押しのけるとリントンは向かいの部屋へと入る。少しその姿を目で送るとエクリもその向かいの部屋へと紅い真珠を持ち入るのであった。



***



 何刻程経ったか目を覚ますと真夜中であった。エクリは頭を叩いて視界のぼやけをはっきりとさせた。


「随分と深く寝ちまった。敵の罠ならもう死んでいるぞ」


 自分でも驚く程熟睡したエクリはベッドから足を下ろした。それは無理もなくこんな蚤も虱もいない豪華な寝具に包まれるのはヴァレリーユ家を出てから一度も無かったのだ。シュネイシス派の残党の中で厳しい旅と訓練を続けて来た彼は平和だったあの頃をひと時とは言え思い出してしまった。


「くそ、いつ眠りについたのかも思い出せない。ここは客人をもてなす寝室か?…!?」


 エクリはその部屋の異常さに気付き身を強張らせた。


「ランプが灯っている」


 それはやはりこの館に誰かがいることを示す事象であった。


「リントン」


 エクリは剣を持つと向かいの部屋に急ぐ。勢い良く開いた扉の先には誰もいなかった。


「リントン何処だ、返事をしろ!」


 微かな人の気配も逃さぬようエクリは神経を尖らせる。表情は戦闘態勢に変わり余裕一つない眼光をより強くする。


「…何だこの匂いは、下の階か」


 踵を返しジウラ暗部の俊足の地の蛇の構えにて壁を蹴り縁を飛び越え匂いがする広間の扉を音も立てずそして素早く開ける。


「誰だ!?」


 口の中の食べ物を撒き散らしながらリントンは座る椅子を蹴飛ばし剣を構えた。


「はあ?お前何してる」


 エクリは剣を鞘に納めると少し眉間に皺を寄せ怒りを滲ませた。周囲の状況を確認すると広間のテーブルに豪華な食事が並ぶ。スープや焼いた肉からは食欲をそそる湯気が立ち、葡萄酒は酸味の良い香りを漂わせる。広間を彩る燭台の灯は食材の魅力を際立たせていた。


「食ったのか、この馬鹿が」

「まあ待て、毒は入っていない。それに何刻も待ったしやはりこの館には人がいない。警戒する必要も無いではないか」

「お前の結論の出し方は根本的におかしいんだ。まず俺に相談してから動け、俺まで巻き込まれるだろうが!」


 エクリは憤怒を抑えられず目の前の椅子を蹴り飛ばした。


「取り合えず毒見だけでもしてみろ、罠かどうかも分からないだろう、何度も死にかけて毒の体制をつけて来た技術はこういうところで使うんだよ」


 リントンはエクリの怒りにも動じず、椅子に腰かけると葡萄酒を旨そうに飲み干した。


「こいつは…本当に頭に来る野郎だな」


 と言いつつエクリもテーブルの肉に手をかけ匂いを嗅ぎ口にそれを運んだ。


「まあ、罠だろうな。いくら何でも異常だ、それは認める」


 リントンがそう言うと、エクリは諦めて笑ってしまった。

 しかし、スープをを口に入れたところでエクリは再び並べられて食事を見渡した。


「お前この食事を見つけ何刻程経ってる?」

「さあな、この館を一周は見て回ったか。結構経ったがな罠にしか思えん故な」

「冷めているな…」

「それはそうだ、贅沢を言うな」


 エクリは今取ったスープの皿を持ち上げた。


「見ろ、この冷めたスープに違和感を感じないか?」

「さあな、カーグ領の華族の味は初めてだ。旨い」

「馬鹿野郎、湯気が立っているだろう。他の料理全て匂い立つ程に」


 リントンは食事を止めるとテーブルを見渡した。


「死者の食事…!死んだのか俺達は!?」


 リントンは吐き気を催しその場に吐しゃ物を撒き散らす。


「紅い真珠の熱が冷めた頃からやはりおかしかったのだ、取り込まれている」

「足無し…世迷い事ではなかったのか」

「この地域の伝承は知らん、しかし七人の足無しは確実にこの館にいるぞ」


 たじろぐ二人のその会話の後に、微かな苦しみの混じる笑い声が複数広間に響いた。



***



 伝説の類には人々を楽しませるように着色する物語もあれば、事実に近い物もある。事実に近い物は傾向として人々を怖がらせる。その怖い伝承の一つに目玉盗みの蜘蛛エフタの話がある。エオニオテロスに羽化しようとした蜘蛛、それは黒い目玉を集め視界を盗み命を紐づけた。この伝承の恐ろしい所は、この呪われた蜘蛛を討伐に出かけた各領の名だたる勇士達が一人一人殺されるだけの話で終わる。その蜘蛛がどうなったか何も語られないのである。


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