表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

4A cafe nocturne

恋は時に、薬にも狂気にもなりうる。 byこくじょー。


 ◇


 カラン

 と扉に備え付けた鈴が鳴る。来客の印だ。

 俺は客との話しを中断し、扉に顔を向け、

「いらっしゃい」

 と言った。



 喫茶店ノクターンは日向市の西、居住区にある小さな喫茶店である。寂れている訳では無い。むしろ繁盛しているとも云える。 それは店内の様子を見れば解ることだ。

ガヤガヤと騒がしい店内を一瞥し、俺、神社カミヤシロ ジンはため息を吐いた。騒がしいのを鬱陶しいと思っている訳では無い。むしろこの喫茶店が繁盛している証拠だと思う。鬱陶しいのは……。

 チラリと目の前の奴を見る。

「うう、ううう……。何故僕の愛を受け止めてくれないんだマイハニー……」

 カウンター席で牛乳を飲んでいるこの少年バカ。まだ、愚痴をぶつぶつ言っている。

 正直、うざい。

 一刻も早く店外に放り出したかったが、忌々しい事に常連なので実行出来ない。

 再度ため息を吐くと、この喫茶店唯一無二の従業員、アララギ 月架ゲツカが近づいてきた。

「あの、すいません……。オーダーです。良いですか?」

「ああ、良いよ……」

 やや、内気な所以外は優秀な従業員である。

「はい……。えっと、アイスコーヒーが一つ、アイスココアが一つ。それにオレンジジュースが一つ、です。あってますよね?」

「俺に聞くな。アイスコーヒー、アイスココア、オレンジジュース、だな」

 やや、内気な所以外は優秀な従業員である。……多分。

「はい、完成っと、ほら」

 さっさっさっと注文の飲み物を作り、月架に渡す。

「それ運び終わったら帰ってもいいぞ」

「は、はい……あの、その、」

「いいから行け」

「えっと、ええっと、……ありがとう、ございます」

 ぺこりと顔を赤らめながら月架は盆を持って注文された席にいった。

「……なんすか、そのラブコメみたいな雰囲気。僕に対する当て付けですか?」

「……お前はいつまで居座るつもりだ?大体学校はどうした」

「僕の学校は今日から休みなんですよ」

「……あー、そうか」

 もう夏休みか。気付かなかった。店内をよく見てみると学生服を着た客が何人か居る。

「……学生割引でもやろうかね?」

「あ、じゃあ、今やって下さい。助かりますんで」

「よし決めた。明日やろう」

「えー。今日じゃ無いんですか~?」

「まあまあ、落ち着け。これをやるから」

 胸ポケットに備え付けておいたメモ帳を破り、近くに置いてあったペンでさっさっさっと文字を書く。

「……落書きですか?」

「ちげえよ。割引券だ。お前にやる」

「な……! なんだって!?」

 奴が目を開く。

「あの、「割引券っつうめんどくさい物を作るなら新しい料理でも考えるよ」と言っていたマスターが!?」

「よーし、サービスだ。顔面を牛乳で浸してやろう」

「あ、すいません、失言でした。だから頭を掴まないで下さい。牛乳の中に突っ込まそうとしないで下さい。お願いですから」

「ちっ」

「今、舌打ちしましたよね!? 振りじゃなく本気でやるつもりだったですか!?」

 あー。うぜえ。

 心の中でそう呟いていると

「あの……。すいません」

お盆を抱えながら月架が近寄ってきた。

「先程の言葉に甘えさせて貰っていいですか?」

「ああ、いいぞ。こんな季節だ、もうこれ以上客は増えねえだろう」

「そう、ですね」

 俺と月架がそう会話していると、

「ねーねーアララギサン」

「はい……?」

 バカが話しかけてきた。

「蘭サンって恋人居ないの?」

「え……? ……今の所居ませんけど」

「んー。じゃあさ」

 ニヤリとバカは笑い、

「可哀想な独身のマスターに告っちゃえば?」

 そうほざいた。

 バカの問題発言数秒後。

 最初に動いたのは意外なことに月架だった。

 顔を真っ赤に染めながら、銀色に光る丸いお盆をバカの頭に叩きつける。パコンと良い音がした。

 続いて俺がバカの頭を掴み、牛乳に突っ込ませる。コップの許容量を超え、溢れ出る牛乳。素晴らしき連携プレー。

 近くの客が椅子ごと引いた。


 数分後。牛乳が飛び散ったカウンターのテーブルは綺麗に拭かれて、何事も無かったようになっていた。ちなみにこの騒動の原因バカには手製の割引券三枚を謝罪にくれてやった。

