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第38話『彼の悪癖』

まぁまぁ長期の出張になる事を子供たちに告げて、ラナ様に後の事をお願いしつつ、俺は久しぶりの第三異世界課での仕事をする為に異世界へと向かった。


たどり着いた場所は、俺がかつて生きていた世界とよく似た世界で。


違う点といえば、妖なる存在が居て、それを退治する専門家が居ることだった。


そして、とある学園で、数百年に一度出るか出ないかというレベルの強大な力を持った妖が出現する可能性があるという事で、俺たちは秘密裏に学園に潜入する事になった。という訳である。


まぁ実際、そんなやばい奴は出ない方が良いのだけれど、占い課の人たちの占いはほぼ当たる為、出るという意識でいた方が良いだろう。


という訳で、我々は、まずこの世界で生まれる所から始めた。


普段なら、いきなり大人で世界へ行ったりするのだが、戸籍とかがしっかりしている世界だとこういう所で面倒に巻き込まれる可能性が高い。


であるならば、しっかり生まれてからやる方が良いという事だ。


という訳で、演劇課の方々にお願いし、両親の役柄をこなして貰いながら、それとなく、アーサー達と合流し、幼稚園、小学校と過ごし、当然ではあるが、友達として過ごすことになった。


想像していたよりも、アーサーとチャーリーがこの世界を気に入っていたらしく、運動に勉強に人間関係と実に楽しんでいたのは良い事だと思った。


ハリーは学術が非常に発達した世界からデモニックヒーローズに来たという事もあり、学校という概念も知っているので、それなりに楽しんで過ごしているようだった。


俺はまぁ。別に普通だ。


しかし、ただ遊んで過ごしているという様な事もなく、何か怪しげな気配を感じては四人でそこに向かい、大事が起こる前に解決したりして日々を過ごしていたのである。


そんな俺たちの……いや、主に俺の生活が一変したのは、小学校四年の時の事だ。


「ちょっと待ちなさいよ! アンタ! 森藤達也!」


「ん?}


「アンタ。あれが見えてるんでしょ!?」


少女……同じクラスの柊刹那の指さす方へ視線を送ると、そこには放っておいても特に害のない妖が一匹おり、ふゆふよと浮いていた。


まぁ、この子も見えているんだろうな。


でも、あらかじめ聞いていたこの世界における主要人物には無い名前だったし。


巻き込まない方が良いだろうなとも思う。


何せ、妖退治は命がけだ。多くの術者が妖を倒すために命を落としている。


なら、あえて危険な事に巻き込む必要は無いのだ。


「あれ。って言われても、よく分からないな」


「嘘! 前にアーサー君たちと、一緒にあれみたいなのを倒してたの! 見たもの!」


「……」


あー。見られていたのか。それは失敗したな。


一応気配は見てたつもりだったけど、この世界浮遊霊みたいのが、そこら中にいるせいで、気配が分かりにくいんだよなぁ。


「ふふん。どうよ。言い逃れできないでしょ。分かったら、私も仲間に加えなさい!」


俺はため息を吐きながら、一歩二歩と刹那ちゃんに近づいてゆく。


そして、脅かすつもりで、少女の肩を叩きながら忠告するのだった。


「素人が首を突っ込むと、命がいくつあっても足りないよ。子供は大人しく家に帰りな。刹那ちゃん」


「っ!?」


うーん。良い感じに決まった。


刹那ちゃん結構ビビってたし。良い感じだな。


まぁ、普通に知らん奴から名前呼ばれると怖いしね。


気持ち悪いともいう。


自分で言ってて嫌な感じだけど。まぁ良い。僕は泣きません。




という訳で、無事刹那ちゃんを遠ざける事に成功したという事で、夜怪しげな奴が徘徊しているという情報を仕入れてきたハリー達と共に、廃病院へと向かった……のだが。


「お、遅かったわね!」


「……忠告はしたと思うんだけど」


「ハン! 私がそんな脅しでび、ビビると思ったら大間違いよ!」


「おいおい。タツヤ。どうする?」


