第88話 メエメエ衣料品店? ぷっ!
マーサの食料品店を出たティティは、商人の馬車を探す。
商人は一か所ではなく、村にある複数の店に卸しているみたいで、馬車は移動していた。
されど、馬車はすぐに見つかる。店は村のメイン通りに数件あるだけだからだ。きょろりと首を動かすだけで、すぐに馬車は見つかった。
馬車は木工工房の店の前に止まっていた。
馬車の側面に立っている護衛の人にティティは近づいた。
「あの」
「あ?」
うわー。ガラが悪ーい。子供にメンチってどうする。普通なら泣いちゃうよ。私は泣かんがな。
「まだ、出発しませんかね?」
「‥‥‥ここが最後だから、もうっちっとしたら、出んじゃねえ?」
「少し衣料品を見に行くぐらいはできますかね」
「あー、旦那、店に入ったばかりだから、大丈夫じゃね? いつもここは長いからな」
「そうなんですね。ありがとうございます。それじゃ急いで行ってきちゃいます」
ぺこりと頭を下げたが、返事はない。
ガラも悪いし、愛想もないが、必要な情報はくれた。
よしである。
ティティはくるりと踵を返すと、衣料品店に駆け出した。
護衛のおっさんは時間に余裕はあると言っていたが、好意で乗せてもらっているのだ。遅れる訳にはいかない。急いで買い物をしないと。
そして見つけたお店。メエメエ衣料品店。
うーん。ネーミングセンスが行方不明だ。
どうか品物は迷走していませんように。
「すいませーん。子供用の毛が入った下着はありますか?」
「あるよ~」
答えてくれたのは目の細いおじいちゃんである。
「こんにちは! 私、ティティルナって言います! ティティって呼んでください! それで私が着るんですけど、ちょっと大きめのものが欲しいですけど、ありますか?」
「ほうほう。元気な子だねえ。すまないけど、子供のは、サイズはあまりないなあ」
そっか。そうだよな。子供の下着などは母親が布を買って作るからだ。既製品なんてそんなにないだろう。あっただけ、儲けものだ。
「お前さんだと、これかねえ。でもかなり大きくなっちまうなあ」
「大丈夫です。私裁縫できるので、自分で調整します」
「そうかい?」
「はい。寒いのはいやですから、かなり大きくてもあってよかったです。一から作ると大変ですし」
「そう言ってもらえると嬉しいね。それでシャツだけでいいかい?
「いえ、上下一式欲しいです。できれば3セット。いくらになります?」
「んーそうだなあ。3セットで銀貨9枚でいいよ」
安い。やっぱり、ゴルデバより物価が安い。
ラッキーだ。
ニンマリとしたティティの目に飛び込んで来たのは、毛糸の靴下だ。
大変あったかそうである。少し大きめだが、履けない事はない。
「あの、この靴下も2足、いえ3足ください」
思ったよりも下着が安く買えたので、その分で靴下も買ってしまおう。
「ありがとね。3足で大銅貨6枚でいいよ」
「すごく安くないですか!」
「いっぱい買ってくれたからね。おまけだよ」
「おじいさん、ありがとう!」
安いうえに更におまけまでしてもらえた。
今日はなんて良い日だ。
できれば、冬に向けてコートも欲しかったが、子供用のコートはなかった。
子供用のはオーダーメイドとのこと。残念。
「こちらこそありがとね」
細い目をさらに細めたおじいさんが、手を振って送り出してくれた。
「ふふ。いい買い物ができた! 国守さまのおつかいに感謝だね!」
ティティはほくほく顔のまま、木工工房の前に止まっている馬車に向かった。
すると、そこからちょうど商人が出て来たところであった。
どうやら、間に合ったようである。
かなりなハイペースだったが、国守さまのおつかいも無事終了させ、タリオス湖の検証もできて、なおかつお買い物も上場である。
なかなか有意義な一日だった。
達成感と、疲労、そして馬車の適度な揺れのせいで、馬車でスコンと意識を落としてしまったのは、仕方がないことである。
ゴルデバの街に着いた時に、スヴァに頭突きで起こされたのはご愛敬だろう。
冬の備えは大切です。




