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第97話 偉い人に囲まれた(涙)

 ヒースに抱き上げられたまま、3階のギルド長の部屋に直行。

 気負うことなく、ノックするブリアさん。慣れていらっしゃるようで。

 話は通っているのか、すぐに入室許可の声があった。

 その声にヒースとブリア、そして連行されたティティは部屋の中へと入った。

 入ってやや左寄りにどっしりとした机があり、そこには浅黒い肌の小麦色の髪をした40代の男が座っていた。何やら忙しくサインをしている。

「ああ、少し待ってくれ。これを片づけてしまう。そちらに座っていてくれるか?」

 部屋の主は目線を書類に向けたまま、部屋の右を示した。

 そちらには長方形の黒いローテーブルとソファ、いわゆる応接セットがあった。

「こちらにお座りください」

 ドアの傍に立っていたイリオーネに促されて、3人はソファに座る。

 席次は右側の長いソファに奥からヒース、ブリア。そしてティティはローテーブルの短い辺の手前の一人掛けソファに座った。足もとにスヴァもお座りをする。

 この席はドアを後ろ、正面を向けば、大きな窓が見える。

 もしこの部屋から逃げなくてはならなくなった場合、すぐに掴まってしまうのではないか?

<魔法士2人がいる部屋から逃亡もできまい>

 ですよね。相変わらずスヴァの突っ込みは鋭い。

 でも、こんなところに連れて来られて、逃げ道を考えてしまうのは仕方ないと思う。

 私、正常な反応だよ。うん。

 救いなのはイリオーネがいてくれることだ。

 にしてもどうやって先回りしたのだろうか。

 職員だけが使える通路でもあるのか。それとも、もともと3階にいたのか。

 そんな詮無いこと考えていると、男が声を上げた。

「よし。一区切りついた。申し訳ない。お待たせした」

 小麦色の髪の男は立ち上がると、ヒースたちの正面の長いソファに座った。立ち上がった時にも思ったが、随分と長身でがっしりとしている。近くに座られると思わず、顔をひいてしまうくらい迫力がある。だが、砂色の目は親しみやすさを感じる。

「いえ、先ぶれもなく訪問したのは、我々ですから、気にしないでいただきたい。それに、先約があったところに、割り込ませてもらったようで、こちらこそ申し訳ございません」

 大げさな物言いはなりを潜め、ヒースが普通の話し方をしている。ちゃんと使い分けはしてるんだなあ。そうだよね。領主さまへ仕えているんなら、そうでないと務まらないよね。

「いや、ちょうどよかったとも言える」

 そう言いつつ、ティティに視線を向けた。

「ヒース殿とブリア殿とは顔見知りであるが、ここに座る娘とは初対面なのだ。ヒース殿たちは、もうこの娘とは挨拶をしたかな?」

「私はこの小さなレディには名乗りを上げたが、レディの名前はまだ受けていないな」

「あ、申し訳ありません!どうかお許しください!」

 ティティは急いで立ち上がって、頭を下げる。

 あの場面じゃ自己紹介どころじゃなかった。けれど、偉い人に名を受けたのに、自分がしないのは、失礼どころ無礼だった。

「小さなレディ、気にしないで。あんなシーンじゃ仕方がないことさ」

 うん。安定の人だ。よかった。

「私はまだだ」

 ブリアが短く告げる。

「では簡単に自己紹介していこうか。まずは私からか。私はここ、ゴルデバの冒険者ギルド長をしている、カシミール=デオーネだ」

「改めまして、僕はヒース=カレドニア。小さなレディよろしくね」

「ブリア=サーテスよ。ブリアでいいわ」

「初めまして。ティティルナです。ティティって呼んでください」

「よし! これで自己紹介は終わったな。ティティは座れ」

 その指示にティティは素直に座る。

「ではヒース殿、今日は何用でお越しいただいたのか? ヒース殿が来るとは何か重要な案件が持ち上がったのであろうか?」

 カシミールが眉間に皺を寄せ、真剣な顔で尋ねる。

 えっ、そちらが先? それじゃ私、話聞こえちゃうよ?

 私、ここにいていいの? なんなら外で待ってますよ! 心の中でジタジタしてしまう。

<いいのだろうよ。問題があれば、席を外すように言われるだろう>

<そっか。そうだよな>

 スヴァがいてくれてよかった。こういった場は苦手なのだ。

 だって判断できない。スヴァは流石魔族のトップを張っていたこともあり、判断が的確である。

 頼もしい限りである。

 やっぱ、たいしたことない娘だからとかなめられてるんだろうか。

「領主さまからの手紙を配達しに来ました」

「配達? お預かりしてきたのではなく?」

 言い方が気になったのか、カシミールが訝し気にする。

 ブリアさんいわく、部下から手紙を奪ってきたみたいだから、微妙な言い方になったのかな。

 あ、手紙渡すだけだから、私ここにいていいとか?

