09 魔法学園へ入学
魔力判定の結果、僅かだがルイシャにも光属性の魔力が在ることがわかり、それから入学までの一年間は、色々と準備に追われる日々を送った。
魔力は平民から貴族まで多くの者が持っているため、魔法を学ぶ学校も国の各所に存在している。その中で、カインやジェイスの通う王立魔法学園は、貴族が通う魔法学園のため、基本的な礼儀作法は習得しておかなければならなかった。
幼少期のほとんどを寝込んで過ごしていたルイシャは、正式に礼儀作法を学んだことがなかったのだ。
両親やジェイスの日頃の作法を見て過ごしているため、ある程度の作法は理解していたが、学園で他の令息令嬢と関わる以上、中途半端な作法では笑われてしまうかもしれない。
そのため、母と家庭教師に礼儀作法についての講義を受けることになった。
ダンスの授業は苦手だったが、その他の授業は面白く、ルイシャは熱心に学んだ。
週末に会いに来てくれるカインに、授業の成果を見せ、誉められるのも嬉しかった。
そしてついに学園に入学の日。
「どうですか? 変じゃありませんか?」
真新しい制服に袖を通したルイシャは、その場でくるりと一回転してジェイスにみせる。白いプリーツスカートがふわりと揺れる。
(前世の記憶を思い出して良かった)
乙女ゲームのルイシャは、この時点で既に亡くなっていることを考えると、今こうして魔法学園の制服を身に着けていることが感慨深い。前世を思い出さず、あのまま成長していたら、今ここにルイシャは居ないのだ。
「可愛いよ。僕の妹がきっと入学生の誰よりも可愛いと思う」
そうシスコン全開の発言をしながら、ジェイスは、軽々とルイシャを持ち上げる。
「きゃあ、もう、お兄様!子供あつかいはやめて下さい」
困ったように抗議するルイシャだが、ジェイスは「はははっ」と笑い、降ろそうとする様子はない。ルイシャが本気で嫌がってないことを知っているのだ。
「学園でもルイシャと会えるようになるのは嬉しいよ」
「私もです」
健康体とまではいかないが、学園に通えるくらいの体力がついた事が本当に嬉しかった。
「学園でカインも待っているから、そろそろ行こうか」
「はい!その前に、お兄様降ろして下さい」
渋々ルイシャを降ろしたジェイスと共に、学園に向かった。
「ルイシャ、会いたかったよ」
「カイン様」
学園に着き馬車を降りると、すぐにカインが駆け寄ってきた。
「屋敷まで迎えに行きたかったんだけど、準備で抜けられそうになくって。ごめんね」
申し訳なさそうに謝るカインに、ルイシャは首を横に振る。
「いいえ、生徒会のお仕事ですもの。それに、こうやって迎えに来てくれただけで、とても嬉しいです」
ルイシャたち新入生を迎えるための準備をしてくれているのだ。カインが申し訳なさそうにする理由なんてない。
「ありがとう、ルイシャ」
優しく微笑むカインに、いつもながらルイシャはドキドキしてしまう。
出会った頃のカインは、幼さの残る美少年だったが、今では幼さは消え美青年に成長していた。
艶のある黒髪に、穏やかな色を滲ませる琥珀色の瞳。魔法だけでなく他の学問も成績優秀で、運動神経も良い。それに傲ることなく、誰に対しても平等に穏やかに対応するため、女性だけでなく男性からも人気がある。ジェイスいわく「あいつは人たらしなんだ」らしい。
さすが攻略対象者だけある。
そんな「誰に対しても平等で穏やかに対応する」カインが、ルイシャが入学するに当たって、ジェイスと共に男子生徒に対して「ルイシャ・コルトンに不必要に近付かないように」と牽制していた事実は、周囲を驚かせた。
そして今、他の生徒たちに見せる穏やかな表情とは別の蕩けるような笑みに、周囲はざわついていた。
カイン・エイデルを骨抜きにした婚約者とはどんな令嬢なのかと、周囲の生徒たちはルイシャに興味を持っていた。
そしてルイシャを見て納得した。
透き通るような白い肌。淡く柔らかそうな金髪に縁取られた、あどけない顔立ち。薄い水色の大きな瞳は、まるで磨かれた宝石のようだ。
とても小柄な少女は美しく可憐で、また儚い雰囲気は守ってあげたいと庇護欲を誘った。
「牽制するのも無理もないな」と、誰かがボソッと呟いた。
それに、ルイシャのカインを見つめる瞳には、信頼と愛情が溢れている。
これは完全に相思相愛の関係だと誰もが悟った。