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番外 とある夜

 舞台の裏。残酷描写有りなので出来る限りそう言うのが見たく無い人はあとがきにれっつごー。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「……」

 意識が覚醒して最初にノワールが自覚したのはだるさだった。膜のようにだるさが体を覆っている。

 首を動かし、そこがビニール袋の上だと気づき、ようやく何故こうなったかを思いだす

「……ああ。確か、襲撃したは良いが、返り討ちにあったんだった、な……」

 呟きつつ、その時の事を思い出す。

 最初は有利だった。ルージュが十字架を構えた払魔師エクソシストと茶髪の格闘家を相手をし、我が黒髪のナイフ使いの投擲を避けつつ、空から魔力で構築した羽根を投げる。長い攻防の末、払魔師エクソシストが膝をついた。そこを突こうとしたその瞬間――あの男が現れた。

「……なんなのだ……? あの男は」

 黒コートを着た男。払魔師エクソシストは管理人と呼んでいたその男が、状況を一変させた。

 消えたかと思えば現れた。反撃する間もなく我は酷く傷つき、我の援護がなくなったルージュも追い詰められた。傷ついた体でなんとか宙に浮きつつ、我はルージュに逃避を言い渡し、その場から逃げた。そこから記憶は無いが――、大方途中で力尽きたのだろう。そして今に至る。

「……」

 状況を整理し終え、ノワールは立ち上がる。少しふらついたが、壁に手をつき耐える。

 そして辺りを見回す。どうやらここは路地裏らしい。薄汚れた壁が頼りなく瞬く電灯に照らされ、どこか腐敗した臭いが漂う。

 場所を確認し終え、次に自身の魔力を確認する。この体を維持できる程には残っているが、払魔師エクソシストが襲ってきたら絶対に逃げられないだろう。

「よー。兄ちゃん」

 ノワールが色々と確認していると不意に軽薄な声が聞こえた。顔を上げると金髪の男が一人、ノワールの目前を遮る様に立っていた。

「……」

「おうおう、シカトとかやっててくれるじゃん? まあ反応したこたあ聞こえるんだろ? まあ大した事じゃねえよ。ただ金を恵んで欲しくてね? ざっと財布の中身全部」

 目の前の男が腰の鎖をじゃらつかせ、ベラベラと喋る。

  さてどうするかとノワールは考える。

 この程度の輩、払魔師エクソシストに比べれば可愛い物だ。だが、今は割と疲弊している。能力で追い払うのは出来る限り避けたい。かといって財布は持っていない。と言うか金自体、魔力で作っていた。

「何黙り込んでんだ、オラ。ここは泣きながら許しを請って有り金あるだけ出す所だろ?」

 苛立し気に男が呟く。

「ねえねーおにーさん」

 それに反応した訳ではないだろうが――……不意に幼い声が男の耳朶を打った。

「……あ?」

 振り返る金髪男。

 そこには白装束のような雨合羽を来た子供がいた。声からして少女だろう。

 意外な闖入者に男は動揺する。

「いまねー、わたし、とってもおなかすいてるの。だからね」

 そんな男に少女はお構いなしに言って、

「おにーさんのおにく――ちょーだい?」 瞬間、雨合羽が伸びた。否、伸びたのでは無い。少女が跳んだのだ。

「がっ!?」

 子供の顔が近距離で見えた瞬間、男の両肩に激痛が走る。悲鳴を上げる余裕すら無く、ただ痛さに膝をつく。

 たん、と何かが目の前で着地する音。男は激痛をこらえ、前を見る。そこには満面の笑みを浮かべ、足まで伸びた金髪を尻尾のように跳ねさせた少女。

「えへへ。いただきまーす」

 少女が言う。その直後、男は、



  肉と血管を引きちぎる不協和音ノイズと、骨を砕く音色メロディと、それらを咀嚼する、断末魔が、奇妙に重なり合い、路地裏に歪んだミュージックを生み出す。

  ――路地裏に充満した血と死の臭いを、我は嗅ぎ取る。

がつがつがつがつ

 眼前には数分前まで人だった物を喰らう少女。

「……おい」

 我は少女に呼びかける。咀嚼する音が止まり、一心不乱に食事をしていた少女はしぶしぶと言った風に顔を上げた。その口元は不吉な赤に汚れている。

「……なあに、おにいさん。わたしいま、おしょくじちゅーなんだよ? れでーのしょくじちゅーはせきをはずすのがまなーって、おとーさんがいってたよ?」

「……それは失礼」

「わかればよろしー」

 がつがつがつがつ

 再び食事を始める少女。

「……失礼を承知で聞きたい」

「……んー、なに?」

 もぐもぐと咀嚼しつつ答える少女。

「お前は何故わざわざ人を食べる?」

「んーとねー。おかねないし、かといってイヌさんとかをたべるのはなんかかわいそうだしー。トリさんはおにくすくないしウシさんやヘビさんとかつごーよくみつかるわけないでしょー? だからヒトをたべるの」