 ふわあと欠伸をしていると、

「すいません、会計お願いします」

客がやって来た。

 やや細い顔の少年と、活発なイメージを与える少女。それに、ちっこい眼帯娘。

 眼帯娘が何故かじろりとこっちを睨み付けて来たので、こっちもぎろりと睨み返した。そしたら眼帯少女は、少年の後ろに隠れてしまった。

 ……目つきが悪い事は知っているが、それでも少しショックだ。

「……650円だ」

「ああ、はい」

「毎度有り」

 カラン

 と音がして、扉が閉まる。

 それを見送り、また欠伸をする俺に、

「マスター」

 話しかけてくる者が居た。

「何だ」

 声がする方向を見ると、そこに座ってたのは、なんでこんなクソ暑い日にそんな物着てるんだって思う程黒いフードを着た男だった。

「空き家とかただで住める場所知らないか?」

「空き家?何でだ」

「……まあ、色々有って、な。こいつらと一緒にこの町に住む事になったんだ」

 男の隣には、白い髪と黒い髪の双子らしき子供。白い髪の方はココアを、黒い髪の方は牛乳を飲んでいる。

「ふうん」

「で、知らないか?」

「あー」

 これって犯罪だよなと思いながら、記憶を探る。

 一つ該当する物を見つけ、黒フードに言う。

「んーと、ここの通りをずっと行って12件めの家の隣にある13件めが空き家だ。ちなみに12件めの家の名前は百棟モモムネって書いてある」

「解った。13件めだな」

 そう言うと、黒フードは立ち上がった。

金を払い、騒がしい双子を引き連れ外に出ようとする。

 ドアの前で黒フードは振り返り、言った。

「じゃあな。愛想の無いマスター」

「じゃあな、幼児誘拐犯の怪人黒フード」

 俺がそう、返すと黒フードは笑った。

「はは、幼児誘拐犯の怪人黒フードか。それは良い」

「まあな。俺も自分のネーミングセンスにびっくりだ」

 くくっ、と再度黒フードは笑い、そのまま双子と共に去っていった



 カラン、とドアが閉じたのを確認し、俺は伸びをした。

「今日はこれで閉店、だな」

 まだ設定した時間じゃないが構わない。この喫茶店が時間通りに閉まった事が無いのは、もうこの近所の暗黙のルールになっている。

 取り敢えず、明日の為の材料を買いに行く事にする。

 ドアに掛かっているopenをclosedにひっくり返す。

 マイバックを持って、いざ、居住区唯一のスーパーへ。



「ただいま」

 品物せんりひんを持って帰宅。

 喫茶店の裏口兼居住スペースの玄関を潜ると玄関には靴が一足転がっていた。ってことは。

「帰ってきたのか? 姉貴」

 確か今日はデートだった筈だ。そう思いながら呼びかけるが返事はない。寝てるのだろうかと思いながら靴を脱ぎ、入る。

 自分の部屋の戸を開けると、何かがのし掛かってきた。

「ぐっ」

 重さで後ろに倒れそうになるが、なんとかこらえ、のし掛かってきた物を見る。

「うう~、ぐすん、聞いてよジンちゃあ~ん」

「聞かせる前に退け……! クソ姉貴……!」

 のし掛かってきた物体は姉貴だった。

「むぎゃ」

 力ずくで姉貴を退かし、電気を点ける。

 最初に見たのはテーブル周辺に転がるビールの空き缶。

 ……なるほど、理解した。

自棄酒やけざけはほどほどにしろって行ったよな……?」

「ひぃ、ジンちゃんが怖いよう」

「当たり前だ。ったくこんなに散らかしやがって」

 買った品物を床に置き、缶をまとめて拾い、タンスの横に掛けてあるビニール袋に突っ込む。明日捨てるとしよう。

「ああ、まだ飲みかけのもあったのに~!」

「うっせえ酔っ払い。こんだけ飲んだんならもう十分だろ」

「うう~ぐずぐず」

「って聞いてすらいねえ」

 はあ、と俺はため息を吐いた。


 姉、神社辿理カミヤシロテンリは駄目人間である。

 と言ってもニートではない。職業は多分、真っ当な会社員である。駄目人間と言われる由来は恋愛依存症と云う病に在る。

 と云っても本当にそんな病では無い。精神の在り方と言った方が確かだろう。要は誰かに恋をしなければ駄目だと云う事である。しかも独身、恋人が居ない人限定と云う、厄介な制限付きで。不健全だがなんど岡惚れしろと思ったか。

