表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/40

3B 死神のメリー

次回もこんなペースかも……?


 ◇

 ジリリリリリ、と目覚まし時計が鳴り響く。

 パシリ、と叩いてそれを止め、ぼくは起き上がった。

 欠伸をしながら、階段を下り、洗面所に向かう。

 水音を立て顔を洗う。水の冷たさが意識を完全に覚まさせる。

 タオルで顔を拭き、リビングに向かう。

「おはよう」

 リビングに居るのはぼくを含め、三人。

 兄さんは新聞を読みながら、ニュースを見ていた。ヨスガはキッチンでご飯を作ってるのだろう。

 席に着いてぼんやりしていると縁がご飯を持ってきた。

 今日のご飯はマーガリンの付いた食パンと目玉焼きとウインナーとブロッコリー。それとプリン。

 縁の騒がしい声を聞きながらいただきます、と手を合わせて食べ始める。


 いってきますと言って、家を出る。

 少し遅くなったので、小走りに学校を急ぐ事にした。


「おっはよー! こっきー!」

 学校の校門前で樒木鬼灯シキミギホオズキが居た。ぼくに気付いて手を振ってくる。

「……おはよう」

 正直、樒木は苦手だ。

 性格の問題では無い。むしろ性格は親切で助かる。問題なのは、オカルトマニアと云う事だ。よく、心霊写真だとか伝説の文献だとかUFOの資料だとかそんなモノを見せてくる。

