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10Bシュヴァル・レインレイティア

 とりあえず土下寝をしよう。

 何故にこんなに遅くなったのだろう……。遅筆だからか、行き当たりばったりだから。……両方だ、多分。


「……」

「……」

 夜。住宅街は静寂に包まれていた。その空気を裂くように2つの影が歩む。一人は長身の女、もう一人は何かを背負った少女。

「なー」

 女――響歌が少女に話しかける。

「……なんですか?」

 しばしの沈黙後、少女――アリスは言った。

「んーとさあ。悪魔、って具体的にどんなんだ?」

 響歌の問いにアリスは考え込むような動作を取り、やがて言った。

「実のところ、詳しい事は解らないんです」

「へ? 解んないのか?」

 意外そうに言う響歌。

「はい。解っているのは、基本的に悪魔は下級、中級、上級の種類に分けられる事です。下級の悪魔は知能が無く、力しかない。中級の悪魔は知能があり、本体は動物のような物が多い。上級は……良く解らない」

「ん。どうしてだ?」

 響歌の疑問にアリスは答えた。

「目撃例がとても少ないのです。歴史上、上級の出現が確認されたのはたったの二回です。どれも退治出来ず、封印されています」

「ふーん」

「次に悪魔への有効打。基本的に悪魔は聖別された武器に弱いです。が、別にナイフや銃でも傷つける事は出来ます。ただしすぐ再生するので有効打にはなりえないのですが」

「つまり「粉々にぶっ飛ばす!」みたいな攻撃食らっても平気って事か」

 響歌の例えに首を傾げつつアリスは言った。

「ええ。まあ再生は魔力を使うので有限ではないです。だから頑張れば倒せるかもしれません」

「ほい質問ー」

 ばっ、と響歌は右手を上げた。唐突な挙動にびくりとしつつもアリスは答える。

「なんですか?」

「魔力ってなんだ」

「悪魔にとって欠かせない物です。これが無くなると悪魔は滅びます」

「んー。つまり酸素みたいな物か」

「どちらかと言えば水分の方ですが、まあそんな所でしょう」

「ふーん……」

 相槌を打った響歌は不意に立ち止まった。

「久方ぶりだな。払魔師エクソシスト――。それと奇術師ウイザード

 前方に、影。響歌は薄く笑う。

「確かあんたはノワール……だったか?」

「如何にも」

 麗らかな春に合わない黒いコートを身に纏いノワールは頷いた。

 アリスが背負っていた十字架を外し、構える。響歌は両手をわきわきと蠢かせた。

「戦いたい訳ではないのだがな」

「残念ながらワタシの快適な別荘を壊そうとした時点で死刑確定なのにゃー」

「今、あなたの側にルージュがいません。それに時間が経ったとはいえ、完全に回復しきれていない筈。滅する絶好の機会です」

 三者三様の返事を聞き、ノワールはため息と共に呟いた。

「……どうやら見逃してくれないようだな。まったく。あいつの食事に付き合い始めた時から懸念していた事だったのだがな」

 その言葉が終わるのと同時にアリスは足に力を込め――

「……!」

 瞬間、響歌が叫んだ。

「アリス!」

「へ? ……きゃう!」

 叫ぶと同時に響歌は手袋に仕込んだワイヤーをアリスの足に引っ掛け、引っ張った。突然の事にアリスは悲鳴をあげながら体制を崩し――頭の先を、何かが掠めた。

 瞬間、横の壁が轟音と共に砕ける。

「――!?」

 状況を判断するよりも早く、体が動く。崩れた体制を強引に戻しつつその場から離れ、壁を見る。

「ありゃー。はずれたー」

 破壊された壁。その側に一人の少女が居た。

「ねーねーノワールー」

「なんだ」

「このひとたちだれー?」

払魔師エクソシストと殺し屋」

「へー」

 ぶらりぶらりと破壊した壁の縁にぶら下がりながら少女は相槌を打ち――

「えくそしすとさんところしやさんかー。おいしーのかなー?」

 たん、とアリスに向かって跳躍した。

「……っ!」

 予想よりも速い速度にアリスは反応出来ず、

「いっただき、まーす」

 少女は長い袖によって隠された腕を大きく振りかぶり、途中で何かに引っかかったかのようにとまり、びたん、と地面に叩きつけられた。

「むぎゅ」

「下がれ!」

 後ろから響歌の声。アリスはその言葉に従い後退する。

「んにゃー」

 猫のようなうなり声をあげ、ぶつけた鼻をさすり、少女が起き上がる。

「ノワールー。いたかったよー」

「それは良かったな」

「よくないー」

 ぶんぶんと腕を振り回す少女。

「よっと」

 響歌が手を動かす。途端、少女の動きがピタリと止まった。

「あれれー? からだがうごかないよー? どうしよーノワール」

「力任せに動け」

「わかったー。……んー。りゃー」

 ぶちり、とワイヤーの引きちぎれる音。それと共に、少女は高々と跳んだ。

「どんな馬鹿力だよ――っとアリス!」

 少女が着地するであろう場所にはアリス。響歌は千切られたワイヤーをアリスに絡ませ、引っ張る。

 ずざざ、とアリスは響歌の側まで引っ張られ、アリスが居た場所に少女が落下した。響く落下音。

「……なんか、私。足引っ張ってません?」

「物理的に引っ張ってるのはワタシの方だけどねー。にしても困ったにゃー」

「なんですか。まさか御不浄に行きたいとか言わないでくださいね」

「……今の日本人で御不浄トイレを使う人っているのかねー。まあそんな事は溝に捨てて、今はこの場を逃げようぜー」

「何故ですか?」

 首を傾げ不思議そうに聞くアリスに響歌は答えた。

「んー。一つ。あのロリッ娘がわりかし強いって言うか馬鹿力すぎる事。ワイヤーを千切るとはちょっと予想外だにゃー。2つ。今現在武器が無い。手品には仕掛けが必要なのだよチミィ。そして3つ」

