第二章 エオニオテロス
ヨモツヘグイ
一角獣の王編
第二章 エオニオテロス
海を走る成り損ないのブダラ、この世の未来を描きえる知識を有する玉蟲の大賢者スカラベ、大陸の傷跡を記録する巨石の師父ヒプロ、西より司る道指すマイム族の長オドス…それらは神と臍の緒で繋がりその神の意思を継ぐと言われる。
その中、暗天のヤワタリ程その意思に反するエオニオテロスはいない。
***
ガレル・ぺクスのもとにカーグ領正規軍リゲリ騎士団の小隊が同盟の為の懇願の書状を届ける。
「フテローマ騎士団長よりアツァナの蛇デュウム様の同盟の為の懇願書をお持ち致しました」
「うむ、随分と早いな」
リゲリ騎士団はキラゴ・カシナラの名誉の儀礼の後、アラフ・クレイスの勇士を称える儀礼を施した。
「お返事は何刻程で可能でしょうか?無礼は承知の上、一刻を争う状況故お許し願いたい次第であります」
「安心しろ、アルケイスト様より決断はいただいている。我がクレイス領はカーグ領との同盟を結ぶ。しかし、プラテイユ・ジウラが存命の内のみそれ以上は叶わん」
「デュウム様の書状にもそのように記されております。この戦での利益損益の割譲も一切無し、目的遂行の後導きの目の重二合まで持ち越すとあります」
ガレルは少し目を反らし考えると静かに頷いた。
「色々と危ういが、カーグ領が裏切るなど…キラゴ・カシナラ、いやまず無い」
ぶつぶつと独り言を言うとアルケイストの決断を信じその書状に印を押した。
「…しかし、レビテラ・カーグ様の署名が見当たらないが、大丈夫なのか?」
「…それは、知りえません」
「ふむ、フテローマに伝えてくれ。お互い苦労するなと」
ガレルは彼等を労うとリゲリ騎士団は休むことなく帰路を急いだ。
***
ライザー達は食事も程々にウラフェス・クレイス奪還の作戦を綿密に練る。
「成程、それならば一筋に光明が繋がる気がする」
セマは頷くとライザーを見る。ライザーも口に笑みを浮かべ頷き返した。
「ようするにだ全てはライザー、君にこの西の国の命運はかかっているということだ」
「西の国…」
「そうさ、西の国だよいつまでもここは、僕はそう思っているよ。何せ三戦神の加護が揃う土地なのだからね」
ライザーは目を閉じアラフ・クレイスに祈った。
「明日の朝旅立ちます」
「おいおい、相変わらずだな。出来るかそんなことガレル様に一報を入れてからだ」
セマはライザーの肩を押し付け椅子に座らせると。頭を掻いた。
「ディケオス様、俺も同行しますよ。危なっかしいんだこいつは」
***
白き蹄の城の城下は時が止まった様に皆が空に在るそれを息を飲み見続けた。
「ドラゴン…西の王の龍」
セリニ神殿の神官は不吉な想いを胸にしまい月の目セリニに祈りを捧げる。天空の宝物庫を繭として羽化したそれは黒い羽毛に覆われ鋭い嘴を尖らせる巨大な龍であった。
ギアは中のそれと対峙する、漆黒のそれは自身をエオニオテロスと言う。
「あなた様はエオニオテロス…ヒプロ様ですか」
それは首を横に振り違う意思を示した。ギアは黙り考え込むと今まで読んだ書物を振り返る。底の神の禁書にある精霊の名を思い出し身を強張らせる。
「暗天のヤワタリ…様」
「そう、私はヤワタリ、足枷をされヒプロ共に封印されしエオニオテロス」
黒い羽毛の龍は解放された気持ちを表に出し切る様に大きく咆哮した。その震える喉元にはギアだった人形の姿が見えた。ギアは傀儡の体に生命を宿す赤い欠片の浸食を受け入れ。ヤワタリの封印を解く媒体となったのである。
「…なんてことを」
混乱が渦巻く城下はプラテイユの予言を信じ歓喜する者と、直感的に不吉を感じる者達でぶつかり合っていた。
プラテイユは意識が断片的に進む中、自身の体が唯の屍と化したことを悟った。
「あの夢はやはり予言だった、そう私は知っていたのだ。西の王になど成れないと」
苦しみが綺麗に無くなった彼は狂気が払われ清々しい青年の頃の様な面持ちになっていた。いや、彼にもう表情は無い、肉体すら失われていた。
「正直後悔しか無い、奴らに憚られた。あの苦痛を味合わせこの俺の選択肢を狭めこの結果。…いや、全ては俺の選択した道か」
俯く彼は涙を流し左手の拳を強く握り絞めた。
「…ギア、行こう。互いに魔王と成ろうぞ」
彼の目には光の聖の意思が微かに宿るが、しかしそれは陰りを見せているとも言えた。
その日より歴史上、白き蹄の城は黒き翼の城と呼ばれるように成る。その城には足無しの王プラテイユと暗天の黒龍ヤワタリが住まう魔の城として恐れられる。
***
三人はガレイに事の話を終えると旅支度を整え、ディケオスの家の奥にある古い扉を開ける。
「さぁ行こうか、この迷宮の地下に眠ると言われる神の剣を手に入れに」
ディケオスは稀に見せる真剣な表情でそう言うと短刀の位置を気に掛けた。
「ディケオス様はこの奥には幾度か足を踏み入れたことがあるのですか?」
「若い頃兄とエルフを探しに降りたさ」
ライザーは神話のアラフ・クレイスの得物牡鹿の剣エルフの名に少し身震いをする。
「父上から聞いております。今は魔獣がその剣を手にしていると、この地下深くで」
ディケオスは頷くと、足を踏み出した。
「君なら取り戻せる、君はアツァナ、アラフ・クレイスの勇士を継ぐ者だ」
三人は、黒き鉾の城の地下に続くノスフェラトゥ・ウラネオス・リオラの迷宮とかつて呼ばれた墓地へと歩を進める。
***
カンザの民が管理するフィディラー大陸の歴史を記すヒプロの書が少ない時期がある、それは古い時代である。アラフ・クレイスが治め築いた西の王の城、その最初の名は失われ、その次期より黒き鉾の城と呼ばれるようになった。かつてこの城も魔が巣くう城と恐れられた。しかしそのことを知る者は少ない。巨石の師父ヒプロはそれを知る故に伝承をしないことを選んだのだ。歴史を繰り返さない為に。
それも無駄に終わろうとしている。