「実は昨日、面白い写真見つけてさ~。見てみる?」

 断っても無駄だと知っているぼくは最後の抵抗に言う。

「……見るから教室に行こう」

「ん~。まあ、確かに私が原因で遅刻しちゃったら悪いもんね~」

 納得したようで樒木は歩き出した。ぼくもそれを追う。



 教室に着いて、バックを下ろすぼくの傍で樒木はポケットから裏返しに写真を取り出した。

「さて、クイズでーす! 鎌を持っている妖怪はな~んだ?」

「……カマイタチ?」

「ちっが~う! 確かにカマだけど! 他にいるでしょ!?」

「オカマ?」

「それも違う! カマ違いだし! て言うか妖怪でも無いし! だから……ほら、死を司る神様!」

 ……あえて避けていたのに。

 ぼくは仕方無く言う。

「……死神?」

「せいか~い! 焦らすなんてこっきーは酷いなあ」

「それは謝る。……で、死神が何?」

ぼくがそう言うと樒木は声を潜めて、

「実はね、つい最近噂になってるの。……死神から電話が来るって言う都市伝説が」

「死神からの電話?」

「ええ。具体的には解らないけど体験した人はそう言ってたんだそうよ」

「ふーん。で? その人はどうなった? 死神から電話が来たんだ。只で済むワケがなさそうだ」

「……正解。ホントこっきーは鋭いなあ」

 そう言って樒木は写真をひっくり返した。

 そこには銀色に光る大鎌とそれを持って振りかぶった黒いフードが写っていた。

「その人が死ぬ前に撮った写真よ」

 ……おかしくないか? 何点か疑問に思ったので問う。

「なんで撮ったって解る?」

「撮った直後に死んだからよ」

「コスプレじゃないのか」

「その人はそんな姿じゃなかったらしいし、そんな服も持ってなかったそうよ」

「じゃあ、他人のコスプレ」

「それも無いわ。隣人がそう証言してるし、鍵もしっかりかかってたらしいし」

「なんで死神はカメラを壊さなかったんだ?」

「なんなのか解らなかったからじゃない? 人間じゃないし」

にべもなく返される。……いや、まだだ。まだ疑問に思う事はある。

「なんで死神が電話したって解る」

「携帯の着信履歴に残ってたそうよ」

「死神って?」

「ううん、知らない電話の番号」

「じゃあ、悪戯じゃないか」

「いえ、掛かった電話の番号が全て違うのよ」

「は? つまり」

「電話を変えながらって事でしょうね」

「じゃあ、複数の」

「それも違うわ。一つは民家の電話だったらしいし」

「どこで知ったんだ?」

「半分はニュース。後はパソコン」

「……電話の内容は?」

「メリーさん」

「……メリーさん?」

「ええ。最初は「遠くの本屋前の公衆電話に居る」と言って、最後は「貴方の後ろに居る」で終わってたらしいわよ」

「本当にメリーさんだな……。じゃああれか? メリーさんの正体は西洋人形じゃなくて死神って事か?」

「さあね。この写真から見る限り、小さいけど、普通の子供ぐらいね」

「ふうん」

「で?どう思う? どう思う?」

「……先生が入ってきたから、後で」

「ちょっ、もー! いつもそう言って逃げる!」

 聞こえない聞こえない樒木の声なんて聞こえない。ぼくは席に着いた。


 昼。

 一年のマドンナと呼ばれる華葵某(ハナアオイ……なんだっけ?)が一人のクラスメイトに突貫するのを横目に見ながら弁当を持って教室を出る。

 教室を出た直後に樒木の声が聞こえた。危なかったと思いながら、空き教室で弁当を食する。

 素早く食べ終え、樒木が居ないかどうかを確認してから空き教室を出て、屋上に向かう。

 屋上には誰もいなかった。だが昼寝をするには床が少々暑すぎる。なので、風景を見る事にした

 樒木に見つかったのはチャイムが鳴る少し前だった。怒りながら首を絞めようとしてくる、樒木から逃げながらチャイムが鳴るのを待つ。

 捕まった直後にチャイムが鳴り響いた。

 結構時間に厳しい樒木は諦めたようで、教室へと戻っていった。自分は逃げるのに体力を使ったため、しばらく動けなかった。

 授業は遅刻する事にして、どこまでも青く澄んだ蒼い空を見ていると瞼が徐々に下がっていき――気が付けば授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。

 溜め息混じりに立ち上がり、ぼくは屋上を後にする。


 放課後。ぼくは帰宅部なので部活は無く、樒木はテニス部に入ってるため居ず、晴れてぼくは明日まで自由の身になれた。

「でも明日までなんだよなあ」

 呟き、更に落ち込む。

 毎度の事ながらなんでこうなんだろう。

 いつも今日の繰り返し。樒木がオカルトなモノを持ってきてぼくに見せる。そしてぼくに感想を言わせる。ぼくはそれから逃げる。逃げようとして見つかり、捕まった事もある。その時にもぼくは感想を言わなかった。それの繰り返し。それが中学校の時から続いている。

 中学校の時は良かった。携帯なんて便利なモノは持ってなかったし、樒木が聞きに来たのも二日に一回程度の割合だったから。

 高校に入ってからだ。樒木が積極的になったのは。

 まるで、感想を言わせるような感じで、ぼくに迫ってくる樒木を思い出し、溜め息を吐く。

 気分転換に周囲を見回して見る。ぼくの住む家は西南に在る。そのため、左にはビル、右には住宅街が見える。

 学校からの帰り道なのか、ランドセルを背負った少女が左側の歩道を歩いている。

 それを眺め――唐突に嫌な予感がした。

 何故、そんな予感がしたのか解らず、首を傾ける。少女はそのまま車道を渡ってこちら方へ。その少女を見、少女に気付かないのか、少女より後ろから凄い速さで走ってきたトラックを見、鞄を捨て、走り出した。