 ひょい、と響歌はノワールの上を指差した。そして英語で喋り始める。

「お前がこの付近に居るのは知っていたけど、まっさかこんな時に現れなくていいだろ?」

 ノワールがもたれかかっている電柱のてっぺん。ちかちかと瞬く街灯の恩恵を受けぬその影に響歌は言った。

「――殺戮者キルサイド

 それに対し、影は英語で答えた。

「フ、フフフ。お久しぶりですね、奇術師ウイザード! わたしに殺される準備は出来ました?」

 響歌の唇から返答の言葉が紡ぎ出る。

「あいにく、決意が在庫切れでね」

「あらそう。所でそこの方たちは何かしら? アクマだとかいってましたけど。本当なのかしら」

「んー。試してみれば?」

 そう言うと女――殺戮者キルサイドは首を振った。

「そうしたい所ですけど、まずは再会の記しに愛し合いましょうか?」

「あー。いやいや、丁重に断らせてもらう」

 そう言うと女――はくすりと笑った。

「あら残念。ところで知っているかしら。愛は押し売りなのよ」

「……つまり拒否っても問答無用と?」

「ええ」

 そういって影は電柱のてっぺんから飛び降りた。たん、と軽やかに着地する。闇に溶け込むような夜色の髪とスカートが花のように広がった。

「……アリス」

 右手をスーツのポケットに突っ込みながら響歌は言う。

「今からいかに効率良く逃げるか指示する。その通りにしろ」

「……はい」

 突然現れた女に驚きつつも、アリスは頷いた。

「まず全体、後向!」

「はい」

 くるりと後ろを向く。響歌は右手をスーツのポケットから引き出す。その手にはピンポン玉ぐらいの大きさの玉。右手を振りかぶり、それをアスファルトに叩きつけた

「走れ!」

 叩きつけた瞬間、煙が出る。響歌はそれに背を向け、命令に従ったアリスの背中を追うように走りだした。



「――残念。逃げられましたね」

 煙が晴れるなか、殺戮者キルサイドは悠然と呟いた。

「さて」

 そして後ろを向く。そこには、

「ごほ、ごほ、けむたいよーノワール」

「そうか」

 残された二人の男女。

 男の方が殺戮者キルサイドを見た。

「さて、貴様、殺戮者キルサイドと言ったな。奇術師ウイザードの知り合いと言うのを鑑みると、十指の一人か」

「……十指、と言うのは周囲が勝手に言ってるだけですよ。私はただ、好きな人を探しているだけなのに。――まあいいですね。ところで一つ、聞きたい事があるんですけど」

「なんだ」

「あなた、アクマ?」

 ノワールは少し考え、答えた。

「ああ、そうだ」

 この状況ではどう答えた所で闘う羽目になるだろう。ならここでアクマと答えておけば相手は警戒して少しは有利になるかもしれない。そう考えた上での答えなのだが。

「ふふ、うふふ」

 殺戮者キルサイドが笑った。

「アクマ。少し好きになりそう。……ああ、そうね! 今ここで殺せばいいんだわ。ああなんて素敵な考えでしょう――!」

 失策だったと感じる。この女に常識は通じない。あるのは狂いに狂った、理性。


 不意に殺戮者キルサイドが後ろにすすっと下がった。瞬間、白の弾丸が女が居たアスファルトを砕く。

「だめだよー。ノワールはワタシがあじみするのー!」

 ばたばたと腕を上下させながら少女は言った。

「……我は試食品か。まあ助かったが。――さて」

 どうするか、とノワールが思案するのと同時に少女は再び弾丸となって、殺戮者キルサイドに飛びかかった。

「あら。健気ね。そういうの、――大好き」

 そう言いながら殺戮者キルサイドは少女の攻撃を躱す。

 続く少女の猛攻を殺戮者キルサイドは何度か躱した後、

「んむ。そうね。今宵は良い月だし――名残惜しいけど辞めときましょう」

 そう言ってたん、と跳躍して少女から離れた場所に着地した。

