第76話 なまけ心がうずうず
「なあ、スヴァこれからどうする?」
ステラの雑貨店を出ると、荷物を亜空間に入れるべく、細い路地に入る。
そしてあたりを見回して、誰もいないのを確認すると、肩掛けカバンごとリュックの中へ。
はい、これですっきりだ。
「どうするとはどういうことだ? コマルナ湖に行くのだろう」
「コマルナ湖に行くには、少しきつい時間じゃん」
そう、コマルナ湖に行くなら、周りを見て回りたい。薬草は期待できなくても、湖周辺の散策は楽しいからだ。今からだと用事を済ませたら、とっとと帰って来ないと、夜になってしまう。野宿はなんの準備もしていないので、無理だ。危険すぎる。
「なあ、今日は休みにしないか。ほら、私連日頑張ってるから」
<ぬう、植物スライムは、早めに検証したい。領主からのふれもあったのだ>
「それは、そうだけど。無理して危険な目にあっても損だろ?」
そうだ、たまにはゆっくりするのもいい。部屋でゆっくり、裁縫してもいいな。刺繍に挑戦するか?この小さい手でどれだけできるか? そうだそうしよう。すっかりその気になったティティの頭にスヴァの不穏な提案が落とされた。
<‥タリ湖なら、今から夕方までに行って帰って来れるのではないか?>
「な! なんて事いうんだよ! タリ湖は検証しなくていいって言ったじゃないか!」
冗談じゃないぞ。私はこのまま宿に帰りたいんだ。
<確かに言ったが、こうして中途半端な時間があるなら、行ってしかるべきだろう>
「なんだよ、その理由!」
ひでえよ! 休暇が超過勤務に早変わりかよ!
「やだよ! やだやだ! 今日は休みだ!」
<昨日も早めに帰っただろう?>
「違う! 冒険者ギルドに行ったから、結局同じくらいの時間だった!」
<ちっ!細かいな>
「細かくなんかない!」
<子供のようにダダをこねるな>
「俺は、子供だよ!」
<中身は成人してるだろう>
「それは関係ない」
<後から考えれば、行ってよかったと思う筈だ>
「今はそうは思えないから、やだ」
ティティは口を尖らせる。
スヴァはそんなティティを見上げて、ため息をつくと、妥協案を口にした。
<わかった。これからタリ湖に行くなら、タリオス湖に行かなくていい>
ティティは顔を輝かせた。
「本当か!?」
<ああ、タリオス湖は馬車で行かなくてはならないし、効率は悪い。3か所調べれば、十分としていたのだから、近場のタリ湖でよしとする>
「本当に、本当だな?」
<ああ、それならば、これからタリ湖に行くな?>
「うん! いいぜ! おむすびも沢山買ったし、夕飯はまた帰って来たら買えばいいや」
<ならば、急ぐぞ>
「そうだな!さっさと行って、ささっと終わらせよう」
スヴァの後について、ティティも走りだした。
結局、湖に2つ潜るのは変わらない事に、ティティは気づいていなかった。
スヴァの言葉マジックにひっかかった、ティティである。
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