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第21話『その暖かな日に』

友達とは何だろうかと問われた時、相手の我儘を許容できる事だと俺は答えるだろう。


気を遣う事も大事だろうが、相手が好き勝手に行動していても、まぁ俺もやっているしな。と思えるのが大事なのだ。


「という訳で、エリスお嬢様。その辺り如何でしょうか?」


「無理」


「そう言わず」


「ムーリ!」


「貴族としてまずは一歩引いて受け入れるのも大事かと思いますよ?」


「何度言われても絶対に嫌よ! 誰があんな奴ら! 私が一歩引いたら向こうは一歩進んでくるわよ! そういう連中よ!」


「まぁ否定しにくいところはありますね」


俺はエリスお嬢様にお茶を出しながら、頷いた。


そう。入学式の日から始まったエリスお嬢様と南国のミティア姫様、そして聖女アンちゃん。


この三人の争いを何とかしようと、俺はエリスお嬢様に相談をしていたのだが、答えは今見たとおりだ。


とことん敵対している。


少しだって相手に譲ってやろうという気持ちは無いようだった。


「私から見ると、それなりに仲良くやっている様に見えるんですけどね」


「その目、交換した方が良いわよ」


お茶を飲みながら吐き捨てる様に言うエリスお嬢様に俺は何も言えず、小さく息を吐いた。


意地っ張りなお嬢様だ。


「以前、アンちゃんと一緒に隠れて楽しそうに話していたではないですか」


「あれはミティアがタツヤと密会しようとしていたから一時的に協力していただけよ」


「ミティア様と図書室で何やら本を一緒に見ていた事もございましたが?」


「あれは聖女の魔法を超える呪いをアンに掛けてやる為よ。あの女一度痛い目にあわなきゃ何も学ばないんだから」


「お二人とお茶会をしていた事も多数あったようですが」


「仕方なくよ! 仕方なく! 二人ともエレルニア王国のマナーを知らないっていうから、仕方なく教えてあげてたの! 別に仲が良いとかそういうんじゃないわ!!」


「そうですか」


「何よ、その目! 何か言いたいことがあるなら言えば良いでしょ!?」


「いえいえ。大したことはございませんよ。ただ、エリスお嬢様は仕方なくアンちゃんを連れて色々な所へ旅行に行ったり、ミティア様の母国へ旅行に行ったりするんだなぁ。と思っただけで」


「フン。そんなの! 私は貴族でアンは平民だからね! 施しよ! 施し! あの女があまりにも惨めだから与えてやってるだけ! それにミティアだってよそ者だからね! 仕方なく面倒を見てやっているだけだわ! こんなの貴族じゃ当たり前よ!」


「そうですか。ちなみに私から見える範囲だと、エリスお嬢様以外の方は基本的にお二人を避けている様に見受けられますが、貴族というのは、どうやらエリスお嬢様しか居ないらしい」