「まてーどろぼうねこー」

「お前が待て」

 追おうとする少女を、ノワールは制した。

「ぶーぶー。なんでとめるのさーノワールー」

「あの女は十指だ。一筋縄では歯が立たないだろう。なら退てくれるのはむしろ有り難い事だ」

 少女は首を傾げ問うた。

「よくわからないけどあじみできないってことー?」

「むしろ我らが出汁にされるかもな」

「んー。ノワールがそういうんならしかたないやー」

 しぶしぶ納得したように頷く少女。そのやりとりを見て、殺戮者キルサイドは笑う。

「面白いわね、あなた達。次会うのが楽しみ」

「……出来れば二度と会いたくないが」

「あら。悲しいわ」

 そう言って殺戮者キルサイドはノワールと少女に背を向け、歩き出した。その姿が曲がり角に消えるのを確認してノワールと少女は反対方向に歩き出した。

「ねー。ノワール、おなかすいたー」

「……ふむ。腹が減っては戦は出来ぬと言うし――とりあえずこんな夜中にでも開いている店を探すか」




「さあてこれからどうしましょうか」

 夜の住宅街を歩きながら、女――殺戮者キルサイドは呟く。

 前方に一人の男が歩いてくる。 殺戮者キルサイドはその横をするりと通り抜けた。瞬間、男はすれ違った側の首筋から血を吹き出す。

 それを後目に、殺戮者キルサイドは呟く。

「そうね。とりあえず、寝る所を探そうかしら」

「それなら良い場所を知っているよ。案内しようか?」

 誰も聞く筈の無い独り言に返答があった事に殺戮者キルサイドは目を見張った。くるりと後ろを向く。

 そこには一人の男。

「……」

 殺戮者キルサイドはその男に見覚えがあった。何故なら。

「おやどうしたのかな。今、殺した筈のぼくが生きてるのが不思議かい?」

 その男は今、殺した男なのだから

「……ええ。ところであなた、良い場所を知っているの?」

「ん? ああとて、も良い場所だ、よ。案内、しよう、か」

「ではお言葉に甘えて」

「あ、あそ、の前、に」

「何かしら」

「喉を、切り裂、くのは、止めてくれない、かな。ちょっ、としゃ、べり辛、くな、るん、だ」

「残念」

 そう言って殺戮者キルサイドはナイフを振るう腕を止めた。

「それにしても死なないんですね。素敵だわ」

「いやいや、そんなに素敵な物じゃないよ。退屈なだけさ」

「そう?」

「そう」

 相槌を打ち、男は言う。

「ところで一つ、聞きたい事があるんだ」

「なにかしら。スリーサイズは教えませんですよ」

「いやいや、欠片も興味が無い」

「あらそう」

「で、質問。君は何故、ぼくを殺そうとしたんだい?」

 その問いに殺戮者キルサイドは首を傾げた。

「……うん、言葉にするにはちょっと難しいですわね。……好きになりそうだから。これが一番しっくりくるかしら」

「よく解らないな」

「んー。私、惚れっぽい性格なんです。見ただけで好きになっちゃった事も何回かありますし」

「それそれは。難儀な性格だね。で、それが殺すのとどう関与するのかな」

「人を愛せる容量は一人だけってお母さんから教わりました。。だけど私は惚れっぽいから、すぐ好きになってしまいます。だから、殺すのです」

 男は首を傾げた。

「ん? 話が見えないんだけど」

「……ううん。言葉にするのは初めてだから上手く説明出来ないかもしれないんですけど。殺す事で独り占めするんですの。その人が最後に見た人間は私で、殺されるはじめても私。最後の言葉も私だけが知っていて、降りかかった血潮と最後の温もりを私だけが覚えている。もし幽霊、という物がいたら考えただけでぞくぞくします――。だって私を恨んでいるという事で、ずっと見ててくれるって事なのですから! ――ああ……、なんて素敵なんでしょう!」

