第85話 ハナエ村に到着っ
午前中のかなり早い時間だからか。それとも見通しの良い道だからか。盗賊の気配の毛の字もなく、問題なく村へと着いた。タリオス湖に近い村の名前はハナエ村と言う。謂れはこの村の初代村長さんの奥さんの名前だそうだ。何それ愛妻家か?と突っ込みたくなる。
「お兄さん、帰りはいつ頃出発するの?」
馬車が止まると、するっと荷台から降りて、たたっと御者台へと近づき、商人に尋ねる。
「そうだな。3時すぎには出発するか」
商人が時計を見ながら話す。
「今は何時ですか?」
「9時少し前だな。この村では6時から3時間ごとに鐘がなる。ああ、ほら9時を知らせる鐘だ」
それは大きな鐘がなる重い音ではなく、小さい鐘を金づちで叩いているような甲高い鐘の音だ。
誰からが時間ごとに叩いているのかもしれない。
「わかりました。この金が後2回鳴ったら、出発ですね。遅れないようにします」
「遅れたら、置いて行くぞ」
「気を付けます!」
「あの、荷物下ろすの手伝います」
「いい」
「でも、そういう約束で乗せてもらったから」
「チビにうろうろされた方が邪魔だ」
商人は手を追い払うように動かした。
なんだよ。優しいじゃねえか。兄さん、最初からそのつもりだったのか?
「ありがとうございます! お言葉に甘えます」
時間があまりないので、そう言ってもらえるなら、甘えよう。
「スヴァ、行こう!」
ティティは商人の馬車から離れた。
<手伝わなくていいのか?>
スヴァがティティの横を歩きながら、心話で尋ねる。
<うん。商人さんが折角言ってくれてるからさ。チビだと大した戦力にならないだろうしね>
狭い村の中。念の為、ティティも返事は心話でする。
<まあ、そうだな。そうだ。気になっていたのだが>
<うん?>
<街で店に入る時、必ず自己紹介していたのに、商人相手には名のらなかったな。なぜだ?>
<うーん。勘? 今回は名乗らないほうがよさそうな気がして。ちょっとくせのある人みたいだし>
<そうか。そうかもしれぬ。商人とはもっと愛想がいいものと思ったが、にこりとも笑わぬからな>
<うん。必要ならきっと愛想よくするタイプかもね。必要なければしない。そこは商人ぽいかもね>
<なるほどな>
<それより、時間がないから、急がないと>
ティティは村人と思われるおじいさんに小走りに近寄った。
「すいません。ここら辺に牧場があるって聞いたんですけど、どこですか?」
商人さんは意外と子供にやさしかった(笑)