 少女もトラックに気付いたのか左を見た。そして、そのまま石像のように硬直した。

 それもそうだろう。鉄の塊が迫ってきて、冷静に避けれる人間などあまり居ないだろう。ましてや小学生に、冷静な判断が出来るワケがない。

 トラックが少女に迫るまで、後数秒。幾ら何でもギリギリだ。トラックもようやく少女に気付き、ブレーキを踏んだようだが間に合わないだろう。

 ぼくは覚悟を決め、より強く、より速く、走る。

 手を伸ばせば少女に触れられると云う所で、ぼくは限界まで体を前に傾け、少女を 突き飛ばした。

 迫る鉄塊テツカイ

 響くブレーキ音。

 突き飛ばされながらも体を捻り、ぼくを見る少女のカオ。

 ドサリとぼくはアスファルトに倒れた。

「……?」

 覚悟していた衝撃は来ず、ぼくは訝しく思い、トラックの方を見て、絶句した。


 トラックは真っ二つに裂けていて、ぼくの左右に在ったのだ。運転手を見てみるとがっくりとしていた。どうやら退いてしまったと思っているようだ。ぼくが呼びかけても返事をしない。

 呆然としながら同じく呆然としている少女に向かう。

 傍に近寄り、ぼくは少女を見た。

 突き飛ばされた時に擦りむいたの擦り傷だらけだがそれ以外に目立った外傷は無さそうだ。

「大丈夫?」

 ぼくがそう言うと、

「はい」

 彼女は恥ずかしそうに俯きながら、言った。

 そう、とぼくは呟き、帰路へと進路を戻す。運転手にクレームは出さない。これは本当に必然の事故なのだし、それに運転手は後でトラックの修理に悩まされるだろう。なにせ真っ二つになっているのだ。どうやって説明すれば良いのかも解らないだろうし、修理も大変だろうから。もしかしたら買い換えるかも知れない。

 そんな他愛も無い事を思いつつ、道を歩く。



 兄の蒼空ソラと妹の縁によるとぼくはお人好しでその癖、自分に関しては腕を折られようとも階段から突き落とされても何も処置を取らない変態だそうだ。

 非道い云われようだと思ったが、腕を折られても気にしなかったのは事実だし、階段から突き落とされたのに誰にも言わなかったのも事実。なので言い返せない。……まあ、言い返そうとも思わないのだが。