「手紙を拝見します」

 とにかくも、手紙を読んでみればとわかるかというようにカシミールが手紙を受け取り、読み始める。

 その間をぬって、イリオーネがワゴンを押して部屋へと入って来た。

 いつの間に部屋を出て行ったのだろう。

 気づかなかった。

 気配が静かすぎる。

 イリオーネは、ヒース、ブリア、ティティ、ギルド長の順に、お茶を出して、ギルド長の斜め後ろに立つ。

 できれば、もっと近くに来て欲しいが、そこまでは甘えられないか。

 それにしても改めて見てもイリオーネは麗しい。

 ここまで美人だと、人生何倍も得しているよなあって思う。

 ティティの容姿は可もなく不可もなく。前世のジオルもまたしかり。

 前世でもう少し男前だったなら、女の子にもてて、もう少し幸せな人生を歩めたかもしれないと、つい羨ましくなってしまう。来世ではどうか見目麗しくと願ったものだが、その願いはかなえられなかったようである。誠に遺憾だ。世の中不平等である。

 そんなくだらない事を考えているうちに、カシミールは手紙を読み終わったらしい。

 そして困惑の表情を浮かべている。

「内容は承りましたが、これはヒース殿がわざわざ手紙を届けてもらうほどの内容ではないような」

「やっぱり! 新人の従者に渡された手紙をヒースが仕事をさぼるのに、奪ってきたのものなんです、その手紙!」

 ブリアがヒースを睨みながら叫ぶ。

 ヒースがあらぬ方向に視線を泳がせる。

「可哀そうに、その子は泣きそうになりながら、ご領主のところに帰って行ったのですよ! 初めてのお使いだったみたいなのに! ヒース!」

「な、なんだい!?」

「貴方、あの子にお菓子でも買って、謝りなさいよね」

「わかった。わかったよ。僕が悪かった。そう怒鳴らないで。麗しい顔が台無しだよ?」

 うーん。ヒースはどこまでもヒースのようだ。

 反省してるのかしてないのか、読めない。

「はは。そういう事でしたか。でも、結果としてはよかったかもしれないですな」

「どういう事でしょう? カシミール殿」

 これ幸いとヒースがカシミールの言葉に食いつく。

「この手紙は 領主さまが出された依頼の進捗(しんちょく)状況の確認だったのですが」

 うえ。領主の様の依頼って、まだ依頼されて数日だぞ。領主さませっかちだなあ。

「こんな数日で有力な情報が集まる訳なかったわけですが」

 そうだよ。それだったら、領主さまが依頼を出すまでもなく、もうとっくに解決してるだろうに。どんだけ期待してるんだよ。

「今回は、よいタイミングで訪問してもらったかもしれません」

 カシミールがティティに目を向ける。

「うひゃ?!」

「ここにいるティティが、領主さまの依頼の件で、情報を持っていると持ちかけて来たところで、丁度私が聞くところだったのです」

 ええ! ギルド長、何ばらしてくれてんの!? ひどい! 守秘義務はないのか!

「そうでしたか!」

 う! プレッシャー。確かに有力な情報ではあるけれど、こんなお偉いさんたちの前で話すのは怖気づいてしまう。

「あ、あの、私、イリオーネさんにこそっと話したいなあっと思ったんですけど」

 その為、最後の抵抗とばかりに思い切って言ってみる。

「それで、私がイリオーネから聞くのか。二度手間だし、齟齬(そご)が生じるといけないからな。なにせ、今回の案件は、この地域全体にかかわることなんだからな」

 やっぱだめか。がっくりと肩を落とす。

「とはいえ、こんな大人の中で話すのも、緊張するのもわかる。イリオーネ、お前も俺の横に座れ。その方がこの娘も安心するだろう」

「わかりました」

 カシミールに言われて素直に腰を下ろすイリオーネ。

 そういえば、イリオーネもこの場で全然ものおじしてない。

 ギルド長といえば、会社の社長みたいなものだろう。

 いわばトップを前にして緊張しないのだろうか。

 それが顔に出たのか、イリオーネがにっこり笑ってなぞ解きをしてくれる。

「ふふ。実は私、副ギルド長なの」

 はい! えらい人だったあ。

 偉い人が4人になったあ(涙)

PV20000超えました! 本当にありがとうございます!

これからも少しでも続きを読みたいぞっと思っていただけましたら、評価、ブクマをよろしくお願いします。

励みになります~!!

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