9Cクリスマス・カプリチオ〈中〉
大変遅れました!まさかこんなに遅れるとは……。
あ、ちなみに名前の表記を少し変えました。(例。山田太郎丸)
◇御手洗断悟視点
「……ん?」
ふと大きな音がしたような気がして俺は悪戦苦闘していたプリントから顔を上げた。
「どーした? 御手洗ー」
その挙動に横で漢字を書き連ねていたぴよりが俺に顔を向け、話しかけた。
「ん、いやなんか日向広場で大きな音がしたような気がしてな」
「大きな音?」
俺の言葉に右斜めで俺と同じく数学を解いていた唐崎が顔を上げた。
「大きな音ってどんな音だい」
「……んー。さあ。……まあいいや。なんかの事件だったとしてもどうやったって俺達は関係ないんだし。て言うか俺はそんな事よりも聞きたい事があるんだ」
「ん? なんだい」
「なんで、お前は俺の家で勉強しているんだ?」
「そりゃ勉強会だよ」
「ああ、それは聞いてる。だがな、俺は許可してない!」
「御手洗のお母さんが許可したんだよ」
「……母さんが?」
「うん。「御手洗君とお勉強をするんですけど」って言ったら快く通してくれたよ」
「……つまり騙したと」
「ん? どこがだい」
「「御手洗君“と”」、って所がだ! さっきも言ったけど俺は許可はおろか断った筈だぞ!? なのになんで御手洗君“と”になってるんだ!」
「仕方ないじゃないか。氷華は明日までベトナムだし、壱木君は日向デパートのスイーツフェスタに行っちゃったし、春日ちゃんは電話番号が解らないから無理だし」
「……壱木の所が少々不満だが納得しよう。だがな! なんで俺の家なんだよ! お前の家でも良いだろ!?」
「いやあ、それはちょっとねえ。ぼくの家は口に出すのもはばかれる有り様だからねえ。ちょっと勘弁」
何時にも増して軽い口調と軽薄な笑み。だが目は笑ってない事に俺は気付いた。
「……ならぴよりの家は?」
その言葉に宿題に勤しんでいたぴよりがまた顔を上げた。そして言う。
「ん。アタシの家も無理ー」
「理由は?」
「のーぷろぶれむ」
「……いやそれを言うならノーコメントだろ。無問題じゃ理由が無い事になるからな」
「ん。あ、ホントだ」
「……まあいいや。で、唐崎。これはどうやって解けばいいんだったか」
「ん? ああそれはね――」
◇華葵美鈴視点
前方で砂塵が巻き上がる。
「……さて。思わずオブジェをぶん投げちまったが――死んじゃあいねえよな。生きてるよな。つーか生きてないと困る。いくらオレでも殺人犯は勘弁願いたいし」
オレがそう呟いていると不意に前方からゴミ箱が飛んできた。
「お。どうやら生きてるみたいだな」
そう呟きゴミ箱を躱すため、オレは後ろに跳んだ。
それを追うように、一つの影がゴミ箱を飛び越えた。
「ッアアアアア!」
雄叫びを上げ、宙にいるオレに向かって、その男はサバイバルナイフを振り上げた。
……不味い。躱せない。
足掻きとばかりに体をよじる。ナイフはオレのほっぺたを掠めた。……足掻いてみるものだ。
外した事によって出来る隙。オレはそれを見逃さず、がら空きの脇腹に拳骨を突き出した。
吹き飛び、再度砂塵の中に消える男。死んではいないだろう。通常だったら解らなかったが、今し方放った拳骨はそ通常の半分も出てない。空中だった事もあるし、変な体勢だった事もある。何にせよ多分、相手は死んでいない。
そう思いながらオレは素早く身を翻し、その場を去った。理由は簡単。留まっていたら器物破損とかで捕まるからだ。
◇八崎響歌視点
「――ん?」
ふと日向デパートの方で大きな音が聞こえたような気がして、ワタシは読んでいた漫画から顔を上げた。窓を見ると灰色の雲が空を覆っている。
大方華葵辺りが暴れてるのだと結論づけ、漫画に視線を戻す。
「よう」
不意にリビングの入り口から声をかけられた。ワタシは驚きもせず、再度顔をあげ、静かに言う。
「……何の用だ。久世」
「ん。なんだ気付いていたのか」
やや拍子抜けたような声を上げ、久世は土足のまま上がる。……矢神が怒るぞ。
「ん。音無しは居ないのか?」
「クリスマスパーティーに出す料理の買い出しだ」
「ふうん。なあ奇術師。あいつの料理は旨いのか?」
「三ツ星レストランのシェフと互角」
「そりゃ凄い」
「で? 何の用だ久世。用件によっては殺すぞ」
「やってみろよ、奇術師。オレは嗤いながらお前を殺して、音無しを殺して、ついでにテメエの肉親も殺すからよ」
「……良いだろう」
漫画を閉じ、後ろにやる。そしてスーツのポケットから白い手袋を出した。嵌める。
