12A日向高校の情勢
◇ハロルド・ディスクレイス
「……ふム」
「どうしたハロルド」
放課後、思案に暮れていると、友人の柊木が声をかけてきた。
「いヤ、少し担任に頼まれてナ」
「なにをだ」
柊木が質問する。相談に乗ってくれるのか、それともただ聞きたいだけなのかはわからないが、行き詰まっていた所だ、何かヒントになるかも知れない。
「最近、新入生が来ただろウ? 」
「ああ」
「それで色々と何かトラブルが起きても大丈夫なように現在この学校の情勢を纏めろと言われたんだガ、具体的にどうすればいいか迷っていてナ」
「ふむ」
腕を組み柊木は考える素振りをみせた。その後ろを同級生が通る。やがて柊木は口を開いた。
「とりあえず何か問題が起きそうな部活や人の事を聞き込んだりすればいいんじゃないか?」
「やはりそれがいいかもしれないナ。……しんどそうだガ」
「なんなら手伝おうか?」
「いいのカ?」
僕の問いに柊木は頷いた。
「ああ。今日はこれと言った用事が無いからな」
「ふム」
僕は数瞬考え、頷いた。
「なラ、頼ム。僕はとりあえず光村のとこへ言ってみル。あいつ割と耳が良いしナ。柊木は文芸部へ行ってくレ。あそこは問題児が集中しているらしイ」
「文芸部か。白木や根古御坂は言うまでもないし、マドンナ候補が二人くらい居て、自称なんちゃら求道者が入ったって光村がこの前言ってたな」
言う柊木に僕は言った。
「早くも帰りたくなったカ?」
「いや。華葵も連れていこうか、と思ってな」
思わぬ言葉に僕は首を傾げる。
「そこに何故華葵が出てくル? とうとうデレたのカ」
「俺とお前には大きな認識の相違があるようだな、ハロルド。まず俺はツンデレでは無い」
柊木の言葉に僕はさらに首を傾げる。
「……ふム。柊木が百歩譲ってツンデレでないとしても、華葵が出てくるのはおかしいゾ。やはりデレたカ」
「殴ることも辞さない。いや、あいつ二年生だから俺よりは親しくなれるかな、と思ってさ。それに最近何故かあんまり俺に吶喊してこなくなったし」
「多分君が三年生になったからだろウ。彼女もそこまで馬鹿ではないだろうしナ。……多分」
「まあこの前いきなり突っ込んできて窓から落ちそうになったんだけどな」
「すまン。前言撤回ダ」
「そうか」
「しかし俺が三年生になったから……か。あいつも考えてるのかね」
僕の言葉に柊木は二、三回頷いた。
「ま、とりあえずあいつの教室に居って居なかったら諦めるか」
「やはりデレ期カ」
「殴るぞ。で」
促した柊木に僕は頷き、
「うム。とりあえず明日辺りに今日聞いた事を纏めて持ってくると言うのはどうだろウ」
そう提案した。柊木は頷いた。
「携帯電話持ってないからな、お前。お前が居候している楠木家に電話を掛ける案もあるんだが、一旦纏めた方が無駄が無いかもしれないしな。それで行こう」
ハロルドと別れ、華葵が居る教室に向かう。
さて、居るか?
