表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/496

第87話 地域限定品っ いいね!

 ティティとスヴァは駆け足で牧場から離れ、ある程度のところまで来ると、後ろを振り返った。

 ケツ顎サムエルとその他1人の姿はもう見えない。

「ふう。やりきったな」

 ティティは髪から角を、布の仮面を外し、最後にフードを脱いで鞄に入れる。

「お主、無理やりだな」

 スヴァがあきれたような声を出す。

「いいだろ? 渡せたんだから」

「純朴な牧場主だったから通じたんだぞ。こざかしい奴だったら。どうなっていたか」

「歯抜けのじっちゃん情報では、この辺りには悪い人はいないってことだから、大丈夫だと思ったんだよ」

「それでも、大雑把すぎる。いつか痛い目みるぞ」

「わかったわかった。そうなったら、お前が助けてくれよ。ほら、タリオス湖に行くんだろ? 時間がないんだから、さっさと行こうぜ」

「我がしっかりするしかないか」

 スヴァは一つため息を吐くと、走り出した。

「はは。そうしてくれ」

 難しい事はスヴァ任せだ。

 いつもやられてばっかりはいられないってな。


 それからしばらくして。

 タリオス湖でもコマルナ湖と同じ検証を行ったティティとスヴァは、急いでハナエ村に帰って来た。

 タリオス湖での結果は、他の3つの湖と同じ結果であった。つまりは植物スライムはいた。

「だから、牧草も育ちが悪かったんだろうなあ」

 まったくはた迷惑な植物スライムである。違うか。植物スライム自体は悪くない。かの魔物はただそこに置かれ、生きていただけなのだから。それを悪用した人間?を罰すべきだろう。

「ああ、疲れたあ。旨い牛乳が飲みたい」

 ティティがタリオス湖の周辺を調べたいというスヴァを、旨いものを食べて身体を活性化させたいとの理由でおしきり、さっさと帰って来たのは、村の中にある、食料品店や衣料品店をゆっくり見たいからであった。

 まずは食料品店からだ。メイン通りを歩けば、すぐに見つかった。マーサの食料品店。

 大変わかりやすい店名である。

 ティティは迷わず中に入る。

「こんにちは~」

 中に入って立ち止まると、汗がどっと出た。汗だく、つゆだくである。

「いらっしゃい! おやまあ、すごい汗だね。大丈夫かい?」

「はい。タリオス湖から走って来ただけなので」

「結構距離あるのに。大儀だったね。タリオス湖には、採集かい?」

 ティティの格好からして冒険者と判断したのかもしれない。

「ええ、まあそんなところです。すいません。今何時かわかりますか?」

「ああ、1時半過ぎだね」

「よかったあ。ゴルデバに帰るのに、商人さんの馬車に乗せてもらうんで、遅れてはいけないと、急いでたんです。出発は3時くらいと聞いていたので、まだ余裕がありますね。村のお店も見て回りたかったんですよ」

<お主、かなり急いだからな。>

 スヴァが涼しい顔で呟く。

 くそ! こっちはへとへとなのにむかつく。身体能力の差か。ティティの身体も結構しっかりしてきたと思うが、獣には敵わないか。

<そりゃ急ぐだろ。この村に次いつ来るかわからないんだし、ここでしか手に入らないものがあるかもしれないじゃないか! 欲しいものがあったら多少無理してでも買うぞ!>

<好きにするがいい>

<スヴァも気になったものがあったら、言えよ。買うぞ>

<了解した>

「本当に大丈夫かい?」

 店の店主、多分マーサが時間を聞いた途端、膝に手を付いて息を整えているティティを心配そうに見つめる。

「はい! ええ、問題ないです! あの、早速ですが、チーズと牛乳、バターが欲しいんですけどみせてもらえますか! あ、牛乳ですが、今少しここで飲みたいのですがいいですか?」

