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ヨモツヘグイ  作者: うぇど
キラゴ・カシナラ 編
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第十九章 紅い結晶のルァブ

ヨモツヘグイ


キラゴ・カシナラ編


第十九章 紅い結晶のルァブ




 巫女の世話役の二人とペヘリ・カプシコは龍の巫女メムの手を取り龍の巣へと足を踏み入れていた。


「メム様、次期にルァブ様のもとへ着きます。どうか彼女のお力添えを嘆願致します」


 世話役の緑装束の侍女はメムに伝える。メムは整備された下り坂を無言で降りながら笑顔で答える。ペヘリは松明を掲げ不安な顔でその笑顔を確認した。


「前を向きなさい。あなたはメム様の護衛です、よそ見等している余裕などないはず!」


 片方の橙装飾の侍女が叱咤する。ペヘリはそれに驚き足を前に進める。しかし彼にもキラゴの騎士としてのプライドがある。巫女の世話役に命令されることに少し憤慨していた。


「…なんなんだよ、この二人は必要なのか?未だに必要性を感じない…」


 ペヘリは小さな声でつぶやく。その肩を世話役の一人が軽く押し急かすように伝えた。


「暗闇でも道は把握しています。早くなさい!」

「…俺は知らねーんだよ、躓いちまう」


 ペヘリは溜息まじりに先を急ぐのであった。



***



 海上ではカーグ軍とジウラ軍の衝突が始まっていた。アガスが墓標の呪物を使用した際混乱が生じ両陣営が不用意な攻撃を仕掛けてしまった為である。

 ジウラ軍はカーグ軍の左舷からの奇襲、或いは軍船団の硬直が出来ればそれで良いと言う作戦であった。作戦目的はカーグ軍では無くアガス・フィルアとアリアス・ジウラにあった。その作戦はジウラ軍に知る者は少なくカシナラ港で密かに紛れた暗部の者達中心の作戦であり、その中には学術都市マギアの者もいた。


「何をしているんだ我が軍は、ブダラ海流を出た後は撤退命令を待つだけで良いはずだったろう」


 ジウラ暗部の楔と言われる部隊の隊員ゲブがそう嘆くが、鳴り響く大砲の音と空を切る矢の音に搔き消されていた。

 ゲブは五本目の短刀を装備し終えると小さな船倉内にいるジウラ軍兵士を静かに眺める。こちらに気が向いていないのを確認するとジウラ軍の甲冑を静かに脱ぎ暗部の装備に完全に切り替えていた。


「埒が明かない、この暗い船倉で時を成したところで作戦がうやむやになるだけだ。恨むなよ」


 二本の短刀を抜き構えたゲブは目の前の兵士4人の喉元を瞬く間に切り裂いた。そのままゲブは甲板に上ると舵持ち以外の数を数え胸元のナイフを彼等の急所に投げとばした。

 舵持ちの兵士は腰の剣を抜くと暗部の装備に気付き次の行動に躊躇う。


「何故ジウラ暗部が裏切る!?」

「勘違いするな、お前がジウラ兵だからこうなるのさ」


 ゲブは死体の間をすり抜ける毒蛇のように剣を握る兵士の背後を捉えた。


「今からプラテイユ様の命令をお前に与える。この船をジアブロス島へ運べ、ただそれだけだ」

「何を…、この砲弾の中唯の漁船がたどり着けるわけがないだろう」

「あほか、よく周りを見ろ。守るものなど何一つ無いだろう。この船が沈もうがお前が死のうがプラテイユ様の命令に背く理由になるのか?お前はやることをやれ、それがお前の役目だ」


 それを聞いた後無言を貫くとそのジウラ兵は錨を上げる。そして舵を握り彼は呪詛を使った。


「どうせ俺も殺すのだろう?なら飛ばすぞへりにでもしがみついておけ」

「風を呼ぶか、運がいい。呪詛など誰でも施せるものでは無い、名を聞いておく」

「名か…どうせ殺すなら聞いておけ、俺の名はロエオス、ロエオス・ルターだ」



***



 龍の巣の底は到底人間がとどまることの出来ない瘴気と熱で満ちていた。


「も、もう無理だ。これ以上は進めないよ」


 ペヘリは咳き込みながらそう言うと足を止めた。そんなペヘリの背を優しく撫でる者がいた。


「巫女様…」


 メムはペヘリに引き返すように顔で指示した。苦しむ侍女二人にも優しい笑顔でここまでで良いと仕草で伝えるのであった。


「メム様私達はこちらで待機しております。ルァブ様のもとへどうか」


 メムは頷くと苦しい表情など一つもせずに熱気の中に入っていった。彼女の影は激しい陽炎により人間の形を失う。儀式衣装は焼けただれ歩を進めるごとに彼女自身しか残らず、皮膚は火傷と再生を繰り返し若々しい肌が痛々しく露呈した。


「巫女様、あんなひどい状態でも大丈夫なのか?」


 ペヘリは心配になり橙装束の侍女に尋ねる。


「あれが龍の巫女の仕事、わかりもしない者が口を開くな」


 何故か罵声を浴びせられるペヘリは直に慣れて来たのか彼女達の顔立ちに何か思うものがあった。


「…結構可愛いですね」

「…は?」


 二人の侍女はペヘリに対し嫌悪の表情を見せるのであった。



***



 地熱で赤色に岩が火照る龍の底には青黒い龍と赤黒い龍の群れが喉を鳴らし洞窟内を揺らしていた。その先にある龍の玉座で眠る艶めかしい紅の龍が紅い結晶のルァブである。


「…」


 ルァブは一人の少女に気付くと首を上げ羽を広げながら周りのドラゴンを押しのけその少女に喜びを伝えた。周りのドラゴンも親であるメムを囲む。


「…」


 メムは目を閉じると家族に想いを伝え、それを感じ取ったドラゴンはメムをルァブの背に乗せると次々と咆哮をこだまさせた。それは熱で捻じ曲げられ、底の神を彷彿とさせる恐怖を感じさせるものであった。


「きゃあ!」


 侍女二人は思わず身をかがめてしまい耳を塞いだ。


「な…、ドラゴンか?いつもの鳴き声と違う」


 ペヘリは目を見開くと暗闇からものすごい風圧が次々と自身を通り抜けるのを感じた。身の危険を感じた彼は侍女二人を抱え込みながら龍の巣の入り口へと急いだ。


「離しなさい!どの分際で私達の体に触れているのですか!」


 緑装束の侍女がペヘリの頬を無理な体制で叩き続けた。


「巻き込まれたら死ぬ!」


 龍の巣は砲弾の銃口のそれのようにドラゴンを勢いよく弾き出す。その勢いは凄まじくペヘリは上手く開いていた穴を見つけそこに二人を押し込み自身もその二人の間に体をねじ込んだ。


「貴様!」


 二人は本気としか思えない力でペヘリを外に追い出そうとする。しかし、彼も供給班とは言えロエオス率いていたキラゴの騎士ジアブロス島中隊の立派な一員であった。か弱き腕力に負けることは無くあらゆる部位に顔を埋めた。彼は少し嬉しそうであった。



***



 ドラゴンの戦士リゲリはフィディラー大陸全土でも信仰の高い神である。彼は誇り高き戦士であり、腐龍の戦において龍の女王リヴァリィサに並ぶ功績を上げた雄の龍で唯一の神である。彼の鱗は黒を通り越し灰色であったと言う。故に炭龍リゲリと呼ばれることがある。彼は最速であり風と友であったと言う。


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