5C=Ⅳセレモニー〈文化祭、波乱〔二日目〕〉
今回も割と適当ですよう
~松平視点~
快晴に恵まれた午前。オレは日向高校の敷地内を歩いていた。
「マクドナルズのメニューで一番美味いのは何だと思う?」
ふとそう思ったので歩きながらオレは後ろに居る4人に聞いてみた。
「……フライドポテトだな」
「ストロベリーシェイクが一番美味しいですっ!」
「アタシはアップルパイね」
「あたしゃビックリマックかねぇ」
「……なんであんただけ男のようなメニューを好むのよ。そのくせ腰は細いし……詐欺よね」
「ぐちぐち言うなって。で、言い出しっぺのあんたはどうなんだい?松平」
「オレか。オレはバニラシェイクが一番だと思っている」
「琥金と同じですっ!」
「そうだな。……で」
そう言いながらオレは歩みを緩め、後ろの4人の右端に並び、何故か自然に混じっているポニーテールのガキの襟首をむんずと掴み、持ち上げた。ガキは「ぽびゅわ!?」と奇声をあげたが無視。
「こいつはなんなんだ? 校門を通り過ぎた時から混じっていたが……」
「む、むぎゅー! 琥金はそこの植物にたとえると柳な人の知り合いなんですっ! と言う訳で仲間外れは断固拒否しますっ!」
「そうか。おい、木元。こいつお前の事を知っているようだが」
「知らん。赤の他人だろ」
「確かに赤の他人ですけど、琥金と柳な人は知り合いですよっ!? あの射的で交わした熱い約束を忘れたんですかっ!?」
「射的? ……ああ」
「思い出しましたかっ!?」
「記憶に無いな。俺にウサギのぬいぐるみをどっかのガキにくれた記憶は無い」
「あるじゃないですかっ!? はっきり明言してますよっ!?」
「……はあ。まあ、いいか」
二人の漫才じみた掛け合いに呆れながらオレはそう呟き、ガキを地面に下ろす。
そしてオレはガキに忠告した。
「オイ、ガキ。付いて来るのは構わないが一つ言っておく。……金は自分で払えよ?」
……恥ずかしい話だが今のオレの財布には千円しか入ってないのだ。
~一年視点~
「……ふう」
目の前の客が外に出た所を見計って私は一息吐く。すると前方のカーテンから受付をしていた友人の日向日向が顔を出した。
「なにしっきー、もう疲れたの?」
誰も聞いてないと思ったのだがどうやらヒナタは目敏く――いや、この場合は耳聡くか――私の溜め息を聞き取ったらしい。心配そうに聞いてくる。
「一時間に五人近くの客を占って素人である私が疲れない道理が無いでしょ? あとその呼び名は止めて。怒るわよ?」
「あはは、ゴメンゴメン。……んで、四季。少し休んだら? 昨日は休憩も取らずにずっと占ってたって聞いたよ?」
「……そうね。疲れてない……って言える気力も無いし。お言葉に甘えて休憩するわ。ヒナタ。ここの替わりを宜しく」
「オッケ~。一人ここの占いをやってみたいって子が居るから、それについては心配無用! 存分に休憩をエンジョイしてくるがいいさ!」
「ハイハイ」
椅子から立ち上がり私はヒナタの横を通り、板で区切っただけの簡易な部屋を出ようとする。
出る瞬間、チラリとヒナタの横顔を見て――私は“視た”。
シャッ、とカーテンを引く。一時間振りに見た外は人の行列に覆われていた。
首を後ろに捻り、ヒナタの顔を視界の隅に捉える。
「――ヒナタ。これは忠告だけど」
「ん? なになに」
「廊下を歩いている時は女の子に気を付けて」
「……もしかしてそれ“予言”?」
「……まあね」
「……そう。……女の子……ねえ。偏に女の子って言っても解らないなあ。思い出せる特徴は?」