「ああ、もちろんだよ。ちょっと待ってな」

 奥に引っ込むと、コップに牛乳を持ってきてくれる。

「ありがとうございます! 二度手間になって申し訳ないのですが、この椀にも牛乳をもらえますか?こいつにもあげたいので」

 鞄から椀を取り出しつつ、スヴァを示す。

「あいよ」

 店主が再度奥へと行く。

「スヴァ悪いな。お先!」

 そう一声かけて、ティティはぐっとコップをあおった。

「うまーい!」

 冷えた牛乳が、駆け足で火照った体をすーっと冷やしていく。

 最高である。

「ほら、お飲み」

 戻って来たマーサはスヴァの前に、椀を置く。

 スヴァも牛乳を飲み始める。ティティと同じくやはり喉が渇いていたのだろう。

 舌の動きが速い。

「スヴァゆっくり飲んでていいからな」

 ティティはその間に、買い物である。

「マーサさんで、いいですか?コップありがとうございました」

「ああ。それで? チーズにバター、それに牛乳だったか。どのくらい欲しいんだね?」

「できれば、沢山欲しいんですけど」

 牧場の近くの店、いわば直営店みたいなものだ。きっと街で買うより美味しいに決まっている。

「チーズはひと固まりが大きいし2種類ある、牛乳は今はこの鉄瓶に5本あるよ。バターも結構在庫はあるがね」

「おいくらですか?」

「そうさね」

 マーサから値段をそれぞれ聞いてから、チーズは丸々1つずつ、バターはひと固まり、牛乳は2本買う事にした。

 やっぱりゴルデバで買うよりも安い。運送料がないからだろう。

 くふふと不気味に笑いながら、マーサが用意している間に店内を見てまわる。

「お待たせしたね。こんなに買って大丈夫かい? 冷やしておかないとすぐにダメになっちまうものばかりだけど」

 マーサさんが心配そうにする。

「ええ。その辺はちゃんと考えてますので」

「そうかい。ならいいけど。丹精込めて作ったものだからね。腐らせちまわないでおくれよ」

「はい。まかせてください」

 私には無敵の亜空間がある。

「全部美味しくいただきますから」

 ティティは胸を張って答えた。

「ふふ。面白い子だね」

「ははは。あ、マーサさん、後、あそこにあるくだものもお願いします」

「ああ、チコの実かい」

 教えられたその実は、ぷるんとした黄色みがつよい果実だ。

 それは、ゴルデバの市場では見かけたことのない果物だった。

「美味しいんだけどね、痛みやすくてね。馬車で運ぶとすぐにダメになっちまうんだよ。だからこの村でだけ食べられてるんだ」

 やたっ。地域限定品である。

「おお、これぞこの地ならではのものですね!」

「そうだね。日持ちもしないものだからね。1個大銅貨1枚でいいよ」

「安い! まず一コ食べてみていいですか?」

「ああ、いいよ。甘くておいしいよ。育てるのも意外と簡単な実だからね。これで運搬がしやすければいうことないんだけどねえ」

 マーサが残念そうにため息をつく。 

「本当だ! 甘い! 柔い!美味しい! 全部ください!」

「えっ! いいのかい? 明日明後日には痛み始めるよ」

「大丈夫です。恥ずかしいんですが、私、すごく沢山ご飯食べるんです」

 恥ずかしそうにそう告げると、マーサは破顔した。

「いいんじゃないかい? 子供は大飯食らいでいいんだよ!」

 マーサは笑いながらティティが出した箱に買ったものを入れてくれた。それをリュックにいれ、果物は、シルバーシープからもらった袋に入れる。箱に入りきらなかったものは両手で持つ。後で、亜空間にインすればよい。今一時体裁を保てばいいのである。

<スヴァ、何か他に欲しいものはあるか?>

 スヴァの椀もリュックに入れながら、尋ねる。

<いや>

 よしでは次に行こう。

「たくさん買ってくれてありがとうね」

 マーサがにっこり笑って送りだしてくれる。

「こちらこそ、欲しいものたくさん買えてよかったです!」

 ティティはスヴァを連れて店を後にした。

 大変満足、大満足である。

地域限定品って心惹かれますよねv

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