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第45話『僕らの反抗作戦』(アーサー視点)

(アーサー視点)




僕は女神ラナが持ち帰ったタツヤのナイフを持ちながら、深いため息を吐いた。


決まっていた流れとは言え、実際にこうして遺品の様にタツヤの物を見るのは嫌な気持ちになる。


「しかし、思っていたよりも早かったな。事を起こすのは高校三年だろ? まだ一年だぜ?」


「向こうはスポンサーと同じ存在ですからね。予言を変える事も容易いのでしょう」


「そりゃ厄介だな。それで? タツヤは」


「大丈夫! 何も問題は無いですよっ!」


場の空気も考えず、能天気な言葉を発するメリアに僕は深いため息を吐いて、女神ラナを見た。


その視線を受けて、女神ラナは両手を胸の前で握りしめたまま緊張した様に言葉を発する。


「タツヤさんの気配は消えていません。未だかの女性。ヒナヤクさんの中にあります」


「そうか」


「ありがとな。ラナちゃん」


「い、いえ」


「え? あれ? 今私同じ事言いましたよね? 何で私の時は何も反応が無くて、ラナちゃんの時だけみんな頷いているんですか? おかしくないですか!?」


「日頃の行いという奴だ」


「ぶーぶー! ヒナヤクっていう人が悪い人だって気づいたの、私なんですからね! もっと私の事を褒めてください!」


「偶然を偉そうに語るな」


「偶然でも何でも私の手柄な事は確かですぅー。アーサー君の意地悪!」


「何が意地悪だ。子供の様な事を言うな。仮にも女神なのだろう!?」


「カッチーン! 仮じゃないんですけど! ちゃんとした女神様なんですけど!?」


「あー。分かった分かった。とりあえずメリアの話は置いて、これからどうするかを話すべきだ」


「決まってんだろ。タツヤを取り戻して、ヒナヤクちゃんをぶっとばす。それで終わりだ」


「相手はスポンサーと同じ存在だぞ。正面から挑んでもタツヤと同じ事になるだけだ」


「いえ。むしろタツヤは彼女のターゲットであったから囚われているだけで、我々であれば何も出来ずにそのまま消されるでしょうね」


「……っ」


僕は息を吞むチャーリーから女神たちへと視線を移す。


「無理です。スポンサー相手じゃあ、私たち女神の力もあんまり意味が無いです」


「はい。私もメリア様と同じです」


「そうか……となると、やはり、貴女にお願いするしか無い様だ」


僕は先ほどから一切言葉を発さず、耳にイヤホンを付けて動画を見ている女性に目を向けた。


僕の視線に気づいた一人で動いている人形が、女性の体をポンポンと叩き、話し合いへの参加を促してくれる。


いや、あの人形。改めて思うけれど、どうやって動いてるんだろう。


「メリーさん。ありがと。はい。それで? 話し合いはどうなった感じですか?」


「結論は以前と変わらず、ですね」


「ハァー。情けない。それでも世界を救う救世主の集まりなんですか? こんな小娘一人に頼らないといけないなんて」


「面目次第もございません」


「ごめんなさい」


女性の言葉に、女神たちが深々と頭を下げた。


おそらく僕たち以上に無力感と悔しさを感じているのが女神ラナとメリアだからだろう。


「別に謝って欲しいとは思ってませんよ。アレをこの世界に入れたのは貴女達ではないみたいですし。アレの狙いはあの男の人みたいですしね」


「……」


「ま。私としては、別にアレ程度は地面に転がるゴミと同じですから。不快になる前に掃除するだけですけど」


「出来るのか?」


「えぇ。勿論。そこにいる以上、あらゆる存在は何かと繋がっています。繋がっていなくては存在する事が出来ないからです。ならば、その繋がり、縁を絶てばいい。簡単な話ですよ」