 そう回想しながら、牛乳を飲む。兄は飲み会らしいし、妹は部活だ。帰ってくるのは早くても六時くらいだろう。取り敢えず、何を作るか考える事にした。

 冷蔵庫の中身を思い出しつつ、着々と料理の構想を浮かべていると、

 ジリリリリリリリ

 と電話の音が響いた。

 面倒だなと思ったが、もし重要な事だったら厄介なので出る事にする。

 受話器を取り、耳に当てる。

「……はい。百棟モモムネです」

 ぼくがそう言うと、


「今、楠木商店の前の公衆電話に居る」


 そんな返答が返ってきた。

「……はい?」

 聞き返したが電話は切れた後だった。

 首を傾げているとまた、

 ジリリリリリリリ

 と電話が鳴る。

「……はい」

「今、煙草屋の前の公衆電話」

またもそう言って電話は切れた。

「煙草屋……?」

 日向市に煙草屋は一件しか無い。日向高校の前に在る、老婆が経営している煙草屋しか。

 そんな事を思っていると、また電話が鳴った。

 受話器を取り、何も言わず耳に当てる。

「今、喫茶店ノクターンの前の公衆電話」

 ノクターンはこの居住区に在る唯一つの喫茶店だ。

 確信する。この電話の主は確実に自分の家に近づいていると。

 だが、自分は見知らぬ誰かにストーカーされる覚えは無い。……いや、まてよ。

 不意にぼくは思い出す。

 今朝、樒木が話した事を。

 メリーさんもどきの死神を。

 電話が鳴る。

 受話器を取る。

「今、佐々ササキの家に居る」

 佐々木って誰だ。そう思ったが声には出さず、受話器を置く。

 電話が鳴る。

 取る。

「今、神社カミヤシロの家」

 神社とは自分の家の隣に住んでいる人だ。

 つまり次で……ぼくは、刈られる。

 ジリリリリ

 電話が鳴る。

 これが最後だろうと確信し、取る。

「今、」

 君の後ろに居る


 後ろから声がした。

 振り向く。

 後ろに居たのは黒いフードを着た、手にぼくの携帯を持つ者。身長はぼくの胸くらいだろう。

 ぼくは問う。

「死神ですか?」

「……ああ」

「ぼくを殺しにきたんですか?」

「いや」

 ソレはしっかりと否定した。

 ぼくは困惑しながらも、問いを重ねる。

「殺しにきたんじゃ無いんなら、何をしにぼくの所へ?」

「宣言しにきた」

「宣言? 何を」

「わたしは宣言しよう」

 ぼくの問いを無視するようにソレ――いや、彼女は言った。

百棟モモムネ 弧赤コセキ。わたしと結婚しろ」

 思考が停止した。


「えーっと状況を整理しようと思うけど、その前に君の名前は?」

「名前か。メリー・ミィだ」

 左目に眼帯を付けた黒髪と黒い右目の少女。

「呼び方はどうすれば?」

「む……。別に。好きにしろ」

「じゃあメリーで」

「うむ、それなら良い。妻の呼び方とも言えるだろうしな」

「聞き捨てならない言葉が聞こえてきたから話を進めるけど」

 ぼくは深呼吸し、言う。

「妻ってどういう事?」

「妻とは結婚した男女のうち、女性のほうの呼び方だ」

「いや、意味が聞きたいんじゃ無くてさ。先程、メリーは結婚しろって言ってたよね」

「うむ」

「どうして? ぼくは君と面識は無い」

「ああ、確かに面識は無い」

「じゃあどうして」

「一方的にわたしは見ていた」

「……ストーカー?」

「違う。わたしの正体は何だ」

「死神……ああ、つまり」

「そうだ。殺す人間は見なければ解らないだろう」

「じゃあなんで」

「一目惚れしたからだ」

「……ストレートだね……」

「誉めても何も出ないぞ」

「……で? どうするのさ。今から」

「うむ。まず、住ませてくれ」

「……ぼくは良いけどさ。兄とか妹とかが反対するかもしれないぞ」

「ふむ。……まあ、その時はその時だ。そこら辺に住むとしよう」

「……まあ、これは兄と妹が帰ってくるまで保留って事で。……で、質問があるんだ」

「うむ。何なりと申せ」

「何なりとって……。じゃあ遠慮無く云うよ。その眼帯は何?」

「ああ、これか」

 そう言ってメリーは眼帯、正しくは左目を抑えた。

「これは死神が現世うつつよに来るために必要な事でな」

「現世?」

「この世界の事だ。他の世界はわたしが生まれた冥府めいふ。お前たちが天国と云っている天嶺てんれいなどがある。」

「へえ」

「話を戻すぞ。まあ、これは封印みたいな物だ。」

「封印? 何を封印するんです?」

「入口だ」

「入口?」

「そうだ。わたしたち死神は自由に現世と冥府を行き行き出来ない。冥府への入口は冥府側かしら開く事が出来ないからな」

「じゃあどうするんですか?」

「封印を開く」

「開く……? どうして」

「……すまん。わたしは口下手でな。あまり上手くは説明出来ないのだが……。まあ、糸のような物だ。これを開けば冥府に帰ることができ、解けば本来の力を出せるが、冥府に帰る事が出来なくなる」

