第91話 デルおじ にんまり
「デルおじ!おっはよう!」
もう馴染みになったドリムル武器屋の扉を元気よく開ける。
「おう! 来たな! 出来てるぞ!」
「本当!? 早い!」
ティティの声にすぐに店に出て来たデルコ。フットワークが軽い。
「ほれ」
渡してくれたのは、いわずとしれた三節棍だ。
すかさず足元にいるスヴァに心話で聞いてみる。
<どうだ?>
<見た目は文句なしだな。ジョイントを解いてみてくれ>
<わかった>
三節棍の節になっているところをきゅっと捻ってみる。すると、カシャッという音ともに、棒が折れた。折れた部分は鎖でつながっている。もう一つの節も同じようにジョイントを解く。そうしてから、また一本の棒の状態にする。
「どうじゃ?」
「武器としては、使ってみないと何ともいえないけど、作りはばっちりだと思う」
「そうか! 初めて作ったし、わしもこんな武器使った事もないからの」
それはティティも見た事もなかった。実は三節棍を見たのはお初である。
使い方は後でスヴァに指導してもらわなくてはならない。
ま、当面は物干し竿代わりが主な働きになろう。ちょうどいい太さだ。
「それと保温筒2つ作っといたぞ」
「わあ、ありがとう!」
これは本当に助かる。出来れば、鍋ごと色々買いたいところだが、それは目立つ。
だからこその保温筒である。
「デルおじ、いくら?」
「そうさの、全部で大銀貨8枚といったところじゃな」
たっかあ!三節棍が高いんだな。武器としては相応なのかもしれないが、物干し竿としてはかなり高い。これはぜひとも武器としても使わなければ。
「はい。大銀貨8枚。ありがとう! すごい助かったよ!」
「おう! 使い勝手が悪いところがあったら、調整するから、いつでも持ってこい」
「わかった。助かる」
「それでティ、これから時間はあるか?」
「午後から冒険者ギルドに行くけど、それまでは大丈夫だよ。なんで?」
「この前行っただろうが。三節棍を商業ギルドに登録に行くぞ」
そっか忘れてた。
「本当に登録に行くの? これ売れるのかな?」
武器としては使い勝手はあまり良さそうに見えない。
ジオルはあまり剣など得意ではなかったから、なんとも言えないが、なんとなくそんな気がする。
「売れなくても、新しいものは登録しとくんじゃ」
「これ、他の国ではもうあるかもしれないよ?」
確か、東の国がこの武器の出所だとスヴァに聞いた。
そう思って、スヴァに視線を落とすと頷いている。
「武器はこの国で販売がなければ、新しい武器として登録できるんじゃ」
「へえ、そうなんだ」
「日用品は、違うがの」
軍事の秘匿ということかな。
武器の種類は他国と共有しないのか。武器類は色々と規制があるのかもしれない。
「わかった。行く」
しょうがない。デルコには色々作ってもらってるし、お金が入るなら否はない。
もう商業ギルドに登録しちゃったしね。
「でもその前に」
ティティは、石板を肩掛けカバンから取り出した。
今日はリュックではなく、シルバーシープから受け取った鞄、肩掛けカバンである。
リュックは両手がフリーになるのがいいのだが、物を取り出す機会が多い時には、肩掛けカバンの方が使い勝手がいい。なので遠慮なく使わせてもらう。
いずれ返さなくてはならないが、それまでは使ってもいいだろう。
いや、自分用の肩掛けカバンもあるけど、こっちの方がしっかりしてるんだよね。
今後しっかりしたものを買うかどうかは検討だ。
「なんじゃ?」
「実はさ、また欲しいものが浮かんじゃって」
そう言いつつ、さらさらと書き出した。
「鉄の水筒。私の快適な生活の為に、作って欲しいの」
しくった。予め書いておけばよかった。色々忙しかったからしかたないか。
「なんじゃ、革の水筒じゃだめなのか」
「鉄製なら、そのまま火にかけてお湯を沸かせるでしょ。そしてそれを持ち歩けるし」
「鉄をぶら下げたら熱いだろう」
「その為に、水筒に厚めの布をかぶせるんだよ。それはすぐに着脱可能に工夫が必要だけどね」
「あったかいもんが飲みたいなら、鍋で沸かせばいいだろう」
「旅をしてる中、冬とかにあったかいもの移動の時に飲みたくなるでしょ? そういった時に便利かと思って」
「なるほどな。女子はお茶好きが多いから、女子の冒険者には受けるかもしれんな」
「腰に下げるからこう腰に沿うように丸みを付けたほうが、いいと思うだよね」
「おお! そうだな! 革の水筒だと、当りは気にしなくてよかったが、鉄製だと固いからな!」
「でしょ?」
このアイデアはスヴァに相談した時に提案されたものである。
魔王様はいつでも好きな時にお湯など出せただろうから、水筒など持った事はないだろうに。
1つ相談すると、その先を見据えて提案がある。
やっぱ、頭がいいんだな。それも魔王に選ばれた理由かもしれない。
あんま見えすぎるのも辛そうだ。
私が、刹那の楽しみを十分に教えてやらねばなるまい。
「なに、にやにやしてんだ」
「いや、何でもないよ! それでデルおじ? これできそう?」
「もちろんじゃ。少し待っておれ」
「ええ!? 今から作るの?」
速攻かよ。
「違う。今仕様書を作って、これも登録しちまおう」
「ええ!? これも!?」
「保温筒より売れるじゃろ。お茶好きの女子や横着な男どもにもな」
にんまりとデルコが笑う。
商機を逃さないぜとデルコの顔に書いてあった。
デルおじ、性格変わってない?
毎日読みにきてくださる方々、本当に嬉しいですv
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