「人は可哀想じゃないのか?」

「かわいそうじゃないよー。だってこんなよなかにあるいてるのがわるいんだから」

「……ふん」

「でさー」

 食事を終え、ふきふきと男の服で口元を拭きながら、少女はこっちを見た。

「おにーさん、だれ?」

「……奇妙な事を聞く。我は今し方カツアゲされていた一般市民だ」

「いっぱんしみんならわたしのしょくじをれいせーにながめてないでにげるよね? それにわたしがききたいのはおにーさんがニンゲンかどうかなの」

「ほう。我が人では無いと?」

「うん。なんかにおいがちがうもん」

「……」

 この奇妙な少女に正体を言うか、言わないか。……言わなかったら喰われそうだ。数瞬の躊躇いの後、我は正体を言う事にする。

「我は、悪魔だ」

「アクマ? くまさんじゃなくて?」

「ああ」

「ふーん」

 相槌を打ち、ふんふんと少女は鼻を鳴らす。やがてにこやかに笑い、

「たべていい?」

 物騒な事を言った。

「……どうしたら見逃してくれる?」

「……んー、そうだねー。おいしいたべものをだしてくれたら、みのがすよー?」

「……ふむ」

 逃げる事は不可能だろうな、と我は結論づける。走って逃げてもすぐ追いつかれるだろうし、飛んで逃げても少女は追ってくるだろう。この惨状からして周囲の被害も考えないで。それは好ましくない。かといって戦うのは論外だ。なら――。

「食べた事が無い食べ物でも有りか?」

「んー? どんなのかなー?」

「悪魔だ」

「……んー。それでもいいかなー」

「そうか。……ならこういうのはどうだ?」

 その言葉に結論をつけ、我は慎重に切り出した。

「どういうのー?」

「……我を殺さないかわりに、ボディーガードをする」

「……むしのいーていあんだねー」

「勿論無償では無い。貴殿がボディーガードをするなら我は貴殿が食べた事も無い物をだそう」

「……んー」

 少女は顎に手を当て、考える仕草をした。

「ちょうど、ほごしゃみたいなやくわりのひとがほしかったんだ。おにーさんみためおとなだし、あくまだからいろんなことしってそうだしー。……んー。むー。わかったよー。ワタシ、おにいさんのボディガードになる! そのかわり、おいしいもの、たべさせてよ?」

「……解っている」

「じゃあまずはねるところあんないして? ワタシこのマチにきたのはじめてなんだ」

「……廃屋だが、いいか?」

「べつにいいよ。あ、そうだ!」

 不意に叫び、少女は小指を差し出した。

「……なんだ、これは?」

「しらないのー? ゆびきりげんまんっていうんだよ?」

「……ああ。たしか約束事を守らせるための儀式か」

「んー。まあそうかも。で、はやくこゆびさしだしてよー」

「ああ」

 小指を差し出す。少女はそれに指を絡ませ、楽しそうに言った。

「ゆびきりげーんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきったー」



「……ア」

 目を覚ます。ここはどこかの部屋のようだ。

「ここは……」

「やあ。目が覚めたかい」

「……!?」

 隅から声。飛び起き、声のした方を見る。

 そこにいたのは黒尽くめの男だった。

「……誰よ、アンタ」

「おやおや。恩人に誰だ、とは躾が成ってないね。黒猫ちゃん?」

「!」

 慌てて自分の体を見る。黒い体毛に愛らしい手。自分で言うのもなんだけどそこら辺の猫よりも上等だと思う。……ってそうじゃない。

「あんた……驚かないの?」

「生憎とぼくの友人には元暗殺者が居てね。それに比べれば喋る化け猫なんかには驚かないよ」

「……あたしは化け猫じゃない。悪魔だ」

「そうかい? まあいいさ。化け猫だろうと悪魔だろうとどっちにしたって変わらないだろう。ぼくが君を助けたと言う事は」

「……それがどうしたの。あたしは恩返しなんかしない」

 威嚇するように睨みながら言うと男は腹が立つ程の笑顔で、ひらひらと手を泳がせた。

「や、ぼくはそう言うの期待してないから。自発的にやるならどうぞ」

「誰がやるか」

「そう。ちょっと期待してたんだけどね」

「……今、期待してないって言ったじゃない」

「そうだよ。だから今の言葉は嘘」

「……なんなんだよ、あんた」

「ん。ああそういえば自己紹介がまだだったね」

 思い出したように言い、男は笑顔を崩さず言った。

「ぼくの名前は鷺ノ宮崎サギノミヤ ザキ。職業はしがない詐欺師だよ。あと名前は偽名。……さてと。自己紹介もしたし、」

 ふざけた事を言った後に男は笑みを深め――。

「取引でもしないかい?」

 そう言った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 鷺ノ宮崎

 文化祭に登場した彼。名前は偽名。詐欺師。

 ???(名前不明)

 少女。常識が通じない。



 状況。

 ノワール。少女と行動を共にしている。

 ルージュ。詐欺師に“取引”を持ちかけられた。


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