第81話 なあなあ、いいだろ? 行こうぜ、行こうぜ!
「さてと、今日は、冒険者ギルドに寄らずに、まっすぐにコマルナ湖に行くぞ」
ティティは手をぱんぱんと叩くと、これからの予定を話しながら、歩き出した。
「積極的だな」
それに遅れずにスヴァはついてくる。
短い脚をちょこちょこ動かして、すごい可愛い。
言ったら、肉球パンチがきそうだ。
黙っておこう。
「コマルナ湖の調査は、今日絶対しなきゃいけないことだけど、それだけだと、つまらないじゃん。何も収穫なくてさ」
「仕方ないだろう」
「仕方なくない! コマルナ湖の調査が終わったらさ、ちょっと足を伸ばしてギルナの森に行こうぜ」
「ギルナの森?」
「ゴルデバの街の南側にある森だよ。その森を抜けていくと海の方へ抜けられる」
「南の森か。そちらに行くのは少し遠くないか」
「少し急げば大丈夫だよ! ご飯もいっぱい買ったし、潜るのも慣れて来たし。なあ、いいだろ? そんな楽しみがないと張り合いないって」
「だが、南の森は魔物が多くて危険だとお主言っていなかったか?」
ちっ。余計な事を覚えてるな。
「そこはさ、お前がいれば、ある程度は大丈夫かなって」
元魔王さま、力がそがれても存在感はありありのため、魔物よけになってくれるのである。
半面、狩りをする時は、気配を消さないと、獲物自体みつからない。
「ほら、ギルナ森に行ったら、昨日依頼を受けた薬草もあるかもしんないし。なあなあ、行こうぜ。武器も揃ってるし。なあなあ、いいだろ?」
気分は年上にせがむ子供のようだ。実際ティティは今7歳だ。気にしちゃいけない。
「よかろう。だが、時間がないと判断した時は、中止にするぞ」
「やった! 冒険だ!」
正に冒険者としてふさわしい。
「そういう事なら急ぐぞ」
「あ、待ってくれよ」
今度はスヴァの方が先行して駆け出した。
なんか、立場が微妙に逆転したような気がする。
んー。ま、いいか。
「うう。さぶさぶっ!」
コマルナ湖岸。
ティティは湖面から顔を出し、重い体を何とか、岸へと引き上げる。
2つの湖に引き続き、ここにも植物スライムはやはりいた。
まるまるのぽよんぽよんの巨大化した奴が。
魔力をぶつけても、同じ反応。身体の一部を切り取っても、特に抵抗はないことが確認された。 そこまで、やったところで、やっとスヴァから上がれの許可が下りたのである。
「あばばば。クラクラするぞう。すぐに服着ないと風邪ひきそうだよ~」
慣れない身体で、水泳をし、魔力も使った。
水泳は歩く、走るのとは違い、かなり消耗する。体力がないティティの身体ではまだまだきつい。昨日のスヴァの話から、早くエネルギー補給しないと、ブラックアウトしてしまう。
かじかむ指先を叱咤しつつ、タオルで身体を拭いて服を着る。
「うー! まずはスープだ!」
濡れた髪をタオルで巻いたまま、片手を焚火に当てつつ、亜空間から保温ポットを取り出す。
スープをやけどをしないようにふうふうしつつ、ごくりごくりと飲んでいく。
「うーい! さいっこうだな!」
「酒飲みのおやじか」
スヴァが、らしからぬつっこみを入れる。
「かまってられるか! とにかくあったまんねえと」
次に肉のサンドが入った容器を取り出し、口へと運ぶ。
うまい。うまいぞー。亜空間に入れてあるから熱々のままだ。
肉サンドを3つ食べたところで、一息ついた。
それから、スヴァにも2切れ皿においてやる。
「すまんな。先に食っちゃって」
「かまわない。早急にエネルギー補給が必要だからな」
スヴァもそう言いつつ、ばぐりと食べ始める。
「まあ、あれだよな。沢山食べられるっていいよな」
今度は熱いお茶を入れつつ、呟く。
「でもなあ。ちまちま買うのも時間もったいないし、ばんと一度に買いたいよな」
「やめておけ。今の量でも、どうかと思うのに、これ以上の量を買ったら、絶対怪しまれるぞ」
「やっぱ、そっかあ。収納持ちだと思われたら、危険だもんな。エンジョイライフが苦しみライフになっちゃうよな」
「そういうことだ」
「あーあ。早く強くなんないと」
それには、トレーニングが必要だ。
魔法のトレーニングと身体のトレーニング。
どちらにしてもエネルギー必須。
無理は禁物ってか。
「ま、いっか。なんとかなるだろ」
スヴァにも少し冷めたお茶を入れてやると、立ち上がった。
「よし。充電完了だ! これからはお楽しみの時間だ!」
疲れ?そんなものは楽しみの前には吹き飛ばす。
無理はしないって、無理してないモーンだ。
スヴァに甘えるティティです。