女性の言葉は正直その意味をとらえる事が難しかったが、この世界に存在する一番力のある人間の言葉なのだから、僕はひとまず信じる事にする。


もし、駄目だったとしてもどの道、僕たちに残された手段はそう多くは無いのだから。


「ただ、気になる事はある」


「なんでしょうか?」


「以前も確認した事で、明確な答えが貰えなかった件だ。ヒナヤクを倒した場合、タツヤはどうなる。無事なのか?」


「……一度彼と偶然を装って会いました。その時、軽く彼と女の縁を切ろうとしましたが、彼の存在が激しく揺らいでいた。おそらく彼という存在を一番強く、そしてこの世界に繋ぎとめているのが女だからでしょう。だから、女を消せばそのタツヤさんも消えるでしょうね」


「そんな……!」


「な、何とかなりませんか!? 私に出来る事なら何でもやりますよ! ほら、確かお兄さんが居ましたよね? お兄さんとその、えっちな事も、少しなら「その先を言ったら、まず貴女から消しますよ?」ひぇ」


「次。貴女がお兄ちゃんの事を喋ったり、お兄ちゃんの視界に入ったり、お兄ちゃんの事を考えたら消します。良いですね?」


女性の狂気すら感じる視線にメリアはビクビクと怯え、女神ラナの後ろに隠れながら必死に首を縦に振っていた。


まったく。どうしようもない女神だ。


「メリアの事はすまない。忘れて欲しい。だが、僕たちの気持ちは変わらない。タツヤを助けたいんだ。どうか協力して欲しい」


僕は姿勢を正して、かつてタツヤがやっていたように深く頭を下げた。


そんな僕の姿を見て、女性は深くため息を吐いてから、顔を上げて欲しいという。


「あー。はいはい。分かりましたから、止めてください。そういうのは。特に貴方! アーサーさんは駄目です。お兄ちゃんによく似てるから、頭を下げている姿を見るとイライラしますので、止めてください」


「あ、あぁ」


「まったく。しょうがないですねぇ」


女性はどこか怒った様な呆れたような声を出しながら、僕たちに一つの解決策を出す。


「その、タツヤさんを助けたいというのであれば、その女以上に強くあなた達が縁を繋ぐ必要があります」


「縁を繋ぐ? それはどうすれば」


「別に何でも良いですよ。会話をしても良いし、一緒に何かをしても良い。重要な事は、タツヤさんの中であなた達の存在が強く刻まれ、それを支えにして生きていくことが出来る様になる事です」


「……」


「少しでも繋がれば、後は私の方で強くしますから。そこは心配いらないです」


「だから、まずは僕たちが繋ぐ必要があるという事だね」


「えぇ」


「そういう事だ。みんな。やるべき事は分かったな? どんな手段を用いてもいい。タツヤを世界に繋ぎとめる」


「分かりました! では少しでも手は多い方が良いですよね! ウィスタリアちゃん達も呼んできます!」


「で、では、私はタツヤさんの幼馴染という方を! 後は少しでもタツヤさんと繋がりがありそうな方を連れてきます!」


「メリア。女神ラナ。頼む。残った俺たちは、タツヤの事を気にしつつ、ヒナヤクの影響で広がった妖を……」


「あぁ、そっちは気にしなくて良いですよ」


「え?」


「というか、妖を消す事なんて不可能なので、何かをするだけ無駄です。メリーさん。みんなを呼んで。百鬼夜行をやるよ」


「あい!」


「おぉ! 真か!? 久しいのぅ!」


僕らにまったく気づかれず、突如女性のすぐ近くに現れた小さな狐の様な何かは女性の肩に乗り、人間の言葉を話す。


まったく妖というのは何というか、よく分からない奴ばかりだな。


「タマちゃん。これから勘違い女をぶっ殺すから、みんなを呼んで。妖は全部こっちの百鬼夜行に巻き込もう」


「分かったぞ!」


「あ、詩織さんには気づかれない様にね」


「分かっておるわ。ククク」


何か悪だくみをしている様な気もするが、あまり気にしない様にしよう。


向こうも名前やら何やらは何も話す気がないと言っていたし。


現地協力者の事情には首を突っ込むまい!


「じゃあ、気を取り直して。タツヤ奪還作戦。開始だ!」


僕の言葉を合図として、皆が手を上げるのだった。

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