short2Valentine's Day.
とても遅くなったのでとりあえず土下座。
「氷司ー」
「……なに、姉さん」
制服に着替え終えた時ドアの向こうから姉さんの声。いつもはもっと遅く起きてくるのに今日はやけに早い。何故だろう。
「お姉ちゃんからプレゼント~」
「ほとんど変な物だから要らない」
「そう言わずにさー。ドア開けてよー」
「……」
無視を決めようかと思ったが、すぐドアを蹴りやらでぶち破る姉さんの姿を幻視し、止めた。
ため息を吐き、ドアを開け、
光の速さで閉めた。
「むお!? なんで閉めるのさ、マイブラザー!?」
「姉さんの手に巨人を殺せる殺戮兵器があったからだ」
「なにおう!? せっかく作ったこのチョコが殺戮兵器だとう!?」
「殺戮兵器以外に他の呼び名は考えられない」
「むーぎー」
「……あれ? お姉ちゃん、お兄ちゃんの部屋で何してるの?」
扉越しに睨みあっていると、不意に弟の豹真の声が聞こえた。
「お、ヒョウマ! 丁度良い所に! 甘い物好きだよな?」
「……? うん、好きだよ」
「じゃあ優しい優しいお姉ちゃんからこれをくれてやろう!」
「……! いらないっ」
「おう? 逃がさんぞー? ヒョーマー」
ドタドタと騒がしい音がドアから響き、やがて台所付近から悲鳴が上がった。……豹真、死ぬなよ。
柊木信視点
「あー……くそ。早く着きすぎた」
人気の無い廊下を歩きながら俺は呟く。教室のドアを開けようとし、漏れ出る声に気づいた。
「最近ね、先輩が冷たいんですよー。」
明らかに華葵だ。
「それは大変そうだね」
こっちは……光村か。一体何をしているんだ、この二人。……まさか待ち伏せ?
「そうなんですよー。もう私浮気してないか心配でー。で、相談なんですけど、この倦怠期、どうにかなりません?」
「そうだね、一つあるよ?」
「なんですか?」
「ずばり、既成事実を作れば良いんだよ!」
「なるほど、それは良いですね! じゃあ今夜早速、」
「やるな馬鹿」
ガスッ。
「痛っ!? 誰ですか、って先輩!? なんでここにいるんですか!?」
殴られた頭を押さえながら、こっちを見て驚愕する華葵。どうやら待ち伏せではなかったらしい。
「その質問はそっくり返す。光村はともかく華葵。何でお前はここにいるんだ」
前述の通り現在の時刻はやや普通の生徒が登校するには早すぎる時刻。
「ベ、別に今日がバレンタインだからじゃないんですからね!」
「おー。華葵ちゃんツンデレー」
「……」
殴ろうかどうか迷ったが「どめすてぃっくばいおれんすですよー!」とか叫ぶのが浮かんだので止めた。かわりに自分の机に向かいバックを持つ。
「ふふふ、先輩がツンデレなら私もツンデレになればいいのです!」
「逆転の発想だね」
馬鹿げた会話をしている二人組にばれないように教室を出ようとして、
「あ、華葵ちゃん信が逃げようとしているよ!」
光村のリークによって失敗に終わった。
「逃がさないですよー! 先輩!」
「チッ」
舌打ちし、走る。後ろから「待ってくださいよ先輩!」と追いかけてくる声。
「……やあハニー。今日は絶好のチョコ日和だね!」
「……それが?」
「おやおや、解っている癖に惚けるとは流石ハニーツンデレだ!」
「殴っていい?」
「殴った回数だけ愛を囁いてくれるなガフッ」
「蹴りならいいわね」
「殴った回数と蹴った回数ゴホッ」
「じゃあ頭突きで」
「くっ……流石ハニー、賢いぜ! だが今日のぼくは一味違うのさ!」
そう言ってポケットから何かを取り出そうとした馬鹿だが「トマトアイスが呼んでるぜ!」とかなんとかを叫びながら走ってきた男と激突し、吹っ飛んだ。
「……む。すまない少年! だがわたしにはトマトアイスが待っているのだ」
そう言って男は走り出した。
「あ、姫。おはよう」
「……おはよ」