「後悔するなよ久世、いや気狂い。ワタシは同僚だからといって容赦はしない。命乞いなら同僚のよしみでさせてやるが」
「そりゃこっちのセリフだ」
そういって気狂いはポケットからナイフを取り出した。
合図はいらない。殺し合いにそんな物は不要だ。
気狂いが走り出す。入り口とワタシの距離は10メートル程度。気狂いなら数秒で詰めれるだろう。させはしないが。
両手を振るう。ひゅん、と指先から光る何かが音を立てて気狂いに襲いかかる。
気狂いはそれを躱さず、左腕を霞む速さで数回振った。光る何かはそれに連動しフローリングの床に落ちる。
「手袋の指先に繋いだワイヤーを手で自由に操作する――そのタネはもう見飽きたぜ? さあさあ次は何を仕掛ける!? 奇術師!」
その言葉にワタシは答えた。その場にかがみ、一見傷跡にしか見えない取っ手を勢いよく引く事によって。
「……おいおい」
露わになった黒光りするそれを見て気狂いは嬉しそうに言う。
「まさかマシンガンを出してくるとはな。最高の手品だなあ、おい?」
「矢神の目をごまかすのは大変だったぞ?」
そう言って、床に隠したマシンガンを構える。そして気狂いに向かって放った。響く爆音。
「――っとお」
呟き、横に跳ぶ気狂い。その直後、奴が居た場所は木っ端微塵になった。
「――……ふう」
木っ端微塵になった場所を眺めながら床に着地する気狂い。無論、休ませる気は無い。
マシンガンを放つ。気狂いは右斜め後ろに跳んで避ける。直線上のテーブルと椅子が餌食になった。
「やれやれ。少しは休ませろよ?」
気狂いがそう呟く。無論、却下。再び気狂いに銃口を向ける。
爆音、爆音、爆音、爆音、爆音、爆音、爆音、爆音、カチリ。弾がなくなった。
「――チッ」
舌打ちをし、マシンガンを放り投げる。弾がなくなった事を察知し、こっちに突っ込む気狂い。ポケットに手を入れる。ワイヤーは斬られた。マシンガンは弾切れ。だが、まだ品切れではない。
気狂いの距離が縮まり、ポケットから手を引き抜こうとしたその時。
「……なにしてるんだ……? テメエら」
食材が入ったビニール袋を提げる鬼の声を聞いた。
数分後。
「ったく……好き勝手な事しやがってお前ら」
裏の世界では最強であるはずの十指が正座している姿がリビングにあった。
「す、すまん矢神」
「すまんで済むなら殺し屋はいらねえ。……っかしどうしようかねえ」
ワタシの謝礼をざっくり切り捨て矢神は頭を掻いた。その視線の先には木っ端微塵になった床と家具。
「とりあえず床は校長のコネに頼るとして……問題は家具だな。……仕方ない。今から買いに行くか。金は気狂いと響歌、お前等二人で折半だ。いいな」
「それくらいなら……まあ」
「別に構わない」
ワタシと久世がすぐに答える。
「よし決定だな。じゃあ行くぞ」
◇百棟弧赤視点
「ねえねえ絵里はどうする?」
「んー。ウチは駄菓子系列に行くわ」
「くるみは?」
「わ、私は和菓子……」
「ふうん。じゃボクは洋菓子系列に行こうかな?」
見覚えのある活発そうな少女と関西弁を喋る少女と気弱そうな少女の三人組がぼくのそばでそんな会話をしている。……確か同じクラスの……光村さんと菱谷さんと三浦さん……だったけ。
そんな事を考えていると菱谷さんが光村さんに言った。
「どっちにしたって急いだ方がええわ」
「ん、それもそうだね。じゃ各自解散! 11時くらい経ったらbaroqueの前に集合!」
「了解や」
「うん。わかった」
各自、そう言って別れた。それを横目にぼくも呟く。
「……どこ行ったんだろ? メリー」
◇柊木信視点
「……何があったんだ?」
それが日向デパートの前の広場の惨劇を目にした俺のセリフだった。
真ん中がへこんだ自販機とその隣の壁に突き刺さったオブジェ。そして周りには警察官。……はっきり言って何が起こったのかまったく解らない。
「そんな事より先輩! 早く行きましょう!」
「……そんな事って……。結構重大な事だと思うんだが」
「わたしと先輩の前では大した障害ではありません! と言うかこの惨状は大方お姉ちゃんが暴れたからだと思います!」
「……あー。確かに」
華葵の言葉に頷いていると、不意に視界の端に黄色い何かを捉えた。
「……? ――!」
何気なくそちらに視線をやり――俺は素早く後ろに下がった。何故かと言うと、
「カアアアレエエエンン!」
くぐもった声と共に“トラ”の着ぐるみが突っ込んできたからだ。
俺の前で緊急停止するトラの着ぐるみ。……な、なんなんだ?