「……つまり、リールみたいな物って事ですか」

「ああ、そうだな」

「ふうん……あ。他にも聞きたい事があるんだけど」

「遠慮無く言っていいぞ」

「なんで家に来る時に電話したんですか?」

「そのほうが気分が盛り上げるからだ」

 殺す時に気分を盛り上げてどうするんだろう。

「……もう一つ。どうやって電話したの?」

「む……。どうやってとな?」

「かかってくる電話番号が違う理由」

「ああ、そういう事か。簡単だ。そこら辺の人から借りた」

「ホントに簡単ですね……。電話番号は残してませんよね?」

「まあな。そんなへまはしない」

「ならいいですけど。……もしかして、今日、トラックが真っ二つになったのも?」

「ああ、わたしだ。迷惑だったか?」

「いえ、助かりましたけど……」

 そんな事を話していると、玄関から、ドタドタと云う音が聞こえ、

 ガチャリ

 とドアから開き、叫び声が響き渡った。

「うっっいーーー!!! たっだいまぁー!」

「な、なんだ!?なんだこの珍妙な娘っ子は!?」

「……もう少しボリューム落としてくれないかな、縁」

「ん、ん、ん~? 兄ちゃん、そこの眼帯娘は何奴? はっ! まさか援助交際的なナニか?」

「援助交際って……。ぼくまだ高校生だぞ?」

 そう言うと縁は指をふり、

「ちっちっちっ。高校生で援助交際やる奴って居るんだぜ? 兄ちゃんもまだまだだなあ」

 そう言った。その後、縁は真剣な表情をし、言う。

「……んで? ホント何者? 兄ちゃんが援助交際してるって可能性はなさそうだけど」

「……まあ、ね。それは後の話にしよう」

「……ん~。それもそっか! つーわけで兄ちゃん。腹減ったから美味い飯作ってくれ」

 百棟家では、朝は縁、昼は兄さん、夜はぼくと云う決まりがある。

「自分は作らないからってなぁ。まあ、いいや。作るから着替えでもしてて」

「ほっほ~い。頼むじぇい」

 そう言って縁は二階に上がっていった。

「……よし、あいつの晩飯にだけピーマン入れてやろう」

 ぼくはそう呟き、キッチンに入った

 後に残ったメリーは、

「むうう……。妹殿め、なかなかやりおる」

 そう呟いていたそうである。



「むっふー。そんな事ってあるんだー」

 夕食後、事情を話すと拍子抜けする程に縁は信じた。

「んでんでメリっち。聞きたい物があるんだけどさー」

「メリっちって……。まあいい。なんだ?」

「メリっちってどうやって人とか捕まえるの?あんまし力無さそうだし」

「……ああ、まあ、隠していた訳では無いのだが。わたしたち死神には使役する事が出来る使い魔がいてな」

「へー。どーゆーの?見せて見せて!」

「解った。……来い影猫エイビョウ

 メリーがそう言った瞬間、影が揺れ、窓に伸びる。そして

「ニャア」

 黒猫が現れた。

「猫さん?」

「ああ。猫だ」

「ご飯食べるの?」

「いや食べない。使い魔は現世の物を食べないんだ」

「ふーん。ほにゃほにゃ~」

 ひょいと縁は黒猫の目の前に指を出す。

 黒猫はその指にパンチを繰り出した。

「……影猫。戻れ」

「フニャ」

 その言葉に従い、黒猫は姿を消した。

「え~。もう戻しちゃうの~?」

「そこら辺に置いといたって邪魔だ」

何気に使い魔を虐げているメリー。

「ぶー」

「おい、縁。風呂入ってこい。ぼくは食器を洗わないといけないから」

「はーい解りました~。あ、そうだ!メリっちも一緒に入らない?」

「む、むう?別に構わないが……」

