08 魔法属性
「魔力判定を受けてみたいです」
そうルイシャがお願いしたのは、前世の記憶を思い出して四年の月日が流れた頃だった。
この頃には、車椅子なしでも歩けるほどルイシャの体調は良くなっていた。少食だが、今では普通の人と同じ物が食べられるようになったし、すごい臭いと味の薬湯も飲まなくて良くなっていた。
体力がないので、すぐに疲れてしまうが、熱を出して寝込むことも少なくなり、普通の令嬢とほぼ変わらない状態まで回復することが出来たのだ。
体調が良くなったことで行動範囲も広がり、やってみたい事も沢山出来た。
(私も、カイン様と同じ学園に通いたいな)
ルイシャは、カインから学園の話を聞くたびにそう思うようになっていた。
しかし、カインとジェイスの通う王立魔法学園は、名前の通り魔法を学ぶ学園であり、当然だが魔力がなければ入学することが出来ない。
この世界で魔法は珍しいものではなく、魔力持ちの人間は平民から貴族に渡って多く存在する。
乙女ゲームでも、魔法を学び経験値を貯める設定があったり、イベントでも魔法が関連するものがいくつかあったりした。
ジェイスが、氷属性の魔力の持ち主で、過去に温くなったルイシャの氷枕を冷たくしてくれた思い出がある。
カインが魔法を使っているところはまだ見たことがないが、学園では成績優秀で、来年から生徒会長を務めることになったと話していた。
ただ魔力を持たない人間も一定数いるため、ルイシャはそちら側の人間だと思っていた。
ゲームで、『ほんの少し名前が登場するだけの、既に亡くなった令嬢』のルイシャには、もちろん細かい設定なんてものはない。そもそも魔力判定を受けていなかった可能性が高い。きっと前世を思い出さず、あのまま病弱で死にそうなままのルイシャだったら、学園に入学したいと思うことはなく、魔力判定を受けることもなかっただろう。
魔力判定を受けて魔法学園に入学したいというルイシャの願いに、両親は困った表情をしていた。
体調が回復したとはいえ、両親の中ではルイシャは守るべきか弱い娘で、まだまだ心配なのだろう。
学園に通わなくても勉強は出来ると、家庭教師を雇うことを提案されたが、ルイシャは、魔力がなければ入学は諦めるからと熱心に説得を重ね、両親はその熱意に負け、魔法局に魔力判定を受けに連れていってくれることになった。
「ここが魔法局……」
「大きな建物だろう?魔法に関することは全てここが統括しているから、色々な部署があるんだよ」
歴史を感じさせる古い建物だが、美術館や博物館のような趣があった。そして魔法に関すること全般を統括しているだけあって、とても大きい。正面からは見えないが、建物の裏には広大な練習場もあると父が説明してくれる。
「魔力判定をするところは、受付の近くだけど、車椅子を使うかい?」
父に尋ねられ、ルイシャは「大丈夫」と首を横に振った。この大きな建物の奥の方まで歩くのはちょっとキツそうだが、受付の近くなら大丈夫だろう。
ルイシャは出来るだけ車椅子を使用しないようにしていた。せっかく自分の足で動けるようになったのだ。地に足を着けて行動したいし、歩くことで運動にもなる。と言っても疲れて寝込むことは避けたいので、その日の体調によっては車椅子を選択することもあった。
昨夜は検査前だからと早めに休んで体力温存をしていたので、体調はすこぶる良かった。
受付を済ませ、魔力判定の部屋に通される。父の言っていた通り、受付のすぐ近くの部屋だ。
少し待っていると魔法局の制服を着た女性が「お待たせしました」と入ってきた。
いよいよ魔力判定の時間がきた。
ルイシャには魔力はあるのか、なければカインと同じ学園に通う選択肢はなくなってしまうのでショックだが、これまで自分の中に魔力を感じた事がないので、「ないのかもしれない」という気持ちもある。
「こちらの硝子玉に手を当ててみて下さい」
目の前に出されたのは手の平よりも少し大きめの透明な硝子玉だった。この硝子玉の上に手を当てて魔力を判定するようだ。
「はい」
(どうか、私にも魔力がありますように)
ルイシャは祈りながらドキドキと、硝子玉の上に手を乗せる。
結果はすぐに出た。
硝子玉の中に小さな光が発生し、ふわふわと漂っている。
「お嬢様の魔力属性は『光』ですね」
「わ、私にも魔力があるのね?魔法が使えるってこと?」
判定結果にルイシャの表情がパッと明るくなる。
「お嬢様の場合、魔力の量がとても少ないので、魔法を使うためには練習が必要ですが、使えないことはないと思いますよ」
ルイシャの問いに、女性が微笑んで答えてくれた。
「お父様、これで私も魔法学園に入学できるのよね?」
後ろに控えていた父の方へ振り返り尋ねる。
「魔力があったら入学させる約束だからね。許可するよ」
父は苦笑しながらも、入学の許可を出してくれた。
こうして、ルイシャはカインと同じ学園に入学する願いを叶えることが出来たのだった。