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ヨモツヘグイ  作者: うぇど
キラゴ・カシナラ 編
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第十八章 舌を抜かれ目を潰されたメム

ヨモツヘグイ


キラゴ・カシナラ編


第十八章 舌を抜かれ目を潰されたメム




 ユニコーンの角とは生命を宿す物であり、ユニコーンはそれを奪われると生きることが出来ない。故に固く易々と折れてしまう代物では無く、太古には武器として使用される程の強度を保つのである。

 薬としての角の生命の力には鮮度が重要であり、薬として活用するならば日数が経つ程効力が失われてしまう。故に加工が必要であり、その技術は底の塔のマギアの技術として秘匿されている。しかし、マギアの技術は効力を維持する保存期間の延命であり、いずれは薬の効力を失うことは避けられない。



***



 イシスはトリロの先導により自身の得物である短刀を手に入れていた。


「よし、これで用は済んだな。ヒュエイのもとに行こう」


 トリロは龍を殺せる程の猛毒が塗られていると思われる短刀を眺めそうイシスに問いかけた。イシスも念入りに短刀を確認すると顔を上げた。


「いや、まだだ。次は巫女のもとへ」

「おいおい、何をする気だ?その毒で巫女様を襲う気か!」


 トリロは食い気味に問い詰めるとイシスは冷静に切り返した。


「何故そんなことを、これを見ろその逆だ」


 イシスは柄の先を回して見せ、蓋が外れその中には小さな袋がある。


「カーグには無い、ましてやキラゴの騎士なら猶更だ。これが解るか?」


 トリロはじっと考え口を開いた。


「ユニコーンの角、万薬」


 そう呟きトリロは頷くと巫女を保護している場所へイシスを誘った。



***



 龍の巣と呼ばれている場所は山岳に開いた大きな穴を指すが、その周辺一帯をキラゴの騎士が防衛拠点として龍の巣と呼んでいる。その穴の底は血別の山脈の火口に巣くうドラゴンと同じく地熱に暖められたドラゴンが眠っている。ドラゴンは高温でしか睡眠をとることが出来ないのである。

 その龍の巣には体表が赤黒い鱗に覆われたドラゴンが眠り、彼女を女王としコロニーが築かれている。龍の女王は雄のドラゴンが体内で作り上げる栄養価の高い吐しゃ物しか口にせず。その食物で育てられた雌のドラゴンが女王となることが基本と言える。勿論長い歴史の中では例外は存在するが、ドラゴンのコロニー形成では大事な形態と言えるであろう。例え紅い真珠と呼ばれる雌の卵から産まれたとしても、その手順を踏まなければ鱗も紅に染まらず、人間も魅了する程の艶めかしさは得ることは出来ない。



***



 龍の巫女メムは夢を見た。潮の渦を目の前に死を眺める。その死者達一人一人の思いを考え彼女は感じていた。官能的な何かを。

 アツァナの蛇デュウムは何かを感じ、ふと顔を上げた。


「そうか、目覚めるか…わしの予測もことごとく外れるのぉ。随分と廃れたもんじゃわ」


 一つ目蛙のヴァトラスはその独り言に反応し、こう伝える。


「あえ?…夜明けですだ。誰だって目が覚めるだよ」


 デュウムはニコリと笑うとそれはそうだと頷いて見せた。



***



 アガスはジュウザの怒涛の突きを躱し、ロエオスの振り下ろす剣を受ける。二人の剣技に押され傷を負えば、そこらに転がる死体にロゴアを突き刺す。まだ息のある者に突き刺せば湯気が立ち上っていた。


「反転した」


 アガスは表情を変え、攻撃的な目つきになると。呪詛の刻印を思い浮かべた。


「ジュウザ!息吹きだ!」

「おうよ!」


 アガスの真正面から攻撃を仕掛けるジュウザは足さばきに変化をつけ、翻る様に攻防位置を変えた。それに合わせる様にロエオスはアガスの足を狙う。アガスは地面に目をやる為口から吹き出す猛烈な吹雪はアガスをも巻き込み吹き広がった。


