8A流星観測―Shooting Star Observation―
タイトルはほとんど無視。
◇御手洗断悟視点
昼休み。のんびりまったり机に突っ伏し、寝ようとした所、友人の氷司が目の前に現れた。
「おい、断悟。お前に届け物だ」
「届け物……?」
首を傾げる。この中学校に個人宅配便なんかあったっけか。いや、無いな。
「誰からだ?」
「確か……隣のクラスの唐崎だったかな」
「唐崎……?」
その名前に俺は眉をひそめる。そしてひらひらと氷司に手を振り、言った。
「じゃあゴミだ。ゴミ箱にでも捨てといてくれ」
言い終え机に再び突っ伏す。さて昼寝昼寝。
「おい断悟」
再び氷司の声がした。反応しようかと一瞬思ったが結局無視。
「断悟。……寝てるのか?」
そうだよ。だからあっち言ってくれ。
「……よし。みんな聞いてくれ。ここにいる御手洗 断悟は実は去年、路地裏にある本屋で――」
「何、秘密にしようとお互い誓いあった事をばらそうとしてんだ氷司ー!」
「……お。やっぱり狸寝入りだったか」
「……狸寝入りじゃなかったらどうしてたよ」
「ん? そりゃ、あのままばらしてたさ」
恐ろしい事を平然と言う氷司。
「……」
その言葉に俺は冷や汗をかき、前の男を再認識する。
日向 氷司。肩まであるお前それ染めてるだろとばかりの艶やかな黒髪。そして整った顔立ち。はっきり言って羨ましい。
そして性格は天然クール。冷静なのだがどこか抜けてやがるのだ。例としてこの前のテストで全問正解だったのだが名前を書き忘れて0点、と云う様な。
俺は冷や汗を拭いながら氷司に訪ねる。
「で、どうしたんだ? 氷司」
「なんか呼んでるぞ」
そう言って指を入り口に向ける氷司。
俺はそっちを見て、顔をしかめた。
「……げ」
「「げ」、とはなんだい御手洗くん」
入り口に居たのは自称快楽求道者であり、仮想倶楽部の創生者でもあり、部長でもある唐崎だった。
「なんのようだ、唐崎。屋上は使えないから仮想倶楽部の活動は無いんだろ?」
「そう身構えないでくれ。安心してよ。紐無しバンジーに挑戦しろとかじゃあ無いから」
「いや、それは人として当たり前だ」
「そうかな? まあいいや。で、なぜぼくが来たかと云うとね。ちょっとした招集のお知らせだよ」
「……招集? なんのだ」
うん、と唐崎は笑顔で頷いた。背筋がゾクリとする。こいつがこんな笑顔の時はろくな事が無い。
「天体観測だよ」
詳しくは彼に預けた紙に書いてあるから。
そう言って唐崎は教室を出た。
「なんで冬にやるんだよ……。普通やるとしたら夏だろ」
「……そう言えば。今日流星群が観察されるそうだぞ」
「……そうなのか?」
「さあ。今朝は珍しく姉が作った料理によって死にかけたからな。ニュースを見てないんだ」
「死にかける料理ってどんな料理だよ……」
呆れながら俺は呟き、氷司から紙を貰う。手書きらしい文字を眺めていると、
「なあ。お菓子は何円だ?」
氷司がそう聞いてきた。
「444円とか書いてあるよ。普通300円くらいが妥当だろうに」
「ふむ。444円か。十円の駄菓子が40個は買えるな」
「そうだな。しかしお前やけに菓子の事聞いてくるな。なんでだ」
「それは無論、おれも行くからだ」
「……は? なんだって?」
「ふむ。耳が悪くなったのか? もう一度言うぞ断悟。おれもこの天体観測に行くからだ。ほら、そこに書いてあるだろ。参加は自由って」
「本当、いきなりですよ。御手洗さん」
夜。指定された時間まで後一時間。
春日から電話がかかってきたので俺はのんびりだべっていた。
「御手洗さんはお昼食べ終わった後なんですよね? 私の時は昼休みの終わりごろに来たんですよ。……嫌がらせですかね?」
「いや、多分、ぴよりで手間取ったんだろ。あいつ、どこに居るかまったく解らないからな」
「あー。ぴよりさんなら確かにそう云う事しそうですね」