「……なんですか?」
「キサマ、名前は?」
「……柊木ですが」
「キサマが柊木かああああ!」
そう叫び、俺の肩を掴み揺するトラ。
「ちょ、ちょっとお父さん!? 先輩になにするんですか?」
慌てて華葵が俺とトラの仲裁に入る。……って、
「お父さん?」
「キサマにお義父さん呼ばわりされる筋合いは無いわああああああ!」
「ちょ、お父さん!?」
より強まる肩揺すり。視界が揺れる揺れる。
「はい。そこら辺でストップですよ、あなた」
不意にその肩揺すりが止む。視界の揺れも収まり、俺は眼前の光景を見る。
今し方トラを止めた声の持ち主と思わしき、羊の着ぐるみがトラの斜め後ろに居た。華葵が叫ぶ。
「もしかして……お母さん!?」
……もう一体なにがなんなんだ。
◇光村三珠視点
「……んんん。やっぱり無いな~。めぼしいの」
お菓子の山を横目にボクは呟く。シュークリームやらチーズケーキやら色々あって目移りしそうだけど予算が限られているからね? 慎重に選ばないと。
……とりあえずこの唐辛子シュークリームは却下だなあ。と言うかなんでシュークリームに唐辛子? 作った人は一体なにを考えたんだろう。
疑問に思いつつ、唐辛子シュークリームをお菓子の山に投げる。絶妙なバランスで積まれたお菓子の山はそれだけでバランスを崩し、
「……ぷぎゅ!?」
お菓子の山を挟んだ向こう側に居た黒髪のちっちゃな女の子に降り注いだ。
次々と降り注ぐお菓子によって形成される山。それを見、あたりに誰も居ない事をボクは確認し、
「……知ーらないっと」
踵を返し、素早くその場から立ち去った。
◇百棟 弧赤視点
「メリー? どこにいるんだ」
周囲にそう呼びかけるが返答無し。
「おーい」
迷子の放送をかけようかと思ったその時。
「……せき」
微かにメリーの声が聞こえた。慌てて声のした方を見る。
長机の上の菓子を山ほど積んだトレイ。均等に積まれたその一つが何故か半分に成っていた。……まさか。
慌てて反対側を覗き込む。そこには菓子の山が形成されていた。
「だ、大丈夫!? メリー!」
その山の中から聞こえる声に僕は慌てて発掘を開始した。
◇矢神統夜視点
「――……で、オレん所に電話した訳か」
携帯越しの華葵の声に俺は頷いた。
「ああ。出来れば玄狼も手伝ってくれると良いんだが……無理そうか?」
「……んー。無理っぽい。客に忙殺されてるから」
「解った。じゃあ、とりあえず特徴を言うぞ。もしかしたらその喫茶店に来るかもしれないしな。ああ。その場合は電話してくれ」
「りょーかい」
「……んーと、まず名前は等々力将吾。北の方で五人くらい殺した殺人犯だ」
「……ああ。つい最近ニュースでやってたな」
「特徴は大柄で黒髪。多分服は変えただろうな。ああ、気狂いと対峙していた時に白い包帯を巻いてたそうだ。まあそれも取ってあるだろうが」
「白い包帯……?」
華葵がふと訝しげな声を上げた。
「ん、どうした」
「……いや、なんでもない」
「そうか。じゃあ、頼んだぞ」
「おう」
通話終了。携帯を閉じ、いちごミルクを飲んでいる気狂いと漫画を読んでいる響歌と朝霧荘住民ズに俺は言った。
「さて、とりあえず床は校長がなんとかするらしいから近くの路地裏にでも行こう。いいな? 気狂い、響歌」
「……その前に本屋に寄って良いか?」
「却下だ」
◇華葵美鈴視点
携帯を閉じ、オレは呟いた。
「白い包帯……ね」
もしかしなくてもオレが先程ぶっ飛ばした奴か?