「こりゃ冷てーな!」


 拡散した息吹きにそれほどの殺傷力は無く多少のダメージはアガス本人にも危害を加えた。その怯むアガスに対しジュウザは歯を剥き出し笑顔を見せた。


「随分とへたれたなあ!どうした!どうしたあ!」


 ジュウザは胴体を縦回転させ剣を分銅にさせ自身の踵をアガスの脳天に振り下ろした。後頭部に衝撃を受けたアガスは一瞬意識が飛びかけるものの歯を食いしばりそれに耐える。火花が散る意識の中でリュクノースの黒爪の刻印を思い浮かべると力強く握りしめるロゴアを周囲に薙ぎ払う。その刻印をも読んでいたロエオスとジュウザは自身の剣技で黒爪を捌くのであった。


「ジュウザ、奴のスタミナは俺達の比じゃない。はしゃぎすぎだ昔の二の舞になるぞ」


 ロエオスはアガスから視線を外さずそう言うと手の動きで合図した。その合図はまるで言葉の意味とは逆の指示であった。ジュウザはそれを確認して大きく深呼吸をする。


「キラゴ・カシナラの名誉の為に」


 ジュウザはその言葉を皮切りに全体重を前方に投げ飛ばすようにアガス目掛けて突進する。ロエオスはそれに合わせるように剣を地面に突き刺し両手を広げた。


「キラゴ・カシナラの名誉の為に!」

 ロエオスがそう叫び応えると、アガスは虚を突かれたような表情を見せた。アガスはロエオスの言葉を信じカーグの双肩の怒涛の攻撃に間が出来ると油断したのだ。全身の筋肉に緩みがうまれたこの刹那にアガスが取れる行動は一つしか無かった。


「武神カウリオ・キノスの愛弟子、その名に相応しいキラゴの騎士に育ったな」


 アガスはロゴアを下ろしジュウザの剣が心臓を貫くのを許した。その衝撃でアガスの体は後方のロイのもとへ吹き飛ぶ。それをロエオスは羽交い絞めにするのであった。


「お前の攻略はこの数年間研究し続けていたさ。唯やられたままで終わる俺達ではない。」


 ロエオスはアガスを動けないようにさらに力を強めた。

「斑馬の剣ロゴアは他者の生命を吸い留める、その力は剣を使用する者へと還元される。その剣で吸った命の分だけお前は蘇ることが出来るんだ、ならばその力が尽きるまで殺し続ければ良い」


 ジュウザはその言葉に続けた。


「心の臓を剣で貫き続ける。ようはこの状態をロゴアが枯れるまで岩の如く不動でいれば良いだけなんだよ!」


 アガスは笑う。それを遮る様にジュウザは腰の短刀でアガスの喉を掻き切った。


「リュクノースの息吹きも黒爪も使わせねーよ。ましてやリュクノースの影はこの状況では使えないだろ」


 それでもアガスは笑みを浮かべた。


「煽るな!ジュウザ!」


 ロエオスはジュウザに叱咤する。その状況でアガスは肩を震わし小刻みに笑う。


「…落胆させるなよカーグの双肩…俺の体に刻まれたそれらを知り尽くしているそぶりだが、それではまるで滑稽の極みでは無いか。お前らは理解していないのだ俺の愛の深さなど」


 アガスは目を閉じ呪詛を念じた。ジュウザは脳裏に走る刻印を感じ表情を強張らせた。そしてジュウザの月の目と古き目の先にあるロエオスは瞳孔を開かせ叫ぶのであった。


「ジュウザ!禁忌だ離れろお!」


 ジュウザはその言葉を受けすかさず鼻先に迫る牙を躱し握りしめる剣を離した。


「こいつこの呪詛は!?くそっ!確かにこの状況なら使う!」


 ロエオスは全身の筋力に渾身を詰め込む。しかしそれは羽虫の如く蹴散らされるのみであった。振りほどく巨体には銀色の体毛があらわになり、手足には黒爪が良く研がれた刃の如く殺意を剥き出しにしていた。


