第77話 あついものはあついうちに
短めです
「ひょおお~。タリ湖の水は今日も冷たかったあ~」
宿に戻って来るや否や、風呂に直行したティティである。
身体を洗い、湯船に入ったところでつい、変な悲鳴が口から洩れた。
長袖でちょうどいい気候の中、潜水はやはりきつい。
「ふいい~。気持ちいい~」
湯船に浸かって芯まであったまる。
もうここから出て行きたくない。
「スヴァも入ればいいのに」
本日スヴァは風呂はパスである。
今日は気分がのらないらしい。
まあ、本来魔物は風呂には入らない。そんな日もあるだろう。
しっかりと身体が温まってくると、今度はお腹が空いているのに気づいた。
「そろそろ出るかあ」
もうもうと立ちこめる湯気の中、ティティはやっと上がった。
いつまでも浸かっていたかったが、お腹がそれを許してくれない。
髪をタオルでよく拭いてから、浴室を出る。
「魔力動かすと、すごいお腹がすくんだよなあ」
亜空間から、夕飯を取り出しながら、ティティはぼやく。
それでなくても、腹が減るのが早いのに、それが更に加速する。地味に辛い。
今日の夕飯は、卵雑炊である。野菜もたっぷり入っている。
どんぶりにたっぷりと入れてもらった。
亜空間にすぐに入れたから、熱々の状態だ。これで内からも温まる。
「ほらよ、スヴァも食え。熱いから気をつけろよ」
スヴァ用の深皿を床においてやる。
「うむ。旨そうだ。すぐにでも食べたいが、その前に話がある」
スヴァが改まって様子で、切り出した。
風呂から出て来た時に、なんか考え込んでるなと思ってたが。
「なんだよ。急ぎか? ご飯の後じゃダメか? 熱いものは熱いうち食べようぜ。それに今聞いても、腹が空きすぎて、頭が回らないよ」
難しい話は後だ後。
まずは卵雑炊である。
ティティも椅子に座った。
「わかった。では、食事がすんでからだにしよう」
スヴァも美味しそうな卵雑炊の匂いにやられたのか、素直に頷いた。
「おうよ!」
スヴァの言葉に、ティティはスプーンを手に取る。
「うわあ。うまそうだ」
雑炊を買ったのは、初めてだ。卵がふわっとしていて、米はきらりと光っている。
卵は高いから、ちょっと手を出さなかったというのもある。
さて味はどうか?
スプーンでひとさじ。
「うんめえ!」
塩と素材だけの味。とてもシンプルだが、身体の底に染みわたるうまさだ。
食道を優しい味が伝い下りて行くのが、わかる。
「スヴァどうだ?」
「ああ、薄味で、いいな」
「な! そうだよな! あ、スヴァもしかして、濃い味だめか?」
そうか。基本、獣は生肉だ。味がない方がいいのか?
「いや、我は何でも大丈夫だ。苦手なものもないし、食べてダメなものもない」
「そっか! よかったぜ! じゃあ、これからも、2人でうまいもん食えるな」
そう言いながら、ティティはフーフーしながら食べる。
野菜がとろりとして柔らかい。
「ふああ」
顔が弛緩する。そして芯からあったまる。
ティティはあっという間に平らげてしまった。絶品な一品であった。
絶対また買おう!
雑炊好きデス。