「それは……その」


「まぁまぁ。仕方のない事ですね。お嬢様ほど博愛精神に溢れた方はなかなか居ないでしょうから。ハッハッハ」


「……タツヤ」


「なんでしょうか? エリスお嬢様」


「ちょっとこっちへ来なさい」


「はぁ……?」


「手を出しなさい」


俺は言われるままに手を出して、そして、いつもの様に小さなフォークを突き立てられた。


「いっだぁあああ!!」


「これに懲りたら、その生意気な口を少しは抑える事ね!!」


エリスお嬢様は怒りに震えながら、俺にそう言い放つのだった。


まったく素直になれないお嬢様だよ。




そんなこんなでバイオレンスなお茶会も終わり、俺はエリスお嬢様にどこかへ行ってろと言われたので、学園の中をトボトボと歩いていた。


話しかけてくる友人に返事をしながら、いい天気だと欠伸をする。


仕事中だというのに、こんな事で良いのか。と思わなくもないが、ラナ様からまだその時じゃないと言われている以上、俺に出来る事はない。


「あ! タツヤさん! おーい! タツヤさーん!」


「ちょっと、アンさん。はしたないですよ。その様に手を挙げては」


「えー? 別に良いじゃないですか。こうした方が早く気づいてもらえますよ!」


「そういう事ではなく……あー、もう!」


「二人とも。これは偶然。何かありましたか?」


「あぁ、いえ。ただ偶然お姿を拝見したので、アンさんがお声を掛けただけでして」


「あ! そうだ! ミティアさん! タツヤさんも一緒に誘いましょうよ!」


「え? しかし」


「良いじゃないですか! タツヤさんはエリスさんと長い付き合いだって言いますし。良い意見が貰えるかもしれません!」


「良い意見。ですか?」


「はい! 実はー、今度の休みはエリスさんの誕生日じゃないですか! それで何かプレゼントでもしましょうって話になって!」


「あぁ、それで……しかし、私ではいい案が出せるとは思いませんが」


「んー。それならそれで! じゃあデートという事でどうでしょうか!?」


「どうと言われましても。聖女様とデートは出来ませんよ」


「あぁん。もう! 私の事はただのアンで良いですよ。一緒にラブラブ生活をした仲じゃないですか」


「記憶にございません」


「もう! タツヤさんってば!」


それから、何だかんだと話をしている間に、アンちゃんのペースに巻き込まれ、俺は呆れた顔をしていたミティア様と一緒にエリスお嬢様の誕生日プレゼントを選ぶ会に参加する事となった。


とは言ってもだ。


正直、エリスお嬢様の趣味など分からん。


「タツヤ様。エリスさんの好きな物はご存じありませんか?」


「いや、正直見当もつきませんね。お嬢様はあまり好き嫌いを表に出す方ではございませんから」


「そうですか」


「えー? エリスさんの好きな物ならハッキリしてるじゃないですか」


「あら。アンさんは分かりますか?」


「はい! ズバリ、タツヤさんです!」


「あー」


「まー」


「どうです!? 当たっていたでしょう?」


「いや、当たっているのは確かでしょうけど、それで何をプレゼントするんですか? タツヤ様という訳にはいかないでしょう?」


「それはそうです! タツヤさんは私の旦那様ですからね!」


「それに頷いた覚えはありませんねぇ」


「という訳で、エリスさんへのプレゼントはタツヤさんっぽいモノにしましょう!」


「タツヤ様のような物ですか」


「いや、俺っぽいモノって何?」


「よーし! じゃあそれぞれで探しましょー!」


「分かりました。では探してまいります」


「いや、だから、俺っぽい物って何!?」


小さなガラス細工が沢山売られている店で、俺はそれぞれに探し始めた二人を見ながらツッコミを入れたが返事は特に無かった。


むなしい。


俺は疎外感を覚えながらも、店の中を見て、それらしい物を探すのだった。


手のひらサイズのガラス細工は、形も色々あって、どれも良さそうな物ばかりだ。


その中で俺らしい物と言われ、俺は何となく見ていた中からピーンと来たものを選び、二人に見せる事にした。


「俺らしいと言えば、これだろう! エールのグラスだ!」


「可愛くないので、駄目です」


「全然タツヤ様らしさが無いですよ」


いやいやいや! これだよ!? 俺といえばこれ!


家にビールグラスあるくらいビール好きだからね!?


てか、可愛くないって何!? 俺は可愛くないだろ!


それから少し経って、ミティア様が良い物を見つけたと俺とアンちゃんを呼び出し、へたり込んだ犬のガラス細工を見せた。


「おぉー。流石はミティアさんです! 素晴らしい!」


「しかもこれ、三つあったんですよ」


「本当ですか!? じゃあ、一緒に買って三人の友情の証にしましょう! 私の結婚式まで大事にして下さい」


「なんでアンさんの結婚式まで?」


「いや、ほら。皆さん私とタツヤさんが結婚したら悔しくて壊してしまうかと思いまして」


「そんな事する訳ないでしょう!?」


アンちゃんのあんまりにもあんまりな発言にミティア様がツッコミを入れつつ、二人はエリスお嬢様へのプレゼントとしてそれを買った。


そして後日、それをエリスお嬢様に見せたところ、相変わらずというか何というか、エリスお嬢様はツン全開で、仕方ないから貰ってあげるなんて言っているのだった。


素直じゃないなぁ。


しかし、俺は後日部屋の一番綺麗にしている場所にプレゼントされたガラス細工を大事に飾っている所を目撃するのだった。


ニヨニヨ。




使用人はミタ!!

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