とりあえず角を曲がって現れた聖に挨拶をした。
「今日は絶好のチョコ日和だね」
「日和じゃなくてもあんた貰えるでしょ」
「まーねー。所でなんかにっしーが倒れてるんだけどどうしたの? まさか隕石でも降ってきた?」
「そんな訳ないでしょ。通りすがりの人にぶつかっただけよ。ほっといて大丈夫だろうから早く行こ。もうそろそろ急がないと行けないし」
「そうだね。にっしーも早くしなよー?」
馬鹿に声を掛けあたしと並ぶ聖。
◇八崎 京仁
廊下を歩いていたら哭搭が現れた。
「チョコです。受け取ってください。ちなみに義理です」
「……お前の事だからホワイトデーの返しを狙ってるんだろうが」
「……ノーコメント。ちなみにリリースは受け付けません」
「あっそ。ま、とりあえずバッグの中に入れておくよ。からかわれるしな」
「そう。じゃあ」
「おう」
◇御手洗断悟
「おー御手洗。チョコくれ」
昼休み。屋上に来た俺に寝そべりながら壱木はそう言った。
「なんでだよ……」
ツッコミながら定位置に座る。そして壱木に尋ねた。
「ていうかお前、今朝会った時にたくさん貰ってなかったか?」
こいつの胃袋キャラが好みなのか、それとも残飯処理が目的なのか、こいつは毎年たくさんチョコを貰っている。確か今朝会った時も、チョコが入った紙袋を沢山抱えていた筈なんだが……。
「さっき全部食っちまったー」
……さいですか。
胃袋キャラっぷりに少し呆れていると唐崎がやって来た。
「やあ。御手洗君。チョコ貰えたかい?」
「……残念ながら妹からの義理チョコのみだ」
「そうかい」
「そう言う唐崎はどうなんだ」
「ん? まあまあ」
そう言って唐崎は何時もの所に腰を下ろした。
「まあまあって事は少しは貰えたのか?」
「まあ。こんな変人になんで惹かれたのか解らないけどね」
不思議そうに言う。そして俺に言った。
「ああ後、御手洗君。君が貰えるチョコは3つだ。良かったね」
「……?」
唐崎の言葉に首を傾げていると校舎へと続くドアがまた開いた。見ると郡山と春日だ。
「郡山。おはよう」
「……おはようみたらし団子」
「そのあだ名で呼ぶな」
「ああごめん。お詫びにこれあげる」
そう言って郡山はチロルチョコを取り出した。
「義理か」
「当たり前よ」
簡潔に返す郡山。まあもとから本命を期待していた訳では無いし、むしろ郡山らしい。
「あ……あの、」
郡山の後ろで背をこぢんまりとさせながら春日が言った。そして口をもごもごさせる。郡山が気がついたように言う。
「ああ……御手洗。喜びなさい。手作りチョコよ」
「……ん?」
郡山が春日を押し出す。
「え、えっと、御手洗さん、受け取って下ぴゃ……」
言葉を途中で切り、口を抑える。どうやら噛んだようだ。
「……おい、大丈夫か春日?」
「…………ふ、ふふ、どうせ私なんか……」
呟く春日。嫌な予感アラームが全力で警報を鳴らす。
ふらふらと春日がフェンスに向かって歩き出す(ちなみに前はフェンスはなかったのだが鍵が壊された事によりついた)。うん、このパターンはあれだ。いつものあれだ。
「まて春日ー!」
フェンスによじ登ろうとした春日を止めに走る。
横目に見えるのはああまたか、と言う表情の郡山、遺憾せずむしゃむしゃと何かを食ってる壱木。……頼むから手伝ってくれ……。
時間は流れ夕方。
「やあ冴えない男」
とんでもなく失礼な言葉が後ろから聞こえた。振り向くとスーツ姿の女。その姿を見て俺はため息を吐いた。
「……今の言葉は世界暴言辞書に載っても良いくらいの暴言だったな」
「そうかな」
首を傾げる女に問う。
「……で、なんでお前がここに居る、響歌。1ヶ月くらい前までサボってたから仕事溜まってるんだろ」
「いやーねー。なんか飽きた」
「飽きたって……お前な」
「まあいいだろ。そんな事より今日はあれだ」