「黒い髪のポニーテールで小学生くらいの身長。視たのは後ろ姿だけだから解るのはこれくらい」
「それだけあれば良いわ。要約すると黒髪ポニーテールの小学生くらいの女の子……ね。解った、気を付ける」
「うん。じゃ」
右手を上げ私は行列を掻い潜り、教室のドアに向かった。
私、一年四季には特殊能力が有る。
未来を視れるのだ。
といっても任意に使う事は出来ずいきなり視えたりする。
時間はそこに時計が無い限りは解らない上に場所も自分で思い出すしか無い。視れるのも決まって事故の瞬間だけ。余り役には立たない。せいぜいが視た被害者に忠告するのみ。それが良かったかどうかは解らない。視れるのは事故の瞬間のみ。結果を視る事は出来ない。
「もうそろそろお昼時かあ。……混まない内に食事は済ませた方がいいかな?」
そう呟きながら私は同じ階にある二年B組の喫茶店へと足を向ける。外の屋台で食べてきてもいいのだが歩く手間を考えると喫茶店の方が良い。まあ喫茶店が混んでたら屋台に行く事も考えるが。
そう思いながら中を窺うと執事の服を着た男子が目敏く気付き、いらっしゃいませと声をかけてきた。
中を見る限りまだそんなには混んでいないので入る事にする。
カウンターでコーヒーとサンドイッチを頼む。
席に着き、ウエイターが持ってきてくれたお冷やを一口飲み、私は一息吐いた。
程なくして頼んでいたサンドイッチとコーヒーが来る。
それをぱくつき味はまあまあかなーと思っていると、突然窓際の方から悲鳴があがった。
びくりと肩を震わせ悲鳴があがった方を見る。
そこでは二人の男女が居た。女性は座ったままコーヒーを啜っていて、男性は立っている。その事からして悲鳴をあげたのは男性のようだと私は推測する。
「な、なんだこの辛いミルクティーは!? 砂糖を五個、ミルクを五杯加えたのに何故辛い!? と言うかそれ以前に辛いミルクティーなんて聞いた事も無いぞ!? ……ハッ、まさかこの辛いミルクティーはここの名物なのか!?」
よく解らない事を叫ぶ男。落ち着けば顔は良い方だろうと私は推測する。
そしてその意味不明な言葉にコーヒーをソーサーに戻しながら答える女の人。こっちも顔は整っているが表情は無表情だ。
「安心して下さい先生。そのミルクティーが辛いのは店の仕様では無くわたくしが常備していた唐辛子やガラムマサラを入れたのが原因だと思われます」
「ああ、そうか、それなら納得――出来るか! うっかり聞き逃しそうになったが原因は君か!何故こんな事をした!?」
「……べ、別にミルクティーを見て狂気乱舞している先生を見て、思わずミルクティーに嫉妬なんかして無いんだからねっ」
「いや何故にツンデレ風!? しかも無表情で! せめてツンデレな言葉を言うなら表情を改めてから言ってくれ!」
「じゃあ良いです。嫉妬なんてしてませんし」
「ワオ! なにその切り替えの早さ!?」
「で、先生。辛いと言ってましたが収まりましたか?」
「! ……うぐぐ……! そ、そうだった……! 意識したらまた辛さがぶり返ごほっごほっ! み、水!」
「はい、どうぞ」
女性がお冷やを男性に差し出す。その行動に問題は無い。問題が有るのは差し出したお冷や。普段なら透明なお冷やはとてつもなく赤い色をしていた。男性はその色に気付かず、受け取るや否やゴクゴクと一息に飲み干した。
「……ぐげふぁ!? 何故に辛さが倍増している!?」
「それはわたくしがそのお冷やに七味と香辛料を沢山入れたのが原因ですね」
「どう考えてもそれしか無ぐぐっ……! も、もはやこの辛さでは水を飲んでも効くかどうか……! かくなる上はトマトアイスを……!」
トマトアイス?
