第96話 私、それ初めて聞いたんですけどっ
あ、お姉さんことブリアさんにもお礼言わないと。
「お姉さんもありがとうございます。助かりました」
ぺこりと頭を下げる。
お礼、大事。
そこでカミオがカウンターから出て来た。
「助かりました。ギルドが出る訳には行かなくて」
カミオがすまなそうに、ティティを見る。
冒険者同士の諍いは、基本本人同士で解決するのが当たり前。ギルドは不干渉が基本。
他人を巻き込むようになってからでないと、ギルドは口を出さない。それは子供の場合でもだ。なかなか厳しい。だから、カミオは様子を見るだけしかできなかった、しょうがない。
ティティは笑顔で首を振る。
「すいません。次回は自分で解決できるようにがんばります」
今日はちょっと判断に迷ってしまった。次回は迷わず逃げよう。
「わたしらがちょうど来てよかったよ」
ブリアが事情を汲んで、話を続ける。
「はい。ところでお2人はどうしてこちらに?」
カミオも心得たもので、それに乗る。
「ああ、ギルドマスターに手紙を届けに来たのさ」
「はい? お2人が手紙の配達の為だけに、わざわざお越しになったのですか?」
どうやら、カミオの台詞からして、高い地位にあるらしい。うーんヒースさん自身の申告通りなのかな。
「カミオからも言ってやってよ! こいつ会議がやだから、下のもんの仕事を奪って、ここに来たんだよ!」
さぼる口実か。その会議退屈なのかなあ。
「何を! 手紙を届けるのも重要な仕事だよ!」
「それをあんたがする必要はないんだって!」
うん。不謹慎だけど。面白いなあ。2人の掛け合い。
「さあ、いざいかん! ギルド長のもとへ」
「あ、それなら、申し訳ないのですが、この子も連れて行ってもらえませんか?」
何? 何言ってくれてんの? カミオさん。こんな2人と階段上ったら目立つでしょうに。
それにお偉いさんなんだよね。そんな人にものを頼むか普通。
それにそれに聞いてないよ!! ギルド長の部屋なんて!
「何? この子、ギルド長に用事なの?」
ブリアが尋ねる。
「いえ、イリオーネさんになんですが。ちょっと込み入った話になりそうなので。ギルド長の部屋でお話をすることになってまして」
なってましてって。それ、私、初めて聞いたから!
「ああ! それは私がエスコートしなければならないね! さあ、小さなレディお手を!」
ティティは反射的に後ろに下がった。だって、こんな2人と一緒になんて行けないでしょ!
「むむ。遠慮しているのか。それでは失礼して」
ヒースはティティに逃げる隙を与えず、子供抱っこをする。
「ひやああ!」
ティティはいきなり抱き上げられて、思わずヒースの首にしがみつく。
「うむ。レディに頼られるのはいいね」
「犯罪よ」
「犯罪ですね」
ヒースはカミオとブリアの2人の白い目にもめげず、歩き出し、階段を昇りだした。
「さあ、小さなレディとともに、いざいかん! ギルド長の元へ!」
それ、言わなくていいから! 言わなくていい事だったからああ!
<面倒がなくてよいではないか>
どこかずれてるスヴァは、落ち着いて後をついて来た。
そういう事じゃない。そういう事じゃないから。
しっかり目立ってしまったティティは涙目になった。
ぐぐっ。
お話がゆっくり進み始めます。