「カルディアの禁忌、死の代償に俺達を殺すか」


 ロエオスは片膝をつきジュウザの安否を確認する。ジュウザはこの状況でも冷静な判断を怠らずジウラ兵の屍から槍を奪い体制を整えていた。


「おいロエオス!ここまでこいつを追い詰めたのは俺達だけだ!ここまで来たら殺るしかねえよなあ!」


 その言葉でロエオスは微かに口角を上げる。カーグの双肩、彼らはキラゴの騎士の歴史に名を残す。武神カウリオ・キノスの息子達である。



***



 メテユは目の前で行われる目をつむるような光景を唖然と見つめるしか出来ず、彼が握りしめるヒュエイは未だに意識を失っている。そのヒュエイの傷は癒えてはいるものの顔に広がっていた入れ墨は掻き消えていた。キラゴの騎士を貪る狂獣となったロイはメテユに顔を向けると唸り声をあげ睨みつける。

 メテユの目の端に目を疑う者がちらつく、現実を受け止める覚悟は無くその視界の端の者に視線を移すことが出来ずにいた。


「アダナス卿、まさかアガスまでも狂獣になったのか…まずい、もうまずいぞ」


 メテユは混乱していた。大砲でも死なない獣が二体もいるのだ。生き延びる算段をいくらしても計算の答えは全て死であった。

 メテユは気を失ってしまいたいと思ってしまう程に肩を落としヒュエイを握りしめる手にも力は入らなくなっていた。そんな状況の中龍の巣の海岸を囲むキラゴの騎士達を押しのけ戦場に駆けつける者達がいた。


「ヒュエイ大丈夫か!…なんだこいつらは!?」


 トリロは二匹の狂獣を目にし眉間に皺を寄せて見せた。しかし、意識を失うヒュエイをほおっておくことは出来ずすかさずその場に走り出そうとした。そんなトリロを手で抑止するとイシスは口を開いた。


「迂闊だぞ、見ろあれは呪詛だ、神話で聞いた何かにあった気がするが」

「呪詛!?…カルディアの禁忌か?雪原の覇者フォティノースが禁忌としたと謡われる神話の呪詛だ」


 トリロはキラゴの騎士でありもちろん古の呪詛、神話の知識も豊富であった。


「ああそれだ、雪原の影リュクノースの物だ…それならば近くに墓標の剣士が居るはずだ。奴はリュクノースの呪詛を好む剣士として知られている」

「良く見ろ、あいつがアガス・フィルアだ」


 トリロは斑馬の剣ロゴアを握る狂獣を指さしイシスに伝えた。


「ロエオスとジュウザ中隊長もいる…共闘しているのか?」


 トリロは情報を精査しつつヒュエイの救出が一番であると答えを出した。


「イシス、どうあれ俺達の勝利だヒュエイを救出するぞ」

「ああ」


 イシスは後方の山岳に開く大きな穴を見つめるのであった。



***



 火山龍のカドルは宝玉ブレジオスを集め決して他の者に渡すことを許さず、その為に双頭の龍アナンとは姉妹とは言えど対立を深めることになった。カーグ領はカドル法典を信仰してはいるもののカドルに好意を寄せる者は多いとは言えない、それよりも龍の騎士リゲリ、三戦神キラゴ・カシナラを慕う者の方が多いだろう。何故なら強欲の象徴として火山龍のカドルを捉えることが多いからだ。

 しかし皮肉にもカーグ領がドラゴンを守る行為はかつてカドルが宝玉を守る行為と何が違うのかと揶揄する者も大陸には少なくない。


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