そんなアイスがあるのかと私は思った。
「……お言葉ですが先生。トマトアイスはマイナーな食べ物ですからこんな所で期待するの無理かと」
「ふっふっふっ。期待する? 何を言っているのだキミ。期待するのでは無い、気配を感じるのだ! トマトアイスの神聖なる気配を!」
「……」
「ふっ、余りにも予想外過ぎて声も出ないようだな。では、行って来るとしよう!」
そう言って男は側の窓ガラスをガラリと開け、飛び降りた。
響き渡る悲鳴。
騒然となる店内。
呆然とする私。
残された女性は優雅にコーヒーを啜り静かに一言呟いた。
「……馬鹿ですか?」
~松平視点~
前方から悲鳴と怒声が聞こえる。
「な、何ですかっ、このビッグウェーブな雑踏はっ!」
オレの頭にしがみつきながらそう喚くガキ。
大声に顔をしかめながらオレは木元に問う。
「何が起きてる?」
「――……あー。どうやら三階から人が飛び降りたらしい」
「……人が飛び降りた?どうしてだ」
「さあ? 辺りの人の会話内容からしてトマトアイスがどうとからしいが……」
「トマトアイス?」
なんだそれは。
「む、むうう~!この人混みをどうにかしてくださいっ! 野菜にたとえるとジャガイモな人っ!」
「それは暗に太いと言いたいのかコラ。て言うかいい加減オレの頭から降りろ」
「嫌ですっ! あなたの頭は操縦桿に丁度良いのですっ!」
「うっせえ。誰が操縦桿だ」
オレはロボットか。ロケットパンチで相手をなぎ倒して、背中のロケットで空を飛ぶのか。
「良いコンビだねえ。アンタ達」
「どこをどう見てそう思ったのか教えてくれ小森。と言うかガキ。お前親とかはどうした」
「ふっふっふっ、琥金は今単独でミッションに挑んでるのです」
「ミッション?」
「そうです、今多分この文化祭に来ている筈のお姉ちゃんに見つからず、文化祭をエンジョイする任務を琥金は、」
「見つけたわよ! 琥金!」
「ぴうっ!?」
突然ガキの言葉を遮るような大声が聞こえた。びくりと震えるガキ。オレは声のした方を見る。
そこに居たのは動きやすそうな服装をした少女だった。歳は多分中学生くらいだろうか。
ガキがオレの頭から降り、オレの足に隠れる。
「見つかったみたいだが、感想は?」
「なんとかしてくださいっ、ジャガえもんさん!」
「ふざけろ」
「……? 誰ですか、あなた達」
少女の言葉が礼儀正しい物になる。
「あー。まあなんと言うか……巻き込まれた人って事で」
「そうですか。琥金がお世話になりました。琥金、行くわよ」
「嫌ですっ! 琥金はお姉ちゃんとは別行動でこの文化祭をエンジョイするのですっ!」
「……」
沈黙する少女。それを裂くように大声が響いた。
「見てくれハニー! このハート形の綿菓子を!」
そう叫びながら人混みをかき分け少女に近づく少年。
少女のこめかみがぴくりと引き攣る。
「まるでぼくと君との輝かしい未来を暗示しているみた「ちょっと黙れ!」ぐふお!?」
少女の隣に来て本当にハート形の綿菓子を差し出す少年。少女はその少年をラリアットでぶっ飛ばした。宙を舞う綿菓子と少年。
土煙を撒き散らし、地面に落ちる少年。それを尻目に少女はガキを見る。
「……解ったわよ、琥金。あたしとアンタは別行動で良いわ。ただし」
視線を今し方ぶっ飛ばした少年にずらし、びしっと指差す。
「その男と一緒に行きなさい」
~百棟蒼空視点~
「……ん?」
なにやら前方が騒がしい。
事件でもあったのかと背伸びし前を見ようとするが、人が多くて叶わない。
「? ……何してるの、ソラくん」
「……ん、神社さんか」
ボクがそう言うと神社さんは怒ったような表情をした。
「も~。この前言ったでしょ、ソラくん。わたしはソラくんって呼んでいるんだからソラくんもわたしを辿理でもテンちゃんでも好きに呼んで良いって」
「……あー。そうは言われてもですね……。まだ付き合い始めて1ヶ月くらいですし……」
「んん~。……ま、それもそっか」
残念そうに唸る神社さん。ボクはそれを見て悪い事をしたかなあと思った。
「……あれ? こっきーのお兄さんで有る蒼空さん?」
唐突に横から声がかかる。見ると、弟の友人で有る鬼灯ちゃんだ。
「あ、鬼灯ちゃん。久しぶり」
「蒼空さん、縁ちゃんと一緒に来たんじゃないんですか?」
「ん、いやあ、ちょっとした諸事情でね。縁ならそこら辺の屋台を回ってると思うよ」
