15 エピローグ
「コルトンさん、ごめんなさい」
ルイシャがカインに手を繋がれ生徒会室に戻ると、クロエがとても申し訳なさそうに謝ってきた。眉がヘニャリと下がっている。
「い、いえ、私が勝手に傷ついて出ていっただけなので」
このやりとりで、カインは何があったのか大方察したようで「ああ、またルーキンさんが余計な事を言ったんだね」と困った表情になる。
「全く、何回言えば分かるんだか。何でもすぐに口に出しすぎるんだよ」
「すみません、ジェイス先輩」
プンプンと怒りを露にするジェイスにもクロエは頭を下げる。どうやら、ルイシャが出ていってから、戻ってくるまでずっとジェイスに怒られていたようだ。
「ルーキンさん、もしかして泣いたんですか?」
クロエの目尻が少し赤くなっており、心なしか瞳が潤んでいる。
「お兄様……」
「ち、違う、誤解だルイシャ!僕は泣かせてない」
ルイシャが、じぃっとジェイスを見ると、慌てて手を振り否定する。
「ルイシャが小さな頃からどれだけ努力してきたかを聞かせてたら、クロエ・ルーキンが勝手に泣いたんだ」
「……お兄様、それはそれで、私が恥ずかしいです」
自分の居ないところで、自分の話をされるのは少しむず痒い気持ちになるものだ。
「私、コルトンさんのことをよく知りもしないくせに、あんな無配慮な言葉を掛けて……自分が情けなくって」
どうやらクロエは、自分の発言に後悔して涙が出てきたようだ。
(やっぱり、悪い子じゃないのよね)
「ルーキンさん……」
「私、思ったことをそのまま言葉にしちゃう癖があって。入学したら心機一転、気を付けようって思ってたんだけど、やっぱりダメで……。生徒会の人たちは、そういう私を受け入れて叱ってくれるけど、他の子たちからは距離を置かれちゃって、友達も居ないの」
ヒロイン特性である「物怖じせずに話す」というスキルは、クロエにとっては友人を作る弊害となっていた。
(友達がいないのは、私と一緒ね)
「ルーキンさん、私もね、入学してしばらくは休んでいる日が多くて、友達をつくれなかったの……だから、私たち友達にならない?」
自然と出てきた言葉だった。
「え、でも……良いの?私、貴女を傷つけてしまったのに?」
「後悔して泣いてくれたんでしょう?ルーキンさんに悪気がなかったのは、分かってるから。嫌じゃなければ……」
「嫌じゃない。私の、と、友達になって……その、ルイシャ、さん」
辿々しく名前を呼ばれる。
人との距離の詰め方がわからないクロエらしい返事だった。
「ええ、宜しくね。クロエさん」
ルイシャもクロエの名前を呼んでみた。
こうして、乙女ゲーム開始前に消えるはずだった病弱モブ令嬢のルイシャと、ヒロインのクロエは、お互いが初めての友人になったのだった。
~Fin~
「乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました」完結です。
これといった盛り上がりに欠けるふわっとした物語になってしまった感がありますが、病弱なルイシャの物語としては、これで良かったんじゃないかなと思ってます(あまり刺激が強いと、ルイシャが倒れそう)。
個人的にはクロエとジェイスの相性は良いと思うのでくっついて欲しい気持ちです。
カインとルイシャにはいつまでもラブラブでいて欲しいですね。
読んでいただき、ありがとうございました。
2023.915 佐倉穂波