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ヨモツヘグイ  作者: うぇどwed
キラゴ・カシナラ 編
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第二十二章 灼熱を帯びた吹雪

ヨモツヘグイ


キラゴ・カシナラ編


第二十二章 灼熱を帯びた吹雪




 アガス・フィルアは勢い良く燃え盛る自身の体に戸惑いを見せつつ火を消す方法を探った。体をのたうつ炎はそこらの獣を燃やすそれとは比較にならないものであった。まさにカルディアの狂獣の強固な体毛は火への弱みを犠牲にしていたのである。

 自身の炎により目は渇き、視界は悪くなる一方、しかしアガスはあらゆる死を乗り越え戦場を渡り歩いて来た猛者である。過去に体を火だるまにされた経験など幾度とある。この場合の対策は二つ、海に身を投げるか呪詛を使用する、しかし視界の不良と一瞬の動転により海岸の位置は掴めず呪詛を使用するには自身の生命力が人一人分を切った状態。選択は迫られていた。


(姉さん…今あなたは何を感じていらっしゃいますか?この古き目でこの光景をご覧にいただけますか?)


 アガスはひたすらに願った。許しを乞うために。



***



 豊かなトリバー領の美しき森に敷かれる豊穣の女神の名を与えられた湖リオス湖、そこに暮らす初孫を優しい笑顔で抱える女性がいた。彼女は右目で時折見る契りの法の迷目と呼ばれる視界共有により若年の頃から死を意識して生きて来た。時には地獄のような戦場を駆け抜け、時には寝込みを襲われつがいの四肢が損なわれる。痛みまで共有することは無いにせよその恐怖は平和なトリバー領に住む少女には酷な物であった。

 心を病むこともあったが周りの人々に支えられ彼女は強く生きることが出来た。つがいの自身の命を燃やす生き様に対抗するべくリオス神の様に慈悲を他者に向け命を育む人生を選んだのだ。

 皮肉なことにアガスが斑馬の剣ロゴアで他者の命を奪うことにより彼女の生命力は強くなり他者を助ける糧となった。夜も眠らず傷を負った者に医療を施し、書物を搔き集めては医療を学んだ。

 いつしか彼女は母神リオスの化身とも呼ばれるようになり、人々に幸せを施す聖女として称えられ、自身の幸せも育んだ。そんな彼女であったがやはりつがいの不幸を無視し続けることは出来ず毎日リオス神に祈りを捧げ続ける。彼女は自身がリオスの化身等とは信じてはいなかったのだ。何故なら彼女のつがいを救えない者が慈悲深き豊穣の女神の化身のはずが無いのであるのだから。



***



 「姉さん、ここで終わりだ。もうこの先にはセリニの墓標しか無い。すまない、すまない。しかし俺は一矢報いるぞ、あの女王を道ずれにしてやる。龍の女王と一緒に逝こう姉さん」


 アガスは焼けただれた盲目な目に映る、ぼやけても尚美しく紅に輝く鱗を捉え覚悟した。


「何故?」


 アガスの古き目に湖が広がる。驚くアガスの耳の奥底に女性がそう語りかけた。


「…誰だ」


 湖を見つめるその女性は問いかけに答えるアガスに戸惑いつつもリオス神に祈りを捧げ抱える孫を娘に手渡した。


「やっと出会えましたね私の半身。必ずこの時が来ると信じていました」

「お前は…やめろ、違うお前は俺の姉では無い!」


 アガスは火傷の苦痛と同調するように感情を乱し否定した。


「恐れないで、あなたのお姉様のことも調べたは、毎日弔い続けているの。今日の奇跡を信じればリオス様はその願いも受け入れてくれる。彼女はきっと報われてリオス様のもとにいるはずよ」


 アガスは叫んだ。


「お前に何が出来る!」

「ならあなたにも何も出来ないわ」


 アガスは膝を落とし紅の鱗を眺める。


「私はあなたを救いたい」


 アガスは知っていた、自身のつがいが姉で無いことを。


「長い苦痛でしたね。私はそれを見て来たのよ」

「…」


 アガスは肩を震わしロゴアを握りしめた。


「見て来た?何を?この俺の苦しみを見て来たとぬかす!ふざけるなよ!」


 アガスはこみ上げる笑いを止められるず口を手で覆う。


「あなたは救われる、私が側にいてあげるわ。信じて」

「戯言をぬかす、傍観者風情に何が出来る。これは復讐だ」

「誰の?お姉さまはそんなことを望みはしないわよ」


 アガスは目を見開いた。


「俺のお前への復讐だ、売女め」


 アガスは自身の命を全て燃やし呪詛リュクノースの影を使用した。獣の顔で歪んだ表情には憎しみが渦巻いていた。



***



 ジュウザとロエオスは潮時を理解し燃え盛り狂ったアガスを目にしその場を離れた。


「巫女様が目覚めたか…懺悔は死をもって必ず…」


 ロエオスは複雑な表情と共にそう呟いた。


「ほざくなよ?死で償わせるほどキラゴの騎士は甘くはねえ、大隊長が許すわけがねえだろうが」


 ジュウザは少し嬉しそうにロエオスにそう伝えた。



***



 その時龍の巣に再び雪原の影が現れた。


「フィディラーめ、我等を縛るこの呪いを施し何をせんとする」


 その言葉は現実として龍の巣にいる全ての者の耳に届いた。リュクノースは微かなアガスの命を糧に目の前のルァブの火球に強大な力で対抗した。


「何だあれは!?」


 ゲブは戸惑いつつもその恐怖を凝視する。戦場となった龍の巣にそれは君臨していた。


「雪原の影」


 その影は龍の巣を瞬く間に白く染め上げる。リュクノースの幻影はこの戦いの終止符としてそこに存在していた。



***



 天より舞い降りた少女アウロに若きフィディラーは恋をし妻とした。彼女はフィディラーが存命の内には子を宿さずアプロディの血の乱にてフィディラーが他界した後に子を宿したと言う。

 それと同じくして底の呪詛使いリアクと月の聖詛使いマギアが研究した呪詛とは異なるものがフィディラー大陸の呪詛として今も存在している。それを理解出来る者は偉大なエオニオテロスか神話の神々しかいない。


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