第82話 なぜにいるっ?!
コマルナ湖から大人の足でおよそ2時間ほど南側に位置するギルナの森。
ここには、魔物が数多く出現して、冒険者の狩場になっているが、今は植物スライムの影響からか、森の入り口付近にはあまり魔物が出てこないらしい。餌がないからだろう。
奥に行くには、ある程度の熟練の腕がいる為、低レベルの冒険者は北のカシワラの森に行く。
森に沿うように走る街道は海へと抜ける。森の奥へは高位ランクの冒険者が依頼で入る事があるらしいが、数少ないので、鉢合わせすることもないだろう。
誰に気兼ねすることなく、奥へと入って行ける。
底辺のFランクの自分が森に入って大丈夫かって。
そこはほら、スヴァがいるから大丈夫だろ。
「早く行こうぜ。時間がないからな」
太陽の位置からして後2時間ぐらいは森にいられるか。
「わかった。わかった。何も見つけられなくても文句は言うなよ」
今は人がいないので、スヴァも普通に話す。
うん。心話よりやっぱいい。スヴァの声もカッコいいしな。
「わかってる、わかってるって」
初めてじゃないけど、久しぶりに来るギルナの森はやっぱ、ワクワクするよな。
そりゃ、何か採れればいいけど、何も採れなくても行くこと自体が楽しい。
と、そう思っていた時期もありました。
「なぜに、シルバーシープがここにいるの!!」
森に入って、体感で30分ほど経ったかなって時に、ちょっと違和感があった。
何かをすっと通り抜けたような感触。
首を傾げつつ、進んだ先に、大きな草原がぽっかりとあった。
まるで、木が避けてできたような。不自然な空間だ。
そして、その真ん中にシルバーシープがいたのだ。
「あれ? また国守さまの、お使いかな」
このシルバーシープはゴールドシープと対なる存在である。
と、シルバーシープが地面に置かれた、袋を押し出している。
大きさはティティが両手で抱えられる大きさである。
「なに? くれるの?」
シルバーシープは更に袋を鼻先で押す。
「わからぬが、拾ってみよ」
スヴァとゆっくりシルバーシープに近づいていく。
「わあ!」
すると、ずいっと頭を突き出して来た。
慌てて飛びのくと、またもずいと頭を突き出す。
「頭を触れと言っているのではないか」
「なるほど」
スヴァの進言により、恐る恐るシルバーシープの頭に手をのせる。
すると、頭に言葉が浮かぶ。
「ああ、なるほど」
「なんだ」
「国守さまからのお願いだよ。この中に入っている牧草をタリオス湖近くにある牧場に届けて欲しいみたいだ。なんでも、家畜が餌がなくて死にそうだからと」
おそらく、ティティがいなれば、国守さまも見守るだけであっただろう。
ティティがそばにいるなら、きっとうまく届けてくれると思ったらしい。
「了解。了解。これ収納袋でかなりの牧草が入ってるらしい」
「行くのか? あんなに面倒くさがってたのに」
「もちろん! 国守さまのお願いを無視なんてできないっしょ」
ティティはシルバーシープの頭を撫でた。
「確かに承ったって、伝えてくれ」
シルバーシープがひと鳴きする。
「おまえもご苦労様、あ、そうだ」
ティティは亜空間からネクタールを一つ取り出した。
「これ、どうだ。かなりうまいらしいぞ」
シルバーシープはくんと匂いを嗅ぐと、ばくりとひとのみした。
もしゅりもしゅりとうまそうに食べる。
「気に入ったか。ならもう一つ。あ、どうせなら国守さまとゴールドシープの分も持って行ってくれよ」
そうして、亜空間から、大きな布を取り出して、ネクタールを包むと、それをシルバーシープの首にまく。
「さ、これでいい。お前も食べ終わったなら、帰りな」
そう告げると、シルバーシープは大きくまたひとなきすると、草原を跳ね回る。
「む」
「な、なんだ?」
スヴァとティティはちょっとビビッて後ろに下がった。
シルバーシープは構わず、軽やかに跳ねる。
シルバーシープが跳ね回った後には、銀色の光の筋。
そしてその光に当てられた草原には珍しい薬草や木の実がたわわに実った。
「わああ!!」
それは楽園ともいうべき光景。
まさに金になる場所になった。
そしてシルバーシープはまたもひと鳴きして、頭をぶるりと振った。
すると、角がゴトンと、2つ、落ちた。
シルバーシープはアンニュイな瞳でこちらを見て、角を押すと、すっと消えた。
「え、ええ!?」
「角をくれるということだろう。呆けてないで、早く拾うが良い。それと急いで採集だ。シルバーシープの祝福が消えないうちに刈らないと、薬草や珍しい木の実が無くなってしまうのだろう?」
「そうだった! 急いで収集だ! スヴァ! 木の実を頼むぞ」
おそらく祝福の継続時間は、1時間くらいなものだろう。出来るだけ収穫するのだ。
ティティは慌ててナイフを取り出すと、手早く薬草を採集し出した。
時間との勝負だ!
神出鬼没なひつじさまです(笑)