「……そうですか」
そう呟き鬼灯ちゃんは怪訝そうな目で後ろを見た。
「……ところで蒼空さん。後ろの女の人は誰ですか?」
「ん? ああ、こちら仕事の同僚」
「であり彼女の神社辿理さんなのだ!」
「ちょ、神社さん!?」
慌てて止めるがもう遅い。
今の言葉は確実に鬼灯ちゃんの耳に入った。
「……ほほう」
ニヤリと笑う鬼灯ちゃん。黒い。黒いよその笑顔。
「なるほどなるほど。解りましたよ、蒼空さん」
「……解ったって何が?」
「蒼空さんがこの事を弟で有るこっきーや妹で有る縁ちゃんに内緒にしていると言う事が」
「……うっ」
図星なので思わず呻く。
「さて、提案です蒼空さん。この事をばらされたくなければお金をください」
「……それは提案と言うよりも恐喝って言った方が正しいとボクは思うんだけどな……。まあいいや。千円で良いよね」
「はい。毎度あり~♪」
財布を取り出し、千円札を鬼灯ちゃんに渡すと鬼灯ちゃんは満面の笑みでそれを受け取り、さっと回れ右をして人ごみに紛れた。
「……ん、何今の。新手のかつあげ?」
「いや、違うよ。まあ近いけど」
小首をかしげ、言う神社さんにそう返答し、ボクは周囲を見回し呟く。
「……それにしてもホント何があったんだろうね?」
~百棟弧赤視点~
「……? 何か下が騒がしいな」
廊下を歩いていると、喧騒とは違った騒音が耳に入った。
近くの窓を開け、騒がしい方向を見る。
なにやら人だかりが出来ている。どうやら騒ぎはその中心にあるようだ。
「?」
首を傾げ、ぼくは歩き出す。
歩き出した理由は2つ。
一つは関わる気が無いから。
もう一つは現在ぼくは休憩時間。のんびりしている暇は無い。時間は限り無く有限なのだから。
「この階のはあらたか見終えたかな……」
呟きながらぼくは階段に向かおうとし、図書室の文字を発見した。足を止め、考える。
「……図書室……か。何かやると聞いた記憶はありませんが……物は試しです」
そう呟き、ぼくはドアをガラリと開ける。
図書室はとても静かだった。まるで誰も居ないような“錯覚”に襲われる程。
そう錯覚は錯覚だ。人は居る。……一人だけ。
カウンターに座り、黙々と本を読んでいる一人の少女。この一人だけだ。
周囲を見回す。なにも無い。けれどそれだけで帰るのは早計だ。ぼくはとりあえず少女に話しかける事にした。
「あの、聞きたい事が有るんですが」
少々の間の後、少女は顔を上げる。
その顔を見てぼくはぼんやりと思った。
一目見た時から思ってたけど……。
この人、黙ってても目立つ。
鳩の羽のように真っ白な、三つ編みにした髪。灰色の目。
髪の色だけでも目立つのにその上顔も整っていて、雪のような肌と合わさり西洋人形をイメージさせる。
そして止めにこれでもかと云うくらいの無表情。それがより彼女を目立たさせている。雪の中のカラスのように。
「……なんですか?」
「ええっと、ここでは何かしているんですか?」
「……いいえ、と答えたい所ですがそうです。私達文芸部は文集やら詩集やら部員達の家にある古本やらを手抜きで売っています」
「あ、そうなんだ。……手抜きってどういう事?」
「私以外はどこかに行ってしまいましたから」
「あ、なるほど」
「で、どうします?」
「んー。そうだね。料理の本とか無い?」
「……料理の本ですか」
「無いの?」
「いえ、一つ有ります」
「じゃあそれを見せて」
「解りました」
そう言って彼女はカウンターの上に置いてある箱の蓋を開け、ガサゴソと探し始めた。ホッチキスで止められた紙束がたくさん重なっている事からして詩集や文集などはそこに入っているのだろう。
やがてお目当ての物を見つけ出したのか、「ふう」とため息を吐き、ホッチキスで止められた一つの紙束を取り出し、箱の蓋を閉める。そして顔を上げ、ぼくに取り出した紙束を差し出した。
「はい」
「あ、はい」
差し出された紙束をぼくは受け取り、パラパラと中をざっと見る。
ふむふむ。成る程、これは良い。
作者の名前は哭搭 無闇と言うらしい。ぼくが言うのもなんだけど変な名前だ。
ポケットから財布を取り出す。
「何円ですか?」
「……二百円」
財布から百円を二枚出し、彼女に渡す。
ぼくは買った文集を手に図書室を出た。
◆
「はああああああああああああ」
「……えーっと」
「ああ、愛しのハニー……。どうしてキミは姿を消してしまったんだ……」