「……とりあえず広場に戻るか」
殺人犯は現場に戻るってよく言うし。
そう結論付けオレは立ち上がり、レジで会計をしている仁に言った。
「仁。会計」
「おう」
パチパチとレジを打ち、仁は金額を言った。ポケットから取り出した財布を取り出し、出す。釣りを受け取りながらオレは仁に言った。
「仁。客の中に茶色のジャンパー着てる奴が居たら気をつけろよ。白い包帯を頭に巻いてたら大当たりだ。……あ、これは玄狼にも言っといてくれ」
「? ああ……解った。いやよく解らんが……とりあえず伝えとく」
「頼むぞ」
◇楠風樹視点
「で、ハロルド。どこに行くの?」
商店街の喧騒の中、私は隣を歩くハロルドに聞いた。
「……ン。そうだナ……。おもちゃ屋にでも寄ってクリスマスプレゼントでも買おウ。春奈や夏生が楽しみにしているからナ」
「それもそうね。……えっと、ハルは図書券でナツは……なんだっけ?」
「今やってるなんとか戦隊のロボとか言ってたような気がするナ」
「戦隊……ねえ。まあいいわ。とりあえず早く行きましょう。今放送されているなら目立つ所にありそうだし」
「ン。それもそうだナ」
話が纏まったので私とハロルドはおもちゃ屋に向かった。
◇柊木信視点
「……と言う訳で私は架恋と約束したのだ。故に貴様に架恋はやらん」
「……それ何年前の話だ?」
「しらん」
「確か七年ぐらい前じゃありませんっけ? ほらその当時カレンちゃん日向小学校の暴君って言われてましたし」
「もう、お母さん! それは今言う事じゃないでしょ!?」
「あら。そうかしら?」
「そうだよ!」
「……どっちにした所で架恋は渡さん。……あの放蕩娘なら喜んでくれてやるが」
誰の事だ、と考え俺は言った。
「美鈴さんの事ですか」
「ん? あの放蕩娘を知ってるのか」
「去年、華葵と会った時にな」
「なら話は早い。貴様、いや柊木といったか。美鈴はいらんか」
「先輩! 断ってくださいよー!」
華葵が遠くから叫ぶ。言われなくてもそうする。
「せっかくですがお断りします」
「そうか。ならとりあえず帰れ」
「却下です」
うんざりしながら俺は言う。このトラはいつになったら仕事するのだろう。
いやもしかしたら忘れてるのかもしれないな、と思った時、びきり、と何かが軋む音がした。続いて響く轟音。
「む?」
「わっ!?」
「な、なんだ?」
「あらあら」
周囲から聞こえる音を聞きながら、左から来る砂煙に目を細め俺は轟音がした方を見る。
「よう。久しぶりだな? クソ親父」
そこに居たのは美鈴さんだった。
クリスマス・カプリチオ〈下〉へ続く。
付録
日向市MAP
北
山
名前は不明。日向市の北にでん、とある。潰れた病院やら墓場やら何かと不吉。幽霊が出ると言う噂もあるらしい。
日向豪邸
山のふもとにある大きな一軒家。日向校長こと日向兵蔵とその家族が住んでいる。
東
商店街
色々と騒がしく、活気に溢れている。
路地裏迷路
商店街の裏。空き家やら寂れた映画館やら何かと無人な所。とても入り組んでおり、秘密基地やら不良の溜まり場などがある。近道に通る人も目標にカツアゲもあるよ。そのため時々サングラスを掛けた人が循環している。
中央
日向高校
普通の高校だが何かと変人が集まっている。警備員はSPだとかなんとか。
タバコ屋
日向高校の前にある店。老婆が営業している。
西
cafe nocturne
神社仁が営業している喫茶店。恥ずかしがり屋な従業員と無愛想な従業員目当ての客がおり、割と繁盛している。
空き家
cafe nocturneから13件離れた所にある空き家。殺し屋が住んでたりしていた。
朝霧荘
矢神統夜が管理人をしているアパート。
南
日向中学校
美端西姫や御手洗断悟が通う中学。
日向小学校
未登場。美端琥金が通っている。
日向デパート
色々と品揃え豊富なデパート。前には広場がある。
極楽寵
焼き鳥屋。華葵美鈴が働いている。オススメは焼き鳥パラダイス。
日向図書館
未登場。通称本の日向デパート。
日向駅
未登場。小さな駅。
と言う訳で次は下と書いてありますが実際はどうなる事やらと先行き不安です。まあとりあえず次回予告~。
次回予告
逃げる殺人犯。
追う奇術師。
様々に交差する人々。
そして――。
the next title
「クリスマス・カプリチオ〈下〉」