「けって~い!じゃ、じゃ入ろ!」

「ちょっと待て縁! メリーの着替えはどうする!」

「着替え~? あ、そうだった。よっし兄ちゃんには今だけあたしの部屋に入る権利を与えよう!」

「……はいはい解ったよ。とりあえずお前がちっちゃかった頃のを持ってくる」

「少し待て! それはどういう意味だ!?」

「ほーい。じゃ、いこーねー」

「む、むうう……! は、離せ! わたしは真相を意味をおおぉぉぉぉ!」

 ずるずると引きずられていくメリーを尻目にぼくは縁の部屋に行く事にした。

 時間制限の在るものは早めに終わらせるのが吉だからである。

 部屋に入り、なるべく縁の服を見ないように素早くタンスを開け、見繕う。

 一階に戻り、ぴぎゃあぴぎゃあと騒がしい浴室に服を置く旨を伝え、服を置く。

 リビングに戻り、食器を洗い立て終え、さて何をするか考えていると

 ジリリリリリ

 と本日何度目かも解らない呼び出し音が鳴り響いた。

 まさか、また死神じゃないだろうなと思いながら出る。

「……もしもし、百棟です」

「いやあ、その声はマイブラザーかい?」

「……兄さんですか」

「ん? ボクが電話したらおかしいかい?」

「いえ、拍子抜けしただけです」

「んー? まあ、いいや」

「で、何の用ですか?」

「んー。明日までかかるって話しをしに」

 ああ、そういえば飲み会だったけ。

「飲み会の割りには全然酔ってなさそうですが」

「そりゃあオレンジジュースだけで酔う人間はよほどの変人だろうからね」

「そうですか。あ、そういえば兄さん報告があります」

「ん?なんだい? まさか結婚するとか言わないでくれよ」

「……まあ、似たような話しですね」

「ふうん……? じゃあ、話してくれ」

「家族が増えました」

「増えた? 犬か猫でも拾ったのかい?」

「……まあ、そんな所ですよ。縁は諸手を挙げて賛成しています。兄さんは?」

「んー。まあ、家族が増えるのは良いことだからね。賛成するよ」

「そうですか。縁も喜ぶでしょうね」

「そうだね……」

「……兄さん。お父さんの事を思い出してませんよね」

「……」

「気に病む事じゃ無いですよあれは、――あの事故は兄さんが悪い訳じゃ無いんだから」

「そうだね。すまないな、弧赤」

「礼は要りません。家族にそんな物、要らない」

「……また、明日。お休み」

「お休みなさい、兄さん」

 受話器を置く。

 そのままじっとしていると浴室から妹が出てきた。

「あり? どしたの、そんな所に突っ立って」

「メリーはどうしてる?」

「更衣室で力尽きてる」

 ……どうやったらそうなるのだろう?

「縁、重大な知らせだ」

「何?」

「兄さんから許可を貰った」

 パサリと縁の持っていたタオルが落ち、喜びの声が百棟家付近に響き渡った。



 ○

 深夜。キィと扉が閉じる音がして、一人の影が百棟家から出て来た。

「……――」

 その影は何かを呟き、歩き始めた。淀みなく進む足。

 その足が止まる。

「キキ……カカカ」

 奇妙な笑い声を出しながら目前に居るモノ。

 街灯に照らされその姿が顕わになる。

 顔が右の肩にあるその姿は異形そのものだった。

「生キ肝ヲ渡セ……」

 異形が口を開き、言う。

 異形はこう考えていた。

 自分のこの姿を見れば目の前の獲物は活きのいい悲鳴を上げて逃げるだろう。自分はその姿を堪能しながら、追い詰め、喰らう。その光景を想像し、異形はくつくつと忍び笑いをする。