「あいつは頭がお花畑だからな」
「お花畑ですか。うらやましいですね。私の頭の中なんか始終雷が鳴ってて、ゾンビがうろうろする墓場ですよ」
「……お前、もう少しポジティブに考えろ。そうすりゃ少しはマシになるって言うか頼む。まともになってくれ。変人に大食らいに頭お花畑の子供だけでも精いっぱいなのに、これにネガティブを加えたら俺は疲労死する」
「はあ。……努力はします」
「そうか。努力してくれ。じゃ」
「あ、ちょ――」
電話を切る。春日が何か言いかけたようだが、電話代が勿体無いので諦める。ま、後で聞けばいいや。そう思い、風呂に入る。
数分後。風呂から出た俺はその事をすっかり忘れた。
「呪いは願いや絶望、希望などで出来ているんだ」
指定された時間まで後三十分。
とりあえずさっさと行こうと早足で夜道を歩く俺の真正面にいきなり男が話しかけた。
「希望や固執、妬みなど、強い思いだけでも呪いは作れる。例えばとある大会の準決勝戦。彼が勝てば、決勝進出、負ければ敗退する試合。勿論チームがかける希望は尋常じゃない。声援にもそれが現れる。でも当事者にとっては妨害の何物でもない。背負われた希望が重荷になる。その重荷に彼は耐えきれず、負ける。――ほら、呪いになった」
そう言って男は手を広げ、肩をすくめた。
俺は変態か、と思い距離を取る。それから聞いた。
「……あんた誰だよ」
その言葉に男はふむ、と顎に手を当てる。やがて手を顎から離し言った。
「……会話のキャッチボールを放棄するとは嘆かわしいなあ。これが……ゆったり教育だったかな。その影響かな?」
「……ゆとり教育な。ゆったりしてどうする」
「んー……。会話のキャッチボールは放棄する癖に言葉の間違いは箒で掃く様に指摘するね」
「……いや、上手く無いから。放棄と箒をかけたんだろうがまったくもって上手く無いから」
そう言うと男はやれやれと首を振った。
「……ふう。これだから浴衣教育は」
「だからゆとり教育って言ってるだろ。て言うかあんたホント誰だよ」
「語リ部終。しがない店長さ」
唐突に告げられた固有名詞に俺は眉を潜めた。
「……は? かたりべ? ……変な名前だな。いや、俺が言えた義理じゃないが」
「変な名前だよ。だって偽名だし」
さらりと言う男。俺は更に眉を潜める。
「そんな表情しないでくれよ。引き止めた詫びにこれをあげるからさ」
そう言って語リ部とか言う男はポケットから長方形の紙を取り出す。
「はい。これを持ってぼくの店にくればもれなくすべて半額にするよ」
紙には『骨董屋秋海堂店主 語リ部 終』と書かれていた。そういえば今名乗っていた。
「骨董屋、ね」
「そう、髪が伸びる人形や人を映す鏡など、なんでもござれの骨董屋。あなたが望めばすぐあなたの元に」
「ようは怪しげな物を売ってる店、って事か」
「やだなあ。そんなにはっきり言われると照れるよ。御手洗 断悟くん」
そう言って俺の傍を通る語リ部。俺は振り返り叫ぶ。
「おい……! なんでお前、俺の名前知ってる!」
そんな奴の背に俺は問う。
「安心してよ。ぼくは君のストーカーじゃない。君の名前を知っているのはただ単にぼくがこの街の人間――全員の名前と顔を覚えているからさ」
信じられない事を言いながら、語リ部と名乗る男は闇に消えた。
煌めき輝くネオンを横目に俺は歩く。やがて右斜め前方に日向中学校が見えてきた。
「やあ。早かったね」
その校門に寄りかかるように立っていた唐崎が言う。
「……今何時だ?」
「9時15分。指定した時刻よりも15分早いよ」
ポケットから懐中時計を取り出し、ネオンにかざす。
「確かに少し早いな。もう少し遅く出れば良かったか……」
「良いよ、別に。備えあれば憂い無し……と。それに流石のぼくもセキュリティーを解除するのは得意じゃないからね」
……は?