そう思いながら開け放たれた入り口から中を覗き見た。
果たして華葵は居た。椅子に腰掛け、周りの同級生と喋っている。……ふむ
こうして見てみると確かにあいつはマドンナとかに選ばれる外見をしている。……まあ普段の俺への態度があれだから実質プラスマイナス0なんだが。
そんな取り留めない事を思っていると、不意に華葵はこちらの方を見、……目が合った。
何か叫んで吶喊してくるか、と身構える。が、予想は外れ、華葵は何事か話かけた友人に顔を向けた。
気付いていないのか、いや確かに目が合ったはず、そう思っていると不意に華葵が立ち上がった。
周囲の同級生と二言言葉を交わした後、こちらへと歩き出す。
嫌な予感と共に、俺は入り口から二、三歩後ろへ下がった。
足音が教室の中から響き、途絶え、瞬間、
「YES、先輩フィーバー!」
訳の解らない叫びと共に華葵が入り口から飛び出し、
そして、俺と華葵の鬼ごっこが始まった。
「……ム?」
なにやら校舎内からどたばたと騒音が聞こえ、振り向く。
まあ大方柊木と華葵が追いかけっこをしているのだろうと思いつつ、武道室の扉を開いた。
中に入り、辺りを見回す。壁際で汗を拭いている光村が居た。
「あ、ハロルドー。何か用?」
こっちに気づき、言う光村
「うム。少々聞きたい事があってナ」
「んー? なになに、この光村様に何を聞きたいのかな~? うむうむ存分に申し上げたまえー」
「……他を当たるカ」
「わー、解った、解ったってばー」
振り返る扉に向かおうとすると光村が引き止めた。扉に向かうのを止め、光村を見る。光村はスポーツドリンクと共にパタパタと足音を立て、こちらにやって来た。
「で、何ー?」
「うム。少し担任に頼まれてナ。簡潔に言うト、新入生入ったのでトラブルが起きても大丈夫なようにいまのうちに問題児を纏めてみよウ。OK?」
「オッケー。……んー」
そう言って光村は手を顎に当てた。ふむ。全く似合わない。そう思っていると
「やっぱナウいのは文芸部だよねー」
「それは柊木が行っていル。もしかしたら華葵もダ」
僕がそう返すと光村は首を傾げた。
「んー? なんで華葵ちゃんと柊木が? 」
「デレ期ダ」
「なるほどー」
今ここに柊木が居たら殴られそうだな。そう思いつつ話を進める。
「他には?」
「特に無いかなー。問題児と言うか恐怖の料理人がいる料理部には最近胃袋キャラが入ったらしいんで、問題無いらしいし」
「ふム。確かに問題無いナ」
「むしろ部員は全員泣いて喜んでたよー。後は華葵ファンクラブだけど、これは言うまでも無いよね?」
僕は頷いた。
「あア。既に釘は指して置いたし大丈夫だろウ。来年は柊木が居ないからごく普通のファンクラブになるだろうナ」
「ま、あとは新しく入った……郡山ちゃんと稲荷ちゃんだったかな。この二人のファンクラブが作られそうだね」
「まア、稲荷には草薙と言う彼氏が居るそうだガ」
「べったりらしいね。……んー。大丈夫かな?」
「多分、大丈夫だろウ。華葵ファンクラブが物あ騒なのは柊木がツンデレを発揮しているのが理由だからナ」
光村は僕の言葉に溜め息を吐いた。
「自分達の憧れの好意を何無碍にしとんじゃわれコラぁ的な感じだねー。つまり信がデレれば彼らの物騒さはなりを潜めるって事?」
前半の例えはおかしいが、後半はまあ僕も同意する。
「悪戯に似たような危害は加えるだろうガ、帰り道を襲うなどと言う過激な行動は少なくなるだろウ」
「んー。去年はなんとか抑えられたけど今年はどうだかなー。やっぱり信が卒業する前に、華葵ちゃんとどうにかさせたいよねー」
「……一筋縄では行きそうに無いだろうがナ」
僕の呟きに光村は頷き、
「ま、どうにかなるでしょー」
そう返した。
「確かにナ」
と返し、校舎の方を振り返る。……さて、あちらはどうなのだろう。
◇柊木信
「ふ、ふ、ふ……待って下さいよ……、先輩」
「絶……対に、嫌、だ……」
数分後、俺と華葵は息も絶え絶えで廊下に居た。5mくらいの距離を置いて相対する。
とりあえずお互い息を整えた。数瞬の沈黙の後、華葵が問う。