 しかし、獲物の返答は異形の想像を絶する物だった。

 冷静に冷酷に冷厳にこう云ったのだ。

「断る」

 たった二文字。けれど異形の思考を混乱させるには十分な言葉だった。

「……断ル、ダト……? タダノ人間風情ガ?」

「話の腰を折るようだがわたしは人じゃない」

「人ジャナイナラ……ナンダ?」

 冷たき双眸が異形を見据え、

「死神だ。……影猫、遊び相手だぞ。遠慮無く戯れろ」

 そう高らかに宣言した。


 影が走る。前に後ろに右に左に斜めに真下に。縦横無尽に異形を翻弄する。

 影が異形に触れるごとに異形は体に傷を刻まれていく。

「グギガアアアァァァァァァァ!」

 異形が吼える。影を殴るが効果無し。逆に腕の一部が抉られた。

「影猫。もういいぞ」

 突如、死神が言う。

「このまま、潰してしまってもいいんだがな。やはり最後くらい自分も混ざりたいだろ?」

 そう言いながらどこからともなく巨大な鎌を取り出した。

「さて、どこからでもかかってこい」

銀の刃が月光に映える。

「舐メルナアァァァァァァ!!」

 交差する、異形と死神。

 一瞬の後、異形の腕が腰が頭が足がコンクリートに堕ちた。

「馬鹿ナ……。死神ハ現世デハ力ヲ封印シテイルハズダ。ナノニ、ナゼ……」

封印していると云う事はこの女は非力で無力な筈。なのになぜ?

 異形の疑問に答えるように死神は言う。黒い目を右に。紅い眼を左に。

「冥土の土産に教えてやる、化け物。簡単だ。封印を解いたに決まっている」

「封印ヲ解イタダト……? ソンナ事ヲスレバ死神ハ……」

「冥府に帰れない。そうだろう? 結構だ。わたしはここに居場所を見つけた。帰る気など毛頭もうとうも無い」

 返事は無い。どうやら死んだようだ。死神は鎌を終った。

「さて、こんなものを路上に置いておくのも気が引けるな。……影猫、飯だ。欠片も無く喰らい尽くせ」

 ザワリと影が揺れ、バクリと異形の肉片を食らった。

「上出来だ。さて、戻るとするか」

 眼帯を付け、メリーはそう呟き踵を返した。

 彼女が立ち去った所には何も亡く、唯、街灯が照らしていた。


 ◇

 翌日。

 ぼくは登校中、樒木に捕まった。

「さあ、キリキリ吐くがいい! こっきーは死神を信じるかい!?」

「信じますよ」

「ふへ?」

「信じますって言ったんです」

 そうだ。もう、逃げても仕方ない。兄さんが過去と向き合うように、ぼくも向き合わなければ。

 そう思っていると、樒木は何故か物凄い勢いで、聞いてきた。

「ぬっふっふ~。信じるんだね? 嘘じゃ無いね?」

「は、はい」

「よっしゃーー!! 私は勝った!」

「へ? な、なににですか」

 いきなり、空を指差し叫ぶ樒木にちょっと引きながら、ぼくは尋ねた。

「あれ? 聞いてないの?」

 樒木が不思議そうに言う。

「蒼空さんがこっきーに「信じるとか言わせるか勝負するかい?」っていったからやろうって事で勝負してたの。ちなみに賞品はこっきーを1日自由に使って良い権限ね」

 最初はなんて言ってるか解らなかったが、数十秒かけて理解する。そしてぼくは絶叫した。

「に、兄さんの馬鹿野郎ーー!!」

 ぼくの絶叫は青い夏の空にどこまでも溶けていった。


~遅れてきた登場人物紹介~


百棟弧赤モモムネコセキ

日向高校二年生。

言葉使いが何故か一定しない人。なんでだろね?



メリー・ミィ

死神。

黒髪黒目の眼帯少女。

現世に置いて、彼女、否、死神に勝てる者は2つの例外を置いて存在しない。が、それは現世の中だけで有り死神長など死神を束ねる者や、冥府を統一する者にとっては取るに足らない存在らしい。


樒木鬼灯シキミギホオズキ

日向高校二年生。

オカルト大好き元気少女。



百棟縁モモムネヨスガ

日向中学二年生。

ハイテンションキャラ。イメージは西尾 維新さんの偽○語の火○。けれどあんなにぶっ飛んでない。


百棟蒼空モモムネソラ

会社員。

実は投稿時、一言も喋ってなかったのだが、加筆時に付け加えた。フッ、命拾いしたな。ちなみに、蒼空と云う名前はカッコイイと思う。


異形

男?

化け物。

右肩に首と顔が有る化け物。一般人よりははるかに強いのだが、あっさりと負けた。

長くなりました。3月7日、ちょっと訂正。


次回予告(予定)

喫茶店の話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