「おい待て唐崎。なんでセキュリティーを解除する必要がある」
「そりゃ無論侵入するからさ。だって校長から許可もらって無いし。て言うか話しても無いよ」
「……帰る」
「ん? なんでだい」
心底不思議そうに問う唐崎に俺は眉を立てて言う。
「なんでも何も有るか。俺はまだ、犯罪者になりたくは無いんだ」
「ばれなければいいじゃないか」
「ばれたら終わりだ。じゃあな」
そう言って俺は踵を返し、帰ろうとした。が、横からの声によって阻まれる。
「ん? なんだどうした断悟」
「……氷司か。早いな」
「まあな。……で、あの男――唐崎だったか。彼は何をしている?」
「不法侵入」
そっけなく俺はそう言う。
「なるほど。大体解った」
そう言って氷司はポケットから携帯を取り出す。そして俺に背を向け、どこかに電話し始めた。
「……あ。もしもし、お爺ちゃん? ――うん、ちょっと頼みたい事があるんだ。――うん、解った。……で、えっと、ちょっと今から学校で天体観測をしようとしているんだけど。手違いがあってね。門が閉まってるんだ。――うん。――うん、ありがとう、お爺ちゃん」
しばらく話した後、日向は携帯を閉じ、俺に向き直った。
「少し待て。すぐに開く」
「ははは! 天体観測の為に不法侵入しようとするたあ、面白い奴らだ!」
数分後。俺と唐崎と氷司と、そして合流した郡山とぴよりと春日と共に、用務室に居た。目の前に居るのは爆笑する頭がはげたおっさん。緑色の作業着には久世と書かれている。
「面白い……ですか? ぼくは真面目ですが」
「真面目ェ? はっ、ははは。お前が真面目だとしたらオレは大真面目だ!」
そう言って再び爆笑する
唐崎が不愉快そうな表情をする。いつもひょうひょうとした表情しか見てない俺はそれに驚く。
ヒィヒィと笑いを収め、おっさんは問う。
「……で? お前ら屋上を借りたいんだって?」
「はい。駄目ですか?」
「いや構わんよ。ほい」
あっさりとそう言いおっさんは懐から鍵を取り出し、唐崎に投げた。
「帰る時にゃあ閉めとけよ。そうしねぇと泥棒やら変態やらが入ってくるからな。せっかく鍵、付け替えたばかりなのに無駄になっちまう」
付け替えた、と言う言葉に春日がびくりと肩をすくめる。そう言えば鍵ぶっ壊したの春日だったな。
「解りました。では返す時にまた伺うので」
「おうよ。さっさと行け」
そう言ってあくびをするおっさん。それを尻目に俺達は屋上へ向かった。
屋上に上がると壱木がうつぶせに倒れていた。春日が慌てて駆け寄る。
「ど、どうしました、壱木さん!」
「……は、はら……」
ぼそりと壱木が言う。
「お腹? お腹がどうしたんです?」
「腹……減った……」
「……」
沈黙する春日。ちなみに春日と氷司を除いた他の奴ら(俺、唐崎、郡山、ぴより)は大体オチが読めてたので駆け寄りすらしなかった。氷司はただ単にボーっとしてただけだろう。
「うふふ、うふふ……。そうですよね。私の心配なんて塵芥のようにいらないですよね。なのに私ったら舞い上がっちゃって……。ごめんなさい。さようなら」
そう言って屋上の縁に行く春日。……――ってまずい! 春日の奴、飛び降りるつもりだ!