 大方今回もそれがらみだろう。


「ふぇね、あいつっひゃら酷いのひょう。もう、付き合ってふぁへないとか言っふぇいきなりポイ、なんふぁもにょ」

「……」

 予想通りだった。俺はうんざりしながら、視線を上に向ける。見えるのは少し汚れた天井のみ。仕方無く視線を戻す。

 姉貴の話はまだ続く。いや、実際には終わってるのだが、その後また、最初に戻り繰り返すのだ。もうこの話も五週目辺りだろう。

 俺が帰ってくるまでに強か飲んだのか呂律が回ってない。そろそろ酔い潰れる頃だろう。

 数分後。俺の予想通り、姉貴は酔い潰れた。

 ため息を吐き、俺は後片付けを始める。



 翌日。俺はカウンターに座っていた。

 AM10時と云う中途半端な時間の為か、客は少ない。くああ、と欠伸などをしていると、カラン、とドアが開いた。

「よお。愛想の無いマスター」

 無礼な声がしたので見る。

「…幼児誘拐犯の怪人黒フードか」

「そうだ」

「あの双子はどうした」

「まだ寝てる」

 カウンター席に座り、奴は言った。

「……コーヒーを一つ」

 月架は他の客の注文品を運んでいる為、こっちに来れないようだ。仕方無く、俺が聞く事にした。

「砂糖、ミルクは?」

「不要だ」

「そうか」

 頷き、作り始める。奴が言う。

「昨日は助かった」

「……ああ、空き家を探してたんだったか?」

「よく覚えていたな」

「記憶力には少々自信があってね」

 ニヤリと笑いながらコーヒーを置く。

「んで? 住み心地はどうだ?」

「悪くない。あいつらも気に入ったようだしな」

「そりゃ良かった」

 ズズ、と黒フードはコーヒーを啜った。

「……当座の問題は職だな。この町に来る前に失業したから、あては無いし。……今どうしようかと悩んでいる」

「あんた何の仕事してたんだ?」

「……殺し屋って云ったらどうする?」

「病院か警察に電話する」

「常識的だな」

「まあな」

 しばらく二人笑いあう。

「……さて、そろそろ行くか」

 そう言って黒フードはコーヒーを飲み干し、立ち上がった。俺も机を挟んで立つ。

「悪くなかった。もしかしたらまた来るかもな」

 金を払いながら言う黒フード。

「ああ。是非来いよ。もしかしたら雇ってやるからよ」

「……それは是が非でもまた来なければな」

 軽口を叩き、黒フードはドアを開け、去った。

 俺は黙ってそれを見送った。



 昼頃。今日は学生割引だと言う話を聞きつけたのか、沢山の学生が集まった。中にはどう見ても学生じゃなさそうな奴も居たが。

 客足が少し途絶えてきたので一息吐きながら店内を見る。

 昨日のバカが一人の少女に殴られている光景。それを見てクスクス笑っている少女。男一人女一人に性別がよく解らない学生の三人組。男女の二人組で、女が男にベタベタ付きまとってる光景。ちなみに男はそんな女を鬱陶しがっている。なんか殺伐とした雰囲気を醸している五人の男女。なんか変に賑やかな空気の家族。そして、忙しく動き回っている月架。


 みんな様々な雰囲気を出しているがその中には誰一人、楽しんでなさそうな雰囲気を持つ者は居ない。

 そんな様々な空気を見て、俺は思い出す。

 自分が何故この喫茶店を始めたのかを。

――こんな風に、様々の人の笑顔を見るためだ。

 思い出し、俺は薄く笑う。

 それと同時に決意する。

 何年何十年の月日が経とうとも、この喫茶店は壊させないと。

 頭上にはこの喫茶店の名前でも有る夜想曲が変わらず、流れていた。


 -登場人物紹介-



神社 カミヤシロジン

喫茶店ノクターンのマスター。

冷静だが、コーヒーに関しては熱血馬鹿。



月架アララギゲツカ

喫茶店ノクターンの従業員。

恥ずかしがり屋。



神社辿理カミヤシロテンリ

会社員。

恋愛依存症。次の日常に登場予定……だったが飽きた。その話と言うか結末は文化祭にて明かされる! ……筈。



黒フード、バカについては……解るよね?



少しグダグダになりました。ついでに2月28日の夜辺り? に3Bのさいごの辺りを加筆してみました。ちなみにこの中には今まで登場した人が何人も居ますし、これから登場させるつもりの人も居ます。

3月6日、タイトルと最後の方に一文加筆。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