呆れ顔の俺に構わず響歌は言った。
「あれ? ……ああバレンタインか」
「いえす」
そう言って響歌は手を差し出す。
「……なんだ、その手は」
「プリーズギブミーチョコレート」
「……普通、それを言うのは俺の方だと思うんだが」
「世の中には便利な言葉がある。「お前の物は俺の物、俺の物は俺の物」」
「……どこのガキ大将だ。……はあ。解ったよ。ほい」
手提げていた紙袋から袋に包まれたチョコをつまみ、渡す。渡されたチョコを頬張りながら響歌は言った。
「ひゃへにひゅんひがいひな?」
「……食べながら喋るな」
「ひゃいひゃい。……やけに準備がいいな?」
チョコを飲み込み言う響歌
「なんかそんな予感がしたんだ」
「ふーん? まあいいや」
「で、お前は今日もか?」
「ああ。弟にこっそりチョコ渡してくる」
「……相変わらずだな。そんな事をするなら普通に会えばいいのに」
「駄目だ。下手に会ったら巻き込んでしまう。いつどこで誰が見てるか解らんからな」
「……俺はいいのか?」
「冴えない男を巻き込んだ所で何か変わる?」
両手を肩の高さに上げ、やれやれと首を振る響歌。
「……とりあえず次来た時、出される物はピーマンの鮨詰めだと思え」
言った瞬間、土下座された。
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません! ワタクシが悪う御座いましたからどうか御慈悲を!」
「解った、解ったから土下座やめろ」
「ヘイ、聞いたかジョニー?」
「何をだ? ブライアン」
「女に土下座させた鬼畜野郎がこの辺りにいるらしいぜ」
「oh! ところでブライアン。一つ言いたい事がある」
「なんだよジョニー。真剣な顔しやがって。まさか便秘か?」
「いや、それは昨日治った」
「そうか、良かったな! で、なんだ?」
「社会の窓が開いてるぜ?」
「oh、no」
神社仁
「……なあ」
ちょっと気になっていたので帰り仕度をしている玄狼に聞いてみる。
「む。なんだ」
「今朝から蘭の様子がおかしいんだが」
「ふむ。確かにな。心当たりはあるか?」
「んー。これと言っては。――ああ、そう言えば去年もちょっとおかしかったな。翌日は普通になっていたが」
そう言うと玄狼はなにやら心当たりがありそうな顔つきになった。
「この日だけにか? 翌日は正常だったのだな」
「ああ。ちょっと落ち込んでたけどな」
「……なるほど」
ガタリと玄狼は立ち上がる。
「ちょっと外に出てくる。帰ってこなかったら帰ったと思ってくれ」
「ん? ……ああ」
「矢張りか。先程から気配がしたからな」
店の外。近くの電柱に潜む女に玄狼は声をかけた。
「……あ、玄狼さん……」
驚いた表情で蘭は玄狼を見た。その手にはラッピングされた包み。玄狼はため息を吐いた。
「お前の気弱はいつもの事だがな……。今時アルバイトの女子ですらお返しを期待して義理チョコを与えるんだ。渡した所で気まずくはならないだろうに。ずっと後込みしていては駄目だぞ」
「わ、解ってはいますけど……」
言い白む蘭を横目に玄狼は電柱に背中をつけた。
「……後押ししてやる」
「……え?」
「誰だって好きな人を好きだと言えない時期がある。それは一瞬だったり一年以上だったりする。お前はそれが二年以上続いている。ただそれだけの事なんだ」
「……慰めているんですか?」
「……そう思っているのか? だとしたら見当違いだな。言っただろう。これは後押しだ」
「……」
「さて、俺がこんな臭い台詞を吐いたんだ。さっさと渡してこい」
「……はい」
返答し、蘭は俺の横を通り、店内に入ろうとした。入る直前、こちらを向いて立ち止まる。
「ありがとう、ございます」
ひらひらと玄狼は手を振った。
きい、とドアが開き、鈴が鳴る。それを聞き届け、俺は歩き出す。
