3A 同音異字のアイツ
◇
昼休み。あたしはもぐもぐと焼きそばパンを咀嚼していた。
「ねえ姫。知ってるかしら?」
そんなあたしに話しかける友人が一人。
あたしは焼きそばパンを飲み込んでから、答える。
「言う前から知ってる? って言われても知る訳ないでしょうが」
「それもそうね」
彼女はくすりと笑いながら相槌を打つ。
それを横目にあたしはパックの牛乳を飲む。
飲み干し、言う。
「で、何?」
「にっしーが先輩に喧嘩を売ったそうなんだけど」
やつの名を聞いた途端、あたしは立ち上がった。
「あら。いつもはツンツンでクールな姫も彼氏の話しになると無反応じゃいられないのかな?」
「彼氏じゃ無いって、言ってるでしょうがッ!」
にやにやと笑う彼女にそう怒鳴りつけ、あたしは教室を飛び出した。
◆
彼女が去った教室で。
「……彼氏じゃ無いって言われてもなあ。まあ、姫は昔から自分のココロに鈍感だからね」
彼女の友人、石堂聖は一人呟いた。
「……あ。姫、にっしーが居る場所解るかな?」
◇
勇み勇んで飛び出たはいいものの、結局やつを見つけたのは昼休み終了五分前だった。
ガラガラとドアを開き、焼きそばパンを銜えているやつを目に捉え、助走をつけてフライ。
そのままやつの顔面に跳び蹴りを喰らわそうとしたが、避けられる。
勢い余ってやつが腰掛けていた椅子や机をぶっ飛ばし、しゃがみこむように着地。
立ち上がり、振り向くとやつは焼きそばパンを咀嚼しながら言った。
「やれやれ、ハニーあぶないじゃないか。僕の反応がもう少し遅ければこのイケメンな顔、ミンチになってたぜ? 後はしたないからスカートで跳び蹴りとかも止めてくれよ? ああそれは結婚したらこの僕が矯正ならぬちょうきょぶべら!」
最後によからぬ事を言おうとしやがったのでその顔面をぶん殴った。
やつは顔を押さえながらもなお、言う。
「うう、痛いじゃないか、ハニー。ハッ、これが今流行りのドメスティック・バイオレンス!? そんな、まだ僕の愛が足りないと言うのかいハニいぐふぉお!」
今度はキモいことを言い出しやがったので鳩尾をぶん殴り、背を丸めてしゃがみこんだ所を何度も踏みつけた。
「ちょっ、ハニー!? それは、やめ、ちょ、話し、聞いてく、げぶふぉあ!?」
止めにかかと落としを喰らわせて、話し を聞く事にする。
「きょ、今日のパンツはピ」
「んなっ! どこ見てんのよ、ヘンタイ!」
あたしはスカートを抑えながら顔を赤らめつつ、本当の止めとして頭にローキックを喰らわせた。
「がふっ!」
★
あたしには忘れられない記憶がある。
あれは、去年の入学式の話。
入学式が終わり、クラスも決まり、先生に名前を呼ばれた時の事。
「あー、深之村」
「はい」
「あー、ミハタ」
あたしは言った。
「「はい」」
え?
「……あー。ミハタは二人居るのか。じゃあ、フルネームで呼ぶぞ。ミハタ ニシキ」
今度こそ!
「「はい」」
……え?