「……あのー、すいませんお兄さん」
「はああああああああああああ」
「返答して下さーい」
「ああハニー……」
「……言う事聞いてくれたらお姉ちゃんの写真十枚あげますよー?」
……ピクリ
「……更に今なら密かに撮ったパジャマ姿と食パンをくわえて学校に急ぐ制服姿をセットで」
「……さあ、何がお望みだい? キミが望むなら大砲でも学校でも宇宙船でも何でも買って来てあげるよ!」
「じゃああそこにある日向高校名物の王様綿菓子(¥500円)を2つ買ってきて下さいっ!」
「了解承知っ!」
砂煙を立てて綿菓子屋に突っ走る少年。それを見て少女は呟く。
「……聖さんの言う通りですっ」
◆
校舎 校長室
どたどたばしーん
「こーうーちょーうッ!」
「なんですか騒がしい。ああ、騒音コンクールに出るための練習ですか? それなら大丈夫です。あなたはもう優勝出来る程の騒音をいつも出していますから」
「思いっ切り間違ってますよ! ていうか騒音コンクールってなんですか!?」
「間違えている……? ああ、成る程。騒音コンクールでは無くてツッコミコンクールに出るつもりなんですか」
「そうじゃありません! 大変なんですよッ!」
「大変? 今私が食べようとしているモンブラン以上に大変な事ですか?」
「断言しますッ! 今校庭で――」
「強盗が出たのでしょう?」
「知っているんですか!?」
「知ってます。そしてもう手は打ってあります。だからもうその強盗は大変でも何でもありません」
「――! まさかあの男を……!」
「ええ。――私は何よりもこの学校を愛しています。故にこの日向高校を荒らす物には容赦はしません。
……まあ無礼なチンピラに有り余る末路でしょうね。強者に、否――この学校の教頭であり、
この世界の裏側に於て“伝説”と呼ばれている男に潰されるのは」
◆
校舎 屋上
立ち入り禁止である屋上のの縁にその男は佇んでいた。
「……っかし校長も無茶苦茶言うよな。この人ごみの中から強盗を見つけろだなんて」
呟きながら男は目を細め、背中を曲げて、人で溢れている校庭を覗き込む。
「……まあ出来ない事も無いんだが」
その呟きから数秒後。
細めていた目を元に戻し男は言う。
「……見ィつけた」
その刹那、男は幻のように掻き消えた。
~???視点~
はあっ、はあっ、はあ……。
「……なんとか撒いたか?」
顎から流れる汗を拭い、おれは周囲を見渡す。校門の前、周囲の人間が汗だくのおれを不審そうに見ている。が、肝心な事には気付いてないようだ。
おれが――先ほどたこ焼き屋やら林檎飴屋やらを襲い、売上金を奪った強盗だと云う事に。
息を整える。
もう一度周囲を見渡す。……追っ手はまだここに来ていないようだ。
視線を紙袋、否、その中にある先ほど盗んだ売上金が入った紙の箱に移す。
……金がどのくらい入っているのかは帰ってからのお楽しみだ。今は一刻も早くここから離れよう。
そう思いおれは歩き出そうとして、
「随分と儲かったようだな。“文化祭荒らし”、だったか?」
「――ッ!」
唐突に後ろから人の声が聞こえたので顔を強ばらせ、おれは振り返った。しかしそこには誰も居ない。
……幻聴か?
そう思ったがその考えはすぐ否定される。
「急に振り向くなよ。不審に思われるぞ?」
また、耳元で声がした。
もう振り返る事はしない。無駄だと判断したからだ。その代わりおれは問う。
「てめえ……何者だ?」
「反応が古いな。その言葉を使うのは殆ど三流の悪役だぞ? ま、ここでお前は奪った金と記憶を失うのだから手向けの言葉として答えておこう。
――俺の名前は矢神統夜。ここの教頭であり、そしてしがない管理人さ。んじゃ、さよなら」
その言葉を聞き終えると同時に首筋に衝撃が走り、おれの意識は暗転した。
はいと言う訳で文化祭荒らしさん(しかもこの呼び名で呼ばれたのは一回きり)敗北ー。登場したばっかの人に。
ちなみに文化祭はこれで終わりではありませんよ? 張りすぎた伏線を回収したりまた新たに張ったりするために後日談って言うか後始末的な話を次に掲載して終わるのさー。もしくは登場回数が無かった人のラストステージ。頑張って書け、自分!
ではまた。
次回予告。
文化祭は閉幕する。たくさんの人々と、たくさんの会話と共に――。
the next title
「フェスティバル〈文化祭、閉幕〉」




