第94話 なんで今日なんだよっ
「そろそろいい時間かな」
お腹もいっぱいになったし、陽も高くなったし、よい頃合いだろう。
ティティは冒険者ギルドに足を向けた。
ギルドの中に入ると、朝よりは人はいない。
いい感じである。
カウンターに目を向けると、残念ながらイリオーネの姿はなかった。
そううまくは行かないものである。
カウンターに近づき、まずは挨拶。うん、人間の基本だよね。
「カミオさん、こんにちは。依頼達成の手続きお願いします」
そう言いつつ、冒険者のギルドカードを差し出す。
まずは依頼の報告を済ませてしまおう。
「はい。ティティちゃん、こんにちは。すぐに手続きします。依頼品を出してくださいな」
「了解です」
ティティは肩掛けカバンから薬草をいくつか取り出す。
「コル草とデル草。確かに。それにしても丁寧なお仕事ですね。これからもこの調子でお願いします。報酬は持ち帰りますか?」
ティティは少し考えて首を振る。
「いえ、口座にお願いします」
まだ手持ちは十分にある。
「わかりました。他になにか御用はありますか?」
いつもの締め文句である。
うん。今日はあるんだな。
口の横に手を添えて、内緒話風に尋ねる。
「あのイリオーネさん、いますか?」
「いますよ。奥でお仕事をしてます」
「お話したい事であるのですが、呼んで、いえ、できればここではなくて別のお部屋でお話したいのですが」
「‥‥‥重要なお話なのですね。私では難しいですか?」
「できれば、イリオーネさんにお願いしたのですが」
決してカミオが悪いわけではないのだが。この件に関してはイリオーネ一択で。
ティティはちらりと依頼ボードに視線を向けてから答えた。
「とても重要な情報で」
それでカミオは気づいてくれたらしい。
しばしティティを見つめたのち、カミオは口を開いた。
「わかりました。では、3階に上がって待っていてください。すぐに向かわせますから」
「うえっ!?り、了解です」
思わず声がひっくり返った。それで何とか返事を返す。
なんだよ。1階の奥の部屋じゃだめなのかよ。
<おちつけ。最重要な依頼だ。一介の受付1人で聞く話ではないと判断されたんだろう>
わたわたしてるティティを見かねて、スヴァが心話で注意する。
<でも、俺はこんなチビな子供だぞ! まず小さい小部屋で話を聞いてから上にあげるかイリオーネが判断してもいいだろうよ!>
<だが、カミオの判断は間違ってはいまい?>
<そうだけど! そうだけど!>
3階ってなんかお偉いさんの部屋が並んでそうで怖い。そういえば、3階のどこの部屋に行けばいいのか。3階に上がれば、自然にわかるのだろうか。様々な疑問を抱えつつ、ここに立ってても仕方がないので、しぶしぶ階段へと向かう。
誰の前で話さなくちゃなんないのかなあ。イリオーネだけにしてくれよ。頼む。
俯きつつ、歩いていると、目の前に二本の足。
「あ、すいません」
前を見てなかったから、ぶつかりそうになったらしい。急いで脇によけると、その二本の足も併せて移動してくる。
なんだ?
上を見上げれば、にやにや笑いを張り付けた無精ひげの男が1人。
どうやら、わざと立ちふさがっていたらしい。
やな予感だ。
「な、何か用ですか?」
「お前、このところ、ちょろちょろここに出入りしてんな」
ティティの質問には答えず、話しかけてくる男。
感じ悪い。
「用事がないなら、失礼します」
ティティは目を細めて、男の脇を抜けようとする。
そっちがその気なら、こっちだってお前の質問に答えないよ。端からそんな義理はないんだからな。
でもどうやら、カミオとのやり取りを聞いて絡んで来た訳ではないらしい。そこは安心。
「待てよ! お前みたいなもんが出入りすると、示しがつかないんだよ。だが、出すもん出せば、放っておいてやるよ」
そういって男は、鞄に手を伸ばす。
ティティはその手から逃れる為に、後ろに飛びのく。
たたらを踏む男。
酒臭いし、それに大したことはないな。それにそんなあからさまにいいのか? ギルド内だぞ?
まあ、考えなしの輩が、大概あやをつけてくるもんだが。それにしてもなぜ今日なんだ。こちらは今日これから大一番なんだぞ。緊張してんの! あー腹立つ!
「ここは冒険者ギルドで、冒険者の出入りは自由のはずです。ですが、気に入らないならば、時間をずらして利用するようにします。この時間は仕事に出ている事が多いですから、ご心配なく!」
だいたいこんな時間に冒険者ギルドにいるっていうのが、大したことないって物語ってるよな。酒まで飲んでさ。たまたまかもしんねえけど!
「そういう事じゃねえ! 先輩に挨拶代をよこせって言ってるんだよ!」
はあ? おめえの世話にはなってねえっての。それに嫌味も通じなかったらしい。けっ!
<食い殺すか?>
スヴァが冷静な声で物騒な事をいう。
<いや、それはまずい。そんなことしたら、俺が犯罪者になっちまうだろ>
<では、あちらから手を出させて、半殺しか>
<おまっ。あぶねえ奴だな>
<そうか? 普通だろう>
うん。スヴァを怒らせないようにしよう。
「おい! なに黙り込んでんだよ!」
無視されるのに焦れた男が、ティティに手を伸ばす。
「!」
どうする? カミオさんには悪いけど、一旦逃げるか?それとも対抗するか?
どうしよう!
定番な三下さん登場(笑)