 うっとりとした表情で謳う殺戮者キルサイド。その言葉には一切の虚言も無く、心の底からいってるのだと伺える。

「迷惑な愛し方だねえ」

 呆れたようにいう男。

「でもどうやらぼくとキミ、相性は良いようだ」

「あら? どうしてかしら」

「ぼくは死にたい。キミは殺したい。噛み合った歯車のように利益は一致する」

「利益が一致するのはありがたい事なのですけれど――何故、貴方は死にたいのでしょうか?」

 殺戮者キルサイドは不思議そうな顔で問った。

「死にたいからだよ。ぼくはありふれた死に方をしたい。ご先祖様が考えた死に方をするのはごめんだ。ぼくは普通に死にたい――だから、キミはぼくを殺せ。ぼくは好きなだけ死んであげよう」

 殺戮者キルサイドはしばし目を見開き、やがて微笑んだ。

「それはプロポーズと受け取っていいのかしら」

「キミが望むなら」

「――いいでしょう。私の名前は殺戮者キルサイド。あなたのお名前は?」

「シュヴァル。シュヴァル・レインレイティア」

「シュヴァル、レインレイティア」

 吟味するかのように名前を告げられた呟き、殺戮者キルサイドは言う。

「……そのプロポーズ、受けましょう。私は貴方をアイし続けます」

 殺戮者キルサイドのその言葉にシュヴァルは、

「ならぼくはキミにコロされ続けよう」

 そう返答した。

 その返答に殺戮者キルサイドは笑い――。

 歪な関係の二人は夜の闇に溶けた。



次は1ヶ月以内に書いてみせる! と宣言してみるがはてさて。とりあえず登場人物紹介。



草薙樟葉クサナギ クズハ

日向高校一年生

S県の端っこにある鬼無里村から来た。群羽とは幼なじみ。コンセプトは日向市の外からの視点




稲荷群羽イナリ グンハ

日向高校一年生

樟葉と同じく鬼無里村から来た。樟葉にべったりしている。無表情。コンセプトは素直な無口



殺戮者キルサイド

十指

人を殺す事で愛を表現する狂人。丁寧な口調で話す。どっかの短編に似たようなキャラが居るが他人の空似。



シュヴァル・レインレイティア

無職

死にたがる吸血鬼。死にたがる理由について、「性質」と答える。



 次回予告

部活。それは青春の真っ只中にいる俺にとっては少々重要な課題だ。さて、どうするか。

the next title

11A文芸部




「第二回! 『八崎響歌の説明不足』、拍手っ!」

「……企画倒れしたんじゃないのか?」

「いつから企画倒れたと思っていた? 錯覚だ」

「なん……だと……?」

「知ってるのかよ」

「いや、知らん。なんの漫画だ?」

「んー。まあいいや。さて、今回の素晴らしき無駄知識は~」

 じゃんじゃかじゃーん。

「ぶらり裏世界ー」

「意味不明なタイトルだな。察するに裏世界についてか?」

「ん。裏世界の定義みたいな何かね。まず、快楽で人を殺す奴がいたりする。さて、3つの系統のどれに属するか。やがみんみん、どうぞ!」

「なんだそのふざけたあだ名は。……まあいい。さて、快楽殺人鬼は3つの系統のどれに属するか。……基本的に犯罪だな。一部の武力に属する奴らも快楽か何かで依頼に無い殺しをするがな。十指の中では……覇王鮫タイラントシャークが一番近い、か」

「あの人は快楽で殺すんじゃ無いけどね。ていうか最近見ないなあ」

「あの人、結構年だからな。死んだのかもしれん」

「……ブラックな世界になりかかってるんで強引に切り替えてみる。それー」

「……なんだ、この紙は」

「場面を切り替える魔法の紙切れ」

「つまり読めと。えっと、『感想、質問、助言、脱字報告等、待っている』……これで良いか」

「オッケイオッケイ。さてラーメンでも食べにいきますか。――矢神の奢りでな!」

「おい」



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