「で、何の用なのですか? 先輩」
「ん、いやハロルドの用事に付き合ってでだな」
そう言うと華葵は頷いた。
「なるほど衆道ですか」
「ハロルドの分まで返答しよう。断じて違う」
「いやだって突きあ――」
素早く華葵の口を塞ぐ。もがもがーと雑音。
「はいこの話終わり。と言うかどこで覚えたそんな言葉」
返答は帰って来ない。何故か、と思い気づいた。口を塞いだままだ。離そうと思った瞬間、手のひらに生暖かい物が通り過ぎた。うわ、っと声を上げ手を離す。華葵は味わうように目を瞑り、しばらくして開いた。そして何事もなかったかのように返答する。
「いえ、同級生の趣味でして」
「ああ、大体解った」
手を服の裾で拭いながら俺は即答する。
「でー? 愛の告白ですか? それとも婚約指輪進呈ですか? もしや甘い夜へのお誘い!? そんな、ちょっと心の準備が……」
「妄想の世界に飛び立とうするな、戻ってこい。……で、本題に入るとだ。ハロルドの用事の手伝いで今から文芸部に行く事になってな。お前も一緒に来るか?」
そう言うと華葵はやや考え、やがてキラキラとした表情をこちらに向けた。
「そこで先輩が私に愛がたっぷり入った、チョコレートと生クリームとはちみつとジャムとマーガリンがかかったパンケーキより甘ーい告白をする訳ですね!?」
「しねえよ。と言うか現在文芸部は10人以上入部してるからな。誰か居るだろう」
そう言うと華葵は何故か口を尖らせた。
「もー乙女の妄想を邪魔してー。あれですか、嫉妬ですか、わたしの中の先輩に嫉妬ですか先輩? もー。大丈夫ですよ、わたしの中の先輩は目の前に居る先輩だけですから!」
「ああ、そう」
もう面倒臭いので素っ気無く返した。華葵は頬を膨らませて抗議する。
「なんですかその反応ー。意思の相違はボンペイの崩壊を招くんですよ!」
既に崩壊してるぞ、その都市。内心でそう突っ込みつつ、俺は部室棟へ歩き出した。
「ダウト」
俺はそう言って郡山の表情を伺った。郡山は告げられた言葉に少しも反応しない。
読み違えたか、そう思った瞬間、郡山が伏せられたカードを捲った。見えたの数字は6。郡山の前に春日が出したのは3。俺は胸を撫で下ろした。
「いやあ良く解ったね?」
隣で唐崎が言う。
「まあな。そう言うお前は解ったのか?」
「もちろん」
その割にはなにも言わなかったな。そう言うと唐崎は肩をすくめ、
「僕は楽しければそれで良いからね。楽しい事に勝ち負けは価値すら無いのさ……いま僕上手い事言った?」
「すまん。聞いてなかった」
「おやおや。人の話はちゃんと聞きなよ」
そう言って唐崎は手札から一枚、カードを引いて出した。
俺も一枚出し、それから横を見る。
横にはいちゃいちゃと雛鳥ごっこに勤しむ草薙と稲荷。それから少し離れて椅子に腰掛ける哭搭先輩。俺達と入れ替えに飛び出していった白木先輩、根古見坂先輩とそれを追いかけていった黒木先輩と狗神先輩はまだ帰って来ず、灰谷先輩と八崎先輩はの二人は用事があるそうで来て居ないらしい。
「……ん?」
とりあえず横で雛鳥ごっこをしているバカップルが眼に毒だ。そう思いながら眺めて居ると視線を感じた。見ると春日だ。
「どうした。俺の顔になにかついているのか?」
「い、いえ、なんでも無いです!」
そう言って手札で顔を隠す春日。なんなのだろうと首を傾げ、そして何故かこちらを生暖かい眼差しで見つめる郡山を見た。
「……なんだその生暖かい眼差しは」
「いえ。あなた割と鈍いのね」
失礼な。俺は妹が髪を切ったのに気づけるぞ。……母親が気付けば。
いや、何故切ったか解らない程度に切るんだろうな? 言い訳じみた感想を内心で呟きつつ、カードを出す。
やがて春日が申し訳無さそうに上がり、続いて俺、唐崎が上がった。ビリは郡山。無表情で郡山が言う。
「もう一回、やりましょう」
こいつ結構負けず嫌いだな。ギャンブルとかやったら駄目なタイプだ。そう思いながらも俺はカードをシャッフルする。
全員に配り終え、さてスタートと思った瞬間、いきなりドアがノックされた。
……誰だ? 先生か?
