第95話 カッコいいお兄さん、綺麗なお姉さん、好きですか?
迫りくる男の手を前に、ティティは逡巡した。
スヴァが体勢を低くする。
まずい。スヴァを止めないと。
焦ったティティが静止の言葉を発しようとしたその時。
「君、レディに対して、乱暴はいけないね」
その言葉とともに、いちゃもん男は横から伸びて来た手に手首を捻り上げれていた。
「いててて!!」
いちゃもん男が悲鳴を上げる。
「レディ。お怪我はありませんか?」
そうのたまった人物は、金髪の長髪に、ブルーの瞳の美形。
体つきは細めだが、筋肉はしっかりついていそうである。
そのきざったらしい言葉遣いが誠に似合う。王子様系である。
「ふわああ! かっこいいなあ!」
ティティの感嘆の声をきいた時、男は笑顔を全開にした。
「この小さなレディはわかっているね! そうとも! 私は顔も実力もピカ一なのだよ!」
うーん。顔はイケメンだけど、性格はザンネンなのかも。
それでも、目の保養になるのは確かな訳で。ティティは可愛いも大好きだがカッコいいも大好きである。そして助けてくれたのもまたしかり。
とにかくもお礼を言わないと。
「ありがとうございます。助かりました!」
「なんの。可愛いレディを助けずして、ナイトは務まらないよ」
ほほう! この方は騎士団に勤めているらしい。天は三物は与えずとも二物は与えるようだ。
「おばか言ってんじゃないわよ。あんた、騎士じゃなくて、魔法士でしょうが」
黒目くせっけ黒髪。浅黒い肌。エキゾチック美人なお人が、腰に手を当てて突っ込みを入れる。
「ふわあああ! お姉さん、すっごい美人さんですねえ!」
流石にティティの姿で色っぽいとは言えなかった。けど、200パーセント以上に色っぽい。
「‥‥‥ありがとう」
お姉さんはティティの言葉に戸惑ったのか、少し間をおいてから、お礼を言った。
それからぷいと横を向く。ほんのり頬がピンク色。
なにこのお姉さん可愛すぎる!!
ああ、絡まれた時はうざったい気持ちになったけれど、その後にご褒美がもらえた。
差し引きプラスになったかも。
<お主、面食いか?>
あ、なんだよ、スヴァその冷たい目は。
<いいだろ! 可愛いもの、綺麗なものを見ると、テンションあがんだよ!>
<手は出すなよ>
<許可がおりない限りはな>
そのくらいは心得ているのだ。
その点女子になったから、愛でる機会は増えそうである。
決していやらしい意味合いはないぞ。
ジオル時代は置いておいて、女子の身体、まして子供の身体である。
それに引っ張られてか、全くそういった衝動はない。
逆にあったら怖い。
「お兄さんは、魔法士なんですか?」
「そうとも! 私はヒース=カレドニア! この街一番の魔法士さ!」
魔法士って、希少なんだよな。重要な情報あっさりばらしていいのか。
「ヒース=カレドニア! そんな人が、何でここに?!」
腕を掴まれた男が悲鳴を上げる。
どうやら有名人らしい。なるほどそれなら、ばれてもいいのか?
「馬鹿言ってんじゃないわよ! ほら、さっさとその汚いものを放して、用事を済ませるわよ」
「ああ!? このアマ!」
ヒースの事を怖がってたのに、仲間のお姉さんにすごむなんてばかかな? 沸点が低すぎるでしょ。頭悪いな。
「誰が、クソアマだって!?」
お姉さん、彼はそこまで言ってません。
「炎よ! わが手に集え!」
黒髪の女性が手から火を出す。
あ、この女性も魔法士か。
すごいなあ。
「ひっ!!」
男がびくりと身体をすくませる。
そのタイミングで、ヒースは男の手を放す。
「ほら、ブリアをこれ以上怒らすと、君は丸焼けになってしまうよ? 退散するのをおすすめしよう」
そのヒースの台詞と同時に、火の大きさが一回り大きくなる。
「ひいい!」
今度こそ男は、一目散に外へと飛び出した。
いちゃもん男、お決まりの捨て台詞なしか。
しまらないなあ。
新しい登場人物、どこまで増える。