「お邪魔虫は退散とするか」
夜。百棟家
「ただいま。……なんだい、これ」
帰って来た家長、百棟蒼空はリビングの光景を目にして呟いた
目の前には茶色の野原。否、崩れたチョコに埋まった机。
「……あ、おかえり兄さん」
「ん、ただいま」
次男である百棟弧赤が蒼空に気づいて挨拶する。
「で、なんだいこれ」
「えっと、今朝兄さんが出勤した後――」
「弧赤弧赤。バレンタインとはなんだ」
「おっさんを祭るイベントだぜ!」
ゴスッ
「いつものように嘘吐かない。バレンタインって言うのは好きな人にチョコをくれるイベントだよ。その翌月の14日にチョコをくれた人がお返しするホワイトデーって言うのがある」
「……最近兄ちゃんのツッコミが激しくなってないか?」
「気のせい気のせい」
「ふむ……よし、弧赤。ワタシはチョコを作るぞ!」
「え?」
「よっしゃー! あたしも手伝うぜ!」
「……とまあこんな感じで夕方から作り初めて……」
なるほど、と蒼空は頷いた。
「その結果がこの惨状かい」
「うん。あ、兄さんその包みは?」
「ん? ああ。辿理さんから貰ったんだ。ホワイトデー期待しているってさ」
「ふうん」
「あ、兄貴お帰り」
台所から縁が姿を現す。そして蒼空の持っている箱に目ざとく気付く。
「あ、それ辿理さんからのチョコ?」
「うん」
「ほうほう。……で、式はいつの予定で?」
「まださすがにそこまでは……」
と言う訳でようやく完成。嘘みたいだろ……。これ書いたの11月か12月辺りからなんだぜ……?
ホワイトデーやろうとしたけど無理っぽいのでまたどっかの時に。
次回は入学式編……の予定。
ちんたらしてる間に登場するキャラが少なくなっちまったよ……。まあ無駄な所もあったので良い事だと思いますが。
では次回予告。
――春。それは出会いであり、花粉症真っ只中であり、別れであり、物語の始まりに相応しい季節である。
それは日向市も例外では無い。
the next title
10C〈草薙樟葉〉
の予定。後、その前に幕間を追加予定。
↓以下全く持って役に立たないコーナー。
「……と、言う訳で始まりました。新コーナー『八崎響歌の説明不足』」
「……いきなりなんだ、響歌」
「ちょこっと電波がビビビビビ」
「……病院紹介してやろうか」
「つれない相方は置いといて、今回はワタシの能力スペック~ポロリもあるよ~だぜ」
「最後嘘だろ。……ん、なんだこの紙。ええっと、「実は響歌にはとある設定があったのですが……」なんだこれ」
「おお、説明欲しいかいワトソンくん!?」
「いや別に」
「つれないZE。まあ馬鹿はともかくワタシの能力だが――ほら、ワタシが一度ここの日向市に来た時コンビニ強盗を伸しただろう」
「やっぱりあれはお前の仕業か」
「あの時ワタシはある技で不埒な強盗に止めを差したんだが……あれな、没設定みたいなもんなんだ」
「没設定?」
「簡単に言えばもうこの先では使用しない一回こっきりの技」
「言ってる意味が全く持って意味不明だが――つまりあれか。一度こっきりの大技か」
「ワタシの場合は小技だけどね。で肝心の技に入るけど、なんか生まれつき備わっていた能力なんだ、これ」
「超能力ってとこか」
「まあ何でもぶった斬る剣術やら姿、気配を完全に消せる暗殺術に比べればはるかにまともかもしれないね。ちなみに肝心の超能力もどき。相手の感情を増幅させる。以上!」
「……つまり、相手の恐怖やらを増幅させたり出来ると?」
「そ。一般人を無力化させる事は出来るんだよ。ただ、裏側の人間には全く持って効果無し。その上悲鳴を上げたりするからこっそり気絶させる事も出来ない。全く持って使えないオプション」
「だから一回こっきりなのか……じゃあなんで使ったんだよ」
「さあ? 神の味噌汁だ」
「神のみぞ知る、だろ」
強制終了。