そう予想しながら席を立つ。ドアに一番近いのは俺なのだ。
ドアを開けると二人の男女が居た。
「たのもー」
「失礼する」
男は三年生の校章を、女は二年生の校章を胸に着けている。
「……ええっと?」
どう対応すればいいのか迷う。とりあえずぱっと様子見で解る事は二つ。一つは、この二人が先輩でここの部員では無い事。二つ目は、
「先輩先輩! 後輩達がじっくり私達を見てますよ! あまりにもラブラブな私と先輩に釘付けのようです! どうしましょうか先輩! 見せ付けちゃいます!? それとも、」
「とりあえず黙ってくれ」
「ええー。まさか先輩照れているんですかー?」
「……黙ってくれれば何かくれよう」
「ぶー。解りましたー。婚姻届でお願いしますよー?」
そう言ってむぐっと口を閉ざした女を見で男はため息を吐いた。そしてこちらを見る。
「俺の名前は柊木信。ちなみにこれは華葵架恋」
隣の女――華葵先輩の頭をぽんと叩き、柊木先輩は言った。
「友人の手伝いで、少し聞きたい事がある。……いいか?」
とりあえず返答する。
「ああ、はい。良いですけど……」
柊木先輩は頷き、
「それじゃあちょっとお邪魔する」
隣の華葵先輩と共に数歩進み、中に入って戸を閉めた。
「質問は2、3点ぐらいだから時間はかからないと思う」
そう言う柊木先輩の隣でポケットからメモとペンを出し、構える華葵先輩。
「まず名前を教えてくれ」
俺、春日、郡山、そして唐崎がそれぞれ自分の名前を言う。草薙と稲荷は雛鳥ごっこに勤しんでいるので変わりに俺が二人の名前を告げた。
「出身地、出身校を言ってくれ」
その言葉に唐崎は答える。
「ここの机に座っている4人は全員日向市で日向中学校出身ですよ。あと料理部に居る壱木と緋村も同じです」
ふむ、と柊木先輩は頷き華葵先輩はカキカキとメモに字を記す。それが終わるのを待ってから柊木先輩は俺の後ろ、草薙と稲荷を見、言う。
「……そこの二人は?」
柊木先輩の質問に草薙は柊木先輩の方を見た。その口に稲荷が菓子を入れる。もぐもぐと食べる草薙。それを見て華葵先輩がメモに猛烈な速さで何かを書き込み、破って柊木先輩に見せた。柊木先輩はそれに書かれた内容を一瞥し、奪ってくしゃくしゃに丸めた。。
先程の言動から今書いた事が大体解る。苦労しているのだろうか、と思いつつ、そう言えば中学に似た関係の後輩が居たな、と思い出す。
この学校の危険人物や変人につけられるあだ名を真似た通り名を保持していた。遠くから見かけただけで話した事は一回もなかったが。よくわからないがどちらも同じ名前らしいとの事だ。
そんな事を考えている内に草薙が菓子を飲み込んだ。そして追加しようとする稲荷の手を掴んで止め、言う。
「……出身地は鬼無里村。通っていた中学校は市立芒ヶ原中学校です」
どうやら雛鳥ごっこをしつつもちゃんと聞いていたらしい。
「鬼無里村か。随分遠い所から来たな」
「父さんが薦めたんですよ。丁度良いレベルだし、俺も行ってみたいと思いまして」
「なるほど」
柊木先輩は頷いた。そして顎に手を当て考え初めた。
◇柊木信
……さて、どうした物か。そう俺は思案した。一応名前や出身地などを聞いたがそれだけでは役立てるか解らない。が、かと言って何を聞くかの検討もつかない。
隣に居る華葵の肩を叩く。華葵は何事かをメモに書きながら振り向き、
『どうしたんですか?』
と書かれたメモを差し出した。……そう言えば喋るな、と言ったんだっけ。
「いや、どんな質問をすれば良いのかと思ってな。華葵、お前何か思いつくか?」
『そうですねー。例えばここの部長の白木先輩とか同級生の八崎にこの人たちの事を様子を聞くとかー』
華葵にしては珍しくまともな事を言った事に少し驚きながら考える。
「ふむ。岡目八目と言うしな。良いアイデアだ。が、白木らがどこに居るか解らん」
この部室に居ない事からしてまた何やら騒ぎの中に居るのだろう。
『明日聞くのが良いですかね?』
「……ふむ。ハロルドも明日が期限とは言ってなかったしな。そうしよう」
『八崎くんはわたしが明日聞きに行きますよ』
「ああ。頼んだ」
そう言って俺は前に居る一年生らに終わりの合図を告げようとして、
「……と」
ふと個人的に聞きたい事があったと思い出した。
「最後に質問だ。この学校についてどう思う?」
少しの沈黙の後、御手洗と名乗った少年が口を開いた。
「……少し自由過ぎる事を除けばいい学校だと思います」
御手洗の言葉に同意するかのように春日と郡山が頷き、少し遅れて草薙が
「……少し?」
と、不思議そうに呟きつつ頷き、稲荷は目もくれず、草薙の口に菓子を投入した。
……なんだ、華葵。人の服の裾を引っ張って。
