第80話 肉サンドは最高! デザートは大事にね
「よっし! スヴァ! 準備はいいか?」
翌朝。ティティはベッドから飛び出すと、パパっと着替えをすまし、さっとリュックを担いだ。
「なんだ? 今日はいつにもまして張り切ってるな?」
よくぞ言ってくれました。ティティは胸を張って答える。
「昨日の夜、お前と話して、やっぱ、改めて楽しまなきゃなって思った訳だよ」
「それと、早朝張り切るのと関係があるのか?」
「あるだろ! 大ありだ! 気合だよ気合! さっさと出発するぞ! 市場で朝飯と昼飯を買いながら、話す。時間がもったいないからな!」
「しょっちゅう横道にそれるお主からでた言葉とは思えぬが、出かけるのに否はない」
むう。なんかごちゃごちゃ言ってるが気にしないぞ。些細な事だ。今日は予定が詰まってるのだから。とっとと出かけなければならんのだ。
いざ、朝市へGO!
そしてやって来たのは、下町広場である。
「おお! なんか、いいよな! 朝市って!活気があって!」
もうすっかり馴染んだティティは迷わず、屋台を覗き歩く。
「今日は、どうしようかな。そうだ、パンに肉と野菜を挟んだものにしよう! それとスープは絶対買わないと!」
保温筒もある。大型の容器は昨日ステラの店から購入した。備えは万全である。
ティティは次々と旨そうなものを購入していった。
「ふう。メインの食べ物はこんなもんでいいか。あ、そうだ。果物も欲しいな」
新鮮な果物は少しお高めだ。野菜よりも高い。嗜好品の部類と同じくらい高い。けれど今は季節は秋。庶民にも手に入る値段である。
「冬には果物はあんまり取れないから、ジャムが欲しいけど、高いからなあ」
ジャムというと更に高い。果物もそうだが、砂糖も高いからだ。蜂蜜を自分で採ってきて作れば少し安くなるだろうが、普通の蜂も、魔物系の蜂もどちらも危険である。
悩みながら、市場を歩いているうちに、果物を売ってる露店まで来た。
ティティは前に果物を購入したところで立ち止まった。
「ハリルお姉さん、おはようございます。今日は、どれがおすすめですか?」
「おや、ティティじゃないか、また買いに来てくれたのかい?」
「はい。お姉さんのところのは、新鮮だし、はずれがないですから。それにハリル姉さんの顔も見たかったし」
「おや、ありがと」
これくらいのリップサービスはティティの中では常識である。
女性は皆可愛いのである。
「そうさね、今朝は隣の国の商人が持って来たものがあるよ、このネクタールだね」
それは、黄色い柔らかそうな果実。傷つきやすいのか。綿で包まれている。
「うわああ。美味しいそう!」
「ああ、極上の甘さだよ」
「いくら?」
「1こ銀貨2枚」
「銀貨2枚?!」
大人1日分の食事代だ。
「ははは。本来は、こんな市場に並ぶようなものじゃないんだよ。貴族街にある、果物屋に並ぶようなもんさ。たまたま、知り合いからちょっと分けてもらったんだよ。これでも、まだ安いほうさ。貴族街の果物店では、銀貨4枚以上で売られるだろうからね」
「じゃ、これはすごいお買い得ってことだね」
「そうさ。ほとんど、原価みたいなもんさ。私も自宅で食べる分は確保してあるよ。それくらい珍しいもんだからね」
「そっか。そうなのか。じゃ、ここにあるの全部貰ってもいい?」
「そりゃ、構わないさ。これだけ高いと売れるかわからないからね」
「やったあ!」
極上の果物ゲッドだ。
「でも大丈夫かい? 8個あるから全部で大銀貨1枚と銀貨6枚になるよ」
「大丈夫! 昨日、依頼料が入ったばかりだから!」
「そうかい! なら、箱に入れてあげるよ! 箱はおまけだ!」
「本当? ありがとう! じゃあこれお代ね!」
「毎度ありがとう! そっと持って帰りなよ!」
「うん!」
そう返事をして、少し離れた路地に入ると、ネクタールの箱をリュックに入れる。
もう少し果物を補充したかったが、これ以上買うと目立ちそうだから、また次回にする。
「うーん。ものを入れるのにいちいちリュック下ろすのめんどいな。口が大きい肩掛けカバンの方がいいかな」
何か不測の事態にあった時に動きやすいと思ってリュックを買ったが、買い物をする時には、少し不便だ。
そういえば、昨日ステラの店で肩掛けカバンを買ったんだっけ。けど、あれは、少し頼りない感じがするんだよな。サブバックに使うにはいいけど。
路地に入ったついでに朝食も済ませてしまおう。
「スヴァ。朝ご飯、さっき買った肉のサンドでいいか?」
「うむ」
肉に絡まったタレがパンに染みてうまそうである。
「んめ」
さっと口に肉サンドを突っ込んだまま、スヴァにも皿にのせて、地面に置いてやる。
「こら、行儀が悪いぞ」
すかさずスヴァから注意が飛ぶ。
「んぐ。だって、空きすぎた腹にこのタレの匂いにやられてしまったんだよ」
そう弁解しつつも、合間にサンドを食べて行く。
すべて食べ終わると、水筒から水を飲んだ。
スヴァの椀にも水を注ぎ、皿の横に置いてやる。
はあ。やっとお腹が落ち着いた。
スヴァも食べ終わりそうだ。
「ネクタールは急いで食べるのはもったいないから、昼に食べようぜ」
仕事の後に、甘いもの。最高だな。
「ああ、旨そうだった。高い気がたくさん入ってそうだ」
「高い気? それってなんだ?」
「うむ。そのものの生態エネルギーだ。気力を高めてくれるだろう」
「おお! 美味しいだけじゃなくて、そんな効果もあるのか! すげえな!」
「肉サンドをもう一つくれ」
スヴァが肉サンドを要求する。
よしよし。それでいいのだ。
俺たちは相棒だ。
遠慮はなしである。
「ほらよ。んん、私ももう一つ食べておくかな」
自分用にも一つ取り出して頬張る。
朝から肉食最高だな。
ネクタールは桃っぽい果物。




