1B 非日常の路地裏
鬼ごっこ。
○
「ハア、ハア」
薄暗い路地裏で彼は息を整えていた。
「ハア、ハア……。クソッ、どうなってやがる……!」
彼は壁に凭れさせていた背中を離し、騒がしい方――商店の並ぶ通りに歩き始める。
「大丈夫だ……。流石に人通りが多い所なら……!」
そう呟きながら、歩く彼の目の前に、突如として上から鉄骨が振り、コンクリートに“突き刺さった”。まるでダーツのように直立してそびえる鉄骨。
「ッ……!」
彼の顎から汗が落ちる。それは決して暑いからでは無いだろう。
慌てて、後ろを見る。
彼が先程休憩した場所よりも遠い所に人影が有った。問うまでも無く、それが鉄骨を投げたのは明確で。問題なのは普通の人間の筋力は鉄骨を投げれないのに、鉄骨を投げた事、そして手加減が無いという事だろう。
「……ッ!」
彼は慌てて近くの民家の窓を蹴破り、そこに入った。数瞬遅れて彼が立っていた場所に鉄骨が刺さる。
彼はそれを見ず、その民家の玄関に向かった。
「ハア、ハア……! ……クソックソックソックソックソッ! いったいどうなってんだよ! いつから、この世界はこんなに狂いやがった!?」
絶叫する、彼。
それに答えるのは、投げられて来る鉄骨の音のみ。
非現実的ではあるが、コンクリートの砕ける音を聞いてるとそうも行かない。
――立ち止まれば、死ぬ。
その考えが彼をひたすら走らせていた。
★
始まりはどうってことの無い事だった。
いつものように、学校をサボり、見知らぬ路地裏を歩き、時折、すれ違った相手にいちゃもんをつける。無論、相手は選ぶ。屈強な男には手を出さず、狙う相手は女か、子供か、力が弱そうな男ばかり。
今回、いちゃもんをつけたのは凛々しい顔立ちのややほっそりとした男。
いつものようにいちゃもんをつけて、相手が謝るのを見て悦に入る、筈だった。
「謝れよ。おっさん」
催促すると、男はいきなり、……そこら辺の壁を伝うパイプを引きちぎった。
驚愕する彼を余所に、男はそれをぶん投げた。
パイプが彼の頬をすれすれで通る。それで彼は我に返り、
「うああああああ!」
悲鳴を上げて、逃げ出した。
○
そして、今に至る。
「ハア、ハア、」
先程から走っているのに男を撒けない。走っている様子は見られない。なのに一向に撒けない。
「っクソッ……!」
彼の脳裏に非現実な予想が走る。
それは、
――アイツはバケモノなのか?
と、言う予想。
普段の彼ならその予想を笑い飛ばすだろう。
だが、今の彼にはそれが真実のように思えた。
ザクン、と目の前にまた鉄骨が突き刺さる。多分、先程と同じ鉄骨だろう。近くに窓が無いので、先程通り過ぎた左の通路へ向かう。
妙だ、と彼は思った。
先程から進路を強制されているような気がするのだ。商店街に行く道は無論、商店街とは逆方向の道も、今のように、鉄骨で塞がれる。その上、十字路にも着かない。まるで、
――誘導されているような感じだ。
そして、その予感は的中した。
数分後、彼は硬直していた。
彼の目の前にあるのは――壁。窓も無く、ドアも無い。
――やっぱりか。
予想はしていた。だが、それに対抗する手段が無かった。
だから、みすみす、罠にかかる。
足音が後ろから響く。もう逃げるのは諦めた。だけど、このまま殺されたくも無い。
――殺されるんならせめて片目に指でも突っ込んでやる。
そう覚悟し、後ろを振り向く。
右手に鉄骨を持った男が居た。黙って睨みつけていると、男が初めて喋った
「さあ、選択しろ。非常識的に殺されるか、常識的に殺されるか」
「……どっちもヤダね」
両手を構える。男が鉄骨を振りかぶったら、飛びかかるつもりだった。
しばらくして男が鉄骨を振りかぶる。
――……今だ!
「うおおおおおおおおおおおお!!」
手を、指を、男の顔に突き出す。
指先に感触は――しなかった。
「……良い度胸だ。最近の若者には勿体無いくらい良い度胸だ。
それに免じて――気絶程度で許してやる」
俺の手を左手で掴み、鉄骨を振りかぶりながら、そんな事を言う。
振り下ろされる鉄骨。
暗転する視界。
◆
ドサッという音と共に、少年は倒れた。
オレは鉄骨を下げ、反省する。
――いくらおっさんと呼ばれたからってこれはやりすぎたか。まあ人間の体は割と丈夫だからな。死にはしないだろう。……しっかし。
なんでみんなオレを見るとおっさんとか野郎とか言うのだろう。オレは、
――女なのに。
……やっぱり、この顔と馬鹿力が悪いのかね。
そう思いながら、オレは当初の目的地へと向かった。
登場人物紹介
彼。
被害者。
これを期に更正するとかしないとか。
華葵美鈴
男……と見せかけて彼女というトリック。というか最初はそんな設定無かった。
次の非日常には妹が登場する予定。
自分の小説って結構グダグダなんじゃ……?そう思う今日この頃。