何故か服の裾を引っ張る華葵を無視し、もぐもぐと咀嚼する草薙の手前、唐崎と名乗った少年を見る。唐崎は両手を広げ、
「この学校は素晴らしいと、そう思いますよ。僕にとってこの学校は最高のエンターテイメントです。この場所に僕が求めている物がある、そう思っています」
そう演説した。
「……」
ふむ。この少年――唐崎以外は全員まともそうだ。まあ、稲荷と言う少女はかなりグレーゾンだが。そう思いながら俺はそうか、と頷き、
「そうか。答えてくれてありがとう。じゃあ、失礼する」
そう言って、華葵と共には部室を後にした。
部室棟を出て、さて帰るかとそう思った矢先、
「……そこに居るのは柊木くんカナー?」
白木の声が横からした。
「……ふむ」
幻聴だ、そう断定し歩き出す。
「ちょっとー。待ってよー」
幻聴が追いかけてくる。まったく、本物によく似た幻聴だ。そこまで似なくても良いのに。そう思っていると後頭部に不意の衝撃。左手で後頭部を抑えつつ後ろを見ると、
「よう」
と、手をあげている黒木と何故か膨れっ面の白木が居た。
「白木と黒木か。久し振りだな」
そう言うと白木は隣に居る黒木に顔を向け、
「ちょっ、今さっきまで無視してた人がなんか今あったばかりのような台詞をほざいてるんですけどー!」
「知るか」
そう両断し、黒木はこっちを見て言った。
「しかし柊木。お前確か帰宅部じゃなかったか。こんな所でなにしてたんだ?」
「いやちょっとハロルドの用事で文芸部にな」
俺の言葉に黒木は首を傾げた。
「用事? 文芸部にか?」
ああ、と俺は頷き、横腹を頬擦りしている華葵の襟首を掴んだ。
「簡単に言うとだ、白木みたいな要注意人物と不穏な動きをしている所が無いかの調査だ。まあしたのと言えば名前とか出身地とかだけで、本格的には調査してない。というかどう調査するのかすらまったく決めてなくてな」
横でなんであたしが要注意人物なの~? と喚く白木を無視し黒木は頷いた。
「成る程。つまり簡単な素行調査と言った所か」
「まあ、そうだな。んで黒木、聞きたい事がある」
そう言うと黒木は頷いた。
「何が聞きたい」
「そうだな。曲がりも何もお前文芸部の先輩だろ。今日あった俺達よりは遥かにあの一年生の事を知っているだろう。だから聞く」
摩擦熱が出そうな程に頬擦りする華葵を引き剥がしながら俺は言う。
「あの中で一番要注意なのはなんだ?」
黒木は少し考え、答える。
「大方お前の考えているののと同じだろ。一番要注意なのが唐崎、次点で稲荷だ。……どうだ? 同じか」
「ああ。確かに同じだな」
そう言い、俺は手をあげた。
「んじゃ、そろそろ帰る。じゃあな」
「ああ、またな」
黒木は後ろでくるくる回っている白木の襟首を掴みながら応じ、部室棟に入っていった。
「さて、俺も帰るか……ん?」
くいっくいっと裾が引っ張られる。見ると華葵だ。華葵は何やら抗議するかのような目線で訴えている……が、残念ながらアイコンタクトは解らん。
「なんだ? 華葵」
「……」
くいっくいっ。
「いや喋れよ」
そう言うと華葵は裾を掴むのを止めモとペンを取り出した。さらさらと書き、俺に見せる。そこには、
『わたしは今、愛するせんぱいからプレゼントを貰うため喋れません』
「……ああ、そう言えばそうだったな」
とりあえずこいつは俺と別れるまで喋らないつもりのようだ。まったく、喋らなけば何かをくれる、というのは出任せだったんだが。
……くれる物を決めなければな。そう思い俺はため息をついた。
次回12B、八崎響歌の事情。
おまけ◇こどもトーク
「マオでーす」
「ミオでーす」
「……キャロル」
「何故……何故私は呼ばれたのだ……!?」
「どうしたのー? おねーちゃん」
「なんか目が片目しか無いけどー」
「怪我かな?」
「痛いのー?」
「心配には及ばん。とりあえずさっさと終わらせようか」
「うんー。この紙をー」
「読めばいいんだね?」
「そうらしいな。わたしが読もうか?」
「ううん」
「僕達が」
「読むよ」
「「えーっと」」
「感想」
「質問」
「助言」
「誤字」
「脱字報告など」
「待ってます!」
「……これで」
「いいかな?」
「ああ。多分な。ところで」
「んー?」
「なに?」
「この子供は喋らないのか?」
「うん」
「最近、」
「言葉を」
「習った」
「ばかり」
「だから」
「言えるのは」
「自分の名前」
「だけなの」
「だけなんだ」
「なるほど。……さてお別れだな」
「うん!」
「所でさ」
「おねーちゃんの」
「お名前はなに?」
「……メリー・ミィだ。それじゃあ、また会えたらいいな」
「うん!」
「またね」