「どうするって言われてもね。このまま返す訳にもいかないでしょ。俺が責任取るよ」


「ま、今回のは大した事無いだろうし。最悪は俺たちだけでなんとかなるだろ」


「悪いな。チャーリー」


「ハハハ。任せろ」


相変わらずの格好良さを見せるチャーリーに感謝しつつ、自転車でわざわざここまで来たであろう刹那ちゃんに近付く。


「な、なによ。今更帰らないからね!」


「分かってるよ。むしろ今から女の子一人で帰らせる方が危険だ」


「っ」


「だから、俺から離れないで。良いね?」


「て、手とか、繋げば……良いの?」


「あー、まぁ。そうだね。その方が良いかな」


「分かった」


刹那ちゃんは俺の手……ではなく腕に抱き着いて、密着する。


手を繋ぐとはいったい……?


まぁ、良いけど。


「……」


「な、なによ!」


「いや何でもないけど」


「何が、なんでもないのよ! その、た、たた、達也……君」


「うん」


「うんじゃなくて」


「うん?」


「私の名前。刹那だから」


「あー。はい。刹那ちゃんね」


「うん」


なんだ。この会話。


俺はやはり女の子は難しいと思いながら、先を行ったアーサー達を追う。


とは言っても、非常に歩きにくいため、ゆっくりとしたペースでの進みになるが。


「達也君って普段からこんな事してるの?」


「別に毎日って訳じゃないよ。たまにね。放っておくと危ない奴だけ」


「ふ、ふぅん。そうなんだ」


「刹那ちゃんは?」


「わ、私!? 私は、別に誰にだってこんな風にする訳じゃないのよ!? そんな訳無いじゃない!」


「ん?」


「え?」


「いや、こんな風に危ない所へ来るのを、よくやってるのかって話」


「あ、そっち。別にこんなのは私だって初めてよ」


「そう」


そっちもこっちもどっちもなっちも無いと思うが、特に突っ込んでも面倒なので何も言わない。


こういうのはエリスお嬢様でよく学んでいるのだ。俺は。


「た、達也君は、私の事、どう思ってるの? いつもボッチの暗い女?」


「別にそんな風に思った事は無いよ」


「でも! みんな、そう思ってるわ! いつも本ばっかり読んでる暗い女だって!!」


「そんなの。誰がなんて思おうと関係ないよ。君は今、本を読むのが楽しくて、読んでいたいって思ってるんだろ? なら、それを楽しめば良いさ。ま、友達を作るっていうのも人生においてはやっておいた方が良いのも確かだけどね」


「……友達って、そんなにいい物かな」


「悪い事は無いんじゃないかな。もちろん無理して友達作っても、良い事は少ないだろうけどさ。気の合う奴と一緒に居られるっていうのは楽しいと思うよ。俺はね」


「そっか……じゃあ、頑張ってみる」


「あぁ、頑張れ。刹那ちゃん。ただ、無理は禁物だぜ? 無理して傷つく子は見たくないからな」


「大丈夫、よ。だって、達也君が味方でいてくれるんだものね」


「まぁね」


俺は、刹那ちゃんと適当な会話をしながら、チャーリーたちと戦っているであろう妖の気配を探っていたのだが。不意に、今いる場所がやばい事に気づき、刹那ちゃんを抱きかかえながら、走った。


「!!?!?」


「暴れるな! 刹那!!」


「ひゃ! ひゃい!」


次の瞬間には天井が崩落して、妖が上の階から降ってくる。


俺はそれをかわしながら、走り、そして、刹那ちゃんを抱きかかえたまま、急ブレーキをしつつ振り返り、月明りに照らされたソイツを見て、笑った。


なんだ。


ただ逃げようとしていただけだったのか。


月光を背にしながらいつもの光輝く剣を振り下ろしている我が友アーサーは、凛々しいいつもの英雄らしい顔で妖を両断し、消滅させる。


なんともまぁ。


「格好いいな」


「……うん。本当に、格好いい」


刹那ちゃんと意見が一致したことが嬉しくて、俺は刹那ちゃんの方を見ながら笑うのだった。

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