「あー。どうやら名前まで同じらしいな。漢字は違うようだが。んじゃあ、ヒメの方」
今度こそ、あたしだ。
「……はい」
「……あー。お前がヒメの方な。んじゃあ、金偏の方」
「はい」
あたしは声がした方を見る。そこには一人の少年が居た。
じっと見つめていると視線に気付いたようで、あっちもこっちをみた。
一瞬きょとんとしたような顔になったが、すぐ、にっこりと笑った。
あたしはそれを見て何だかむかついてきて、ぷいと顔ごとそらした。
放課後。くじ引きで日直になってしまった。
机に座り、日直簿に今日の出来事を書き記しているあたしに話しかけるやつが一人。
「君が僕と同じ名前の人?」
唐突に声をかけられ、あたしはそっちを見た。
「そうだけど……なに?」
話しかけてきたのは一人の少年だった。
少しして顔と台詞から自分の名前と同じ読みの奴だと云うことを思い出す。
「うん、実はね」
そんな人が私に何のようなのかと思っていると、やつはあたしをじっと見てこう言った。
「一目惚れした。結婚してくれ」
そして今に至る。
アイツはずっとあたしに求愛し続け、あたしはずっとそれを拒み続けている。
◇
時間は流れ、放課後。教室にて。
「と、言う訳で第十四回調停会議。出席者は深旗錦君と美端西姫。そしてワタクシこと永遠の美少女、石堂聖ちゃんの三人で~す。どんどんぱふぱふ~」
よく解らないテンションで言う聖。とりあえず突っ込む。
「永遠の美少女ってなによ」
「突っ込む所そこ~?」
「そこしか無いわね」
「う~ん。まあ、いいや。じゃあまずは状況を整理しよう」
テンションを元に戻して言う、聖。
「まず、今日の件は至って単純。お金を巻き上げようとした先輩方をにっしーがぶん殴った。以上」
「ホントに単純ね……。それについて錦、何か言うことは?」
「何もないな。むしろ何を言えばいい?」
先程、あたしと話していた時より遥かに大真面目な表情でやつは言う。
……ホント、常にこの顔ならばあたしは文句も何も言わないのに。
「ん~、動機とか?」
「動機か。強いて言うならば義憤に駆られて、かな」
それを聞いて聖はふにゃりと笑う。
「義憤に駆られてか~。『純正善行』のにっしーらしいね~」
日向高校に存在すると言われるあだ名を真似た通り名。
その保持者の一人がこいつである。
と言うかあたしも持ってるし、聖も持ってる。
あたしは『怒涛烈虎』と、聖は『教会之白悪魔』と呼ばれている。
聖は解る。住んでいる所が教会で私服は白い物で結構腹黒いから。聞いた話によると、昔聖にどうでも良い事を相談した人は泣き寝入りしたらしい。
錦も解る。アイツは変態だけどどこまでも真っ直ぐでどこまでも優しいから。
だがあたしは解らない。ただ格闘技を少しかじっているだけのあたしに何故、こんな通り名がついたのだろうか?
あたしの葛藤を余所に聖は結論を促した。
「で、どうする~? このままじゃあの腐って蛆の湧いた脳の先輩方に何かされるよ~?」
「確かにな。されなくても何かしらの影響を及ぼし兼ねない」
「……なら、手段は一つしか無いわね?」
あたしがそう言うと、やつと聖はこくりと頷いた。
あたしとやつの言葉が重なる。
「「全力でぶっ潰す」」
……数時間後。商店街の路地裏の奥深くにある廃工場に三人の男が倒れる事になる。
帰り道。あたしと聖とやつは並んで歩いていた。
「ん~。結構呆気なかったね」
「そうだな。もう少し強いと思ったんだが」
「ま、弱い奴にしか威張れない奴にはあの位が妥当でしょ」
あたしがそう言うと、やつは表情を崩し、
「なんてドライな意見なんだハニー! そのドライな意見に惚れ直したよ! 将来は幸せな家庭を築こう! 子供は……そうだなぁ、バスケが出来る位の数を儲けてほしょあべらっ!」
……あたしは何もしてない。ただ前方から物凄い勢いで男が走ってきて、やつをぶっ飛ばしただけなのだ
男はそのままの勢いで走り去り、やつはアスファルトに寝転がった。とりあえず、蹴ってたたき起こす。
「邪魔くさいから起きろ」
「う、うう、つれない言葉だがそこに萌えぐふあ」
とりあえず、踏んづけた。
「いいから起きろ」
「うう、やはり間違い無い。今日のハニーはピンクのパン」
「ど・こ・見・て・ん・の・よォォォォォ!!」
あたしはやつを思いっ切り蹴飛ばした。
◆
蹴飛ばされるにっしーを見ながらわたしは思う。
(やれやれ、姫もツンデレだなぁ。ま、見てて飽きないけど)
そう思いながらわたしはにへらと笑い、蒼天を仰ぐ。
もこもこと膨れた入道雲と、響き渡る蝉の鳴き声。そして何処までも蒼い空。
――日向市に夏が来ようとしていた。
恒例の
~登場人物紹介~
美端西姫
女
日向中学二年生
ツンデレ(聖いわく)。格闘技を習っており、そこらへんの人間より遥かに強い。
彼女の通り名『怒涛烈虎』の由来はどんな人間にも平等に怒り、叩きのめす所から来ている。
深旗錦
男
日向中学二年生
変態。通り名の理由は本文にて。華葵 架恋の男&劣化版。何故劣化版かって? 放送室に行くような行動力は無いから。因みに喧嘩はそれなりに出来る。
石堂聖
女
日向中学二年生
腹黒い。居住区の教会に住んでいる。通り名の理由は同じく本文にて。
不良さん方。
三人。名前はタケ、菊池、シンジ。
少々グダグダになりました。因みに不良とのバトルシーンは書こうとしましたが、書いたらよりグダグダになりそうなので。と言うか、自分はバトルシーンを書くのが苦手の様です。




