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10 ヒロインの存在

 入学初日から周囲の視線を集めたルイシャだが、本人は全く気がついていなかった。

 屋敷以外はほとんど外に出たことがなかったルイシャにとって、学園はとても物珍しく新鮮で、周囲の視線を気にする余裕がなかったのだ。

 そして、気分が高揚していたせいで、体調の変化に気がつかず、夜中に熱を出してしまうことになった。

 高熱を出したのは久しぶりだった。

「ごめんなさい、はしゃいでしまって……情けないです」

 せっかく両親を説得して入学出来たというのに、入学式に出席しただけで熱を出してしまうなんて情けなさすぎて涙が出そうだった。

 視界が滲んでしまったのは、高熱のせいだけではないだろう。

 ルイシャは布団を頭まで被り、自己嫌悪に浸った。

「こら、布団に潜ってると熱が上がるだろう?」

 様子を見にきたジェイスが、ルイシャの布団を首元まで引き下げる。

「屋敷から出るのは久しぶりだったから疲れたんだろう。なんか注目されてて人も多かったし」

「注目?」

 ルイシャが不思議そうに聞き返すと「気がついてなかったのか……ならいいよ」と返された。

「環境に慣れてくれば、体もそれに慣れてくるよ。今までみたいにルイシャのペースで慣れていけば良いんだよ。今はゆっくり休んで。カインも心配してた」

「はい……ありがとうございます。カイン様にも、宜しく伝えておいてください」

 ジェイスは慰めてくれたが、ルイシャの気持ちは沈んだままだった。

(普通の令嬢は、こんなことで体調を崩したりしないのに)

 久しぶりの高熱で働かない思考のまま、鬱々と考えていると、いつの間にかルイシャは眠っていた。

 翌々日には平熱に下がったが、大事をとって一週間学園を休むことになってしまった。



 一週間後、学園に登校すると、ある少女が注目の的になっていた。

 もちろん久しぶりに登校したルイシャにも少し視線は集まったが、すぐにその少女の話題になっていた。日々刺激を欲している年頃なので、興味が移ろいやすいのだ。

「新入生なのに、もう生徒会の勧誘があったみたいよ」

「魔力判定で、最高ランクの魔力だったんですって。しかも、光属性!」

「少しピンクがかった金色の髪と瞳が、すっごく可愛いよな」

 まだ友人の居ないルイシャは、一人で教室の席に座っていたが、それでも周囲から聞こえてくる話は耳に届いた。

 話の内容から導かれた人物は、ルイシャと同じ新入生で、隣のクラスのクロエ・ルーキンという少女だった。

 元々は平民だが、数年前にルーキン伯爵家の養女として迎え入れられたらしい。この世界では、優秀な平民を貴族が養子として迎えることは珍しいことではない。光属性は珍しい上に、膨大な魔力を有しているとなれば、いくつかの貴族から養子の打診があったに違いない。

 入学してすぐに生徒会に勧誘されるくらいなので、成績も優秀なのだろう。

 ルイシャはまだクロエに会ったことはない。

 しかし、彼女の事を知っていた。


(乙女ゲームのヒロインだわ)


 乙女ゲームでは、ヒロインの名前を変更できる仕様になっているが、確かデフォルトの名前は「クロエ」だったはずだ。

 ピンクゴールドの髪と瞳もヒロインの特徴だ。間違いないだろう。

(生徒会の勧誘……カイン様がしたのかしら?)

 ルイシャは、カインと同じ学園に入学したい気持ちが強く、ヒロインの登場をすっかり忘れていた。

 ヒロインの入学と共に乙女ゲームは開始するのだ。

(ゲームと違って私は生きてるから、『婚約者を亡くして悲しむカインを、ヒロインが慰める』イベントは発生しないけど……)

 それでも、攻略対象であるカインとヒロインのクロエに、生徒会という接点が生まれることに、モヤモヤと不安に似た感情が生まれたルイシャだった。



 放課後、ルイシャは生徒会室を訪ねた。両親との約束で、ジェイスが在学中は放課後一緒に帰ってくるようにと言われているのだ。入学早々寝込んだ身としては、両親が心配するのも無理ないと思うので、約束は守らなければならない。

 それで、どうして生徒会室なのかというと、実はジェイスも生徒会役員なのだ。

 カインに勧誘されて渋々「書記だったら」と了承したと話していた。

「お兄様」

 そっと生徒会室の入り口から中を覗くと、ジェイスはすぐに見付かった。他にも二人役員と思われる生徒がいて、目が合うと軽く会釈してくれたので、ルイシャも頭を下げながら「こんにちは」と挨拶を返す。

「ああ、ルイシャ。もう少しで終わるから、そこに座って待っててくれる?」

「はい。お邪魔します」

 ジェイスに示されたソファーに腰掛け、ルイシャは周囲を窺う。

(カイン様は、いらっしゃらないのかしら)

「ただいま」

 カインの姿を探していると、タイミング良く彼が生徒会室に入ってきた。

「あ、ルイシャがいる……幻?」

 何だかやつれた表情のカインは、ルイシャに気が付くと、フラフラとソファーに近づき、ぎゅーっとルイシャを抱き締めてきた。

「幻じゃなかった。ルイシャの匂いだ」

 さすがにこれは恥ずかしい。こうやって抱き締められるのは初めてじゃないが、ここは学園だ。ジェイス以外の役員二人が、目を丸くしてカインとルイシャを見ている。

「カ、カイン様?」

「ごめん。もう少しこのまま……」

「は、はい」

 疲れた様子のカインを引き離すのは、物理的にも精神的にもルイシャには難しく、そのまま抱き締められたままでいる。

(あ、カイン様の香り)

 確かにこれだけ密着していれば、相手の香りが分かる。カインの香りに包まれているのだと思うと安心するが、それ以上に羞恥とか緊張とかで、ルイシャの胸はドキドキを通り越してバクバクしてしまった。

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