「待て早まるな春日! ……おい、氷司も手伝え!」
「ん。ああ」
数分後。俺と氷司と春日は息も絶え絶えに、冷たい屋上の床に寝そべっていた。
「なんで……俺がこんな目に……」
そう呟きながら横目で唐崎を見る。唐崎はビニール袋から某10円で買える棒(サラダ味)をかじっていた。……手伝えよ。
ちなみにぴよりと壱木は菓子を取り合っていた。ぴよりはともかく、壱木。元凶はお前だろ。
心の中で愚痴っていると突然、頬に熱い物が触れた。
「熱っ」
「あら。ごめん断悟。熱かった?」
「……郡山か。どこ行ってた?」
「ちょっと近くの自販機に。はい。喉乾いたでしょ。熱いお茶」
「おう。すまん」
郡山から缶のお茶を貰う。郡山は隣にいる氷司にも渡した。
「む。すまん」
「例には及ばないわ。あたしが好きにやっているだけよ」
「ぼくのはないのかい? 氷華」
「そこから紐無しバンジーしたら考えなくもないわ」
そう言って郡山はいつも座っている場所に座り、そっぽを向いた。
隣で春日の寝息が聞こえる。どうやら寝たようだ。
眠る春日。そっぽを向き続ける郡山。チーズ味を開ける唐崎。菓子を取り合う壱木とぴより。のんびりとプルタブを開け、茶を啜る氷司。春日と氷司を覗けばほとんどいつもと変わらない光景だ。眺めながら俺は思った。
……俺以外誰も夜空を見ない。
~登場人物紹介~
日向氷司
男
日向中学三年生
御手洗 断悟の友人。性格は御手洗曰わく『天然クール』らしい。名前の通り日向 日向の弟。
春日陽奈
女
〃
仮想倶楽部の新人。実際には6Aで登場しているけどこっちに。普段は割とまともだが、一旦ネガティブスイッチが入ると飛び降りたりしようとするので注意が必要。御手洗の事を少し気にしている。
語リ部終
男
骨董屋『秋界堂』店主
口調は唐崎、詐欺師に似ている。『呪い』を集めているらしいが……?
久世
男
用務員
不明
と言う訳でちょっと最後に納得してない刻城 黒徒です。と言うか今更だけど終わりをどうするか余り解らない……。ううむ……。
次回予告
狂ったように嗤う、そいつの呼び名を俺は呟いた。
「――気狂い」
その呼び名にそいつは嘲笑する。
「ああ、そうだ。オレの名は気狂いだ。覚えてくれて嬉しいなあ、音無し! お礼に八つ裂きに切り裂いてやるよ!」
the next title
「気狂い(Madness)」
おまけ~ガールズ・トリオの日常会話?~
「……んん? なんか久しぶりな感じがするよ?」
「そうやな。な~んか久しぶり、って感じや」
「うん。……なんか……久しぶり」
「う~ん。のんびりしていきたい気分になるんだけど……どうしよう、絵里」
「う~む。うちもそれには賛成したいんやけど……。うち、今日は日直やねん」
「わたしは……先生に朝の花壇の水やりを頼まれてて……」
「んー。仕方ないなあ。じゃ、この紙に書いてある事を言えば良いんだね?」
「そうらしいわ。ほな、三珠。その役うちにやらせてくれや」
「嫌だよ。ボクが読むっ」
「いやいやうちが」
「ボクが」
「うちが」
「ボ(略)」
「う(略)」
「……えっと、三珠ちゃんと絵里ちゃんはなんか喧嘩しちゃったので……わたしが読みます。『感想、批評、質問、助言、要望など……待ってます』」
「……あー! くるみに言われた!」
「そんな殺生な!」
「え? え? えっと……ごめんなさい?」




