第73話 肉球マークっ
デルコとマルコの後に続き、スヴァとともに、2番扉をくぐった。
今後ないとは思うが、1人でも対応できるようによく2人の事を見ておこう。
どうせ来たのだ。しっかりとどんな風に進むのか見ておいて損はない。
部屋は6人掛けの長テーブルとそれに合わせた椅子6脚だけが置かれたこじんまりした部屋していた。商談用の部屋であると、目的がはっきりとわかる部屋だ。
テーブルの左側にティティを真ん中に3人が座る。足元にスヴァがちょこりと座る。
さっきの登録の時と違って、自分はおみそなのだから、入り口側の一番端っこでいいのにと、少し不満になるが我慢する。
まあ、真ん中にいたって、こんなチビを中心に話はしないだろう。
そんなことを考えていると、1人の背の高い青年が入ってきた。
「お待たせ致しました」
年のころは30歳前後、黒髪をオールバックにしたこれまたできる人な雰囲気をかもしだしている。
第一印象で、馬鹿丸出しの人など、商業ギルドの職員にいる筈ないか。
なんか、おかしくなって、ぷすっと笑ってしまう。
「なにかございましたか?」
いきなり笑い出したティティを不思議に思ったのか、商業ギルドのあんちゃんが首を傾げている。
「いえ、なんでもありません」
おお、とがめたりしないところが、グッドだね。
神経質なタイプではなさそうである。
「そうですか」
そのまま、すんなり、商業ギルドのあんちゃんは、向かい側の席の真ん中に座った。
「本日、担当させていただく、ベルナルディと申します」
「なんじゃ、気取りおって。ベルでいいじゃろうが」
「もう、デルコさん、初めての方もいらっしゃるのですから、格好つけさせてくださいよ」
「ふん」
どうやら、デルとベルナルディは旧知の仲のようである。
店を構えていれば、馴染みになるのは普通かもしれない。
ならば、マルもそうなのかもしれない。
ちらりと右側に座るマルをみれば、うんうんと頷いている。
ベルナルディこと、ベルさんは仕切り直しというようにこほんと咳ばらいをする。
「では早速始めましょう。商品登録をご希望だとか」
「うむ。これじゃ」
そう言って、デルは、肩掛けカバンから、4つ商品を取り出した。
あれ、4つ? 1つ増えてる。
「そしてこれが仕様書じゃ」
「拝見します」
商品と、仕様書をみる。
その間、デルコにこそっと尋ねる。
「ねえ、なんで、保温筒が2つあるの?」
「前に話したじゃろうが。保温筒の内側に小さなくず魔石を仕込んで、保温効果の持続時間を長くすると」
「言ったけど! もうできたの?」
「構造としては単純だからな」
そうしているうちに、ベルはすべての書類を見終わったようだ。
「後で、確認してからになりますが、同じ商品がなければ、問題なく登録できるかと思います」
「そうか」
「しかし、この保温筒はともかく、バンブールの水筒と皿は、作りが単純ですから、すぐに類似品が出回ると思いますよ。登録する意味がありますか?」
「真似っこしたものを取り締まることはできないの?」
無理だろうなと思いつつ、尋ねる。
「難しいですね。こざかしい輩は少し仕様を変えて、ここが違うだから、別のものだと主張してきますからね。まともな人は、類似品自体作らないです。扱いたければ、デルコさんに交渉します」
「そんなくずどもが作る粗悪品なんて、ほっておけばいいんじゃよ」
「そうなんですけど、バンブールの皿は真似されやすいですよ」
「そもそも屋台で使う蒸し皿で、特殊な使い方するし、儲けはそれほど出んよ。それを真似してどれほど儲けがでるか。わしはそこらへんはうまくやるがの」
にやりとデルコが笑う。
「それに、元祖とわかるように、印もつける」
「ああ、これですか」
えっ? なにそれ知らない。
「どれですか?」
ティティも首を伸ばして、バンブールの皿を見る。
するとそこには、肉球マークが。
「か、かっわいい~~♡」
「だろう」
マルコがしたり顔で頷いている。
「わしが他と区別するのに、何かマークをつけたいと言ったら、マルが考えてくれたんじゃ」
「焼き印にするから、あまり手の込んだものは難しい。どうしようかと思ったところ、嬢ちゃんが、小さい獣を連れてるというのを聞いてな。ひらめいたんじゃ」
「すごい、いい!! ぜったい! 売れるよ!」
なにこれ! 俺も絶対欲しい!
「ティが考え出したものには、以後このマークを付けることにしようと思う」
「本当? 賛成、賛成! ああ、じゃあ、私の試作品の保温筒にもつけてほしい!!」
「後でつけてやる」
「やたっ!!」
「ちょっと待ってください。すると、これら、4つの原案を作ったのは、この少女ということですか?」
「そうじゃ、わしらは言われた通りのものを作っただけじゃ。それが売れそうじゃから、こうして登録に来ただけじゃ」
「えっ!」
ちょっ! まて! ティティは慌てて、机にある、保温筒2つと、バンブールの水筒と、皿を確認する。
全部に肉球マークがついている。
「ちょっ! デルおじ! どういうこと?!」
「ベル。これらの商品の利益分配は、アイデアを出したティティが5割、俺とマルが
2.5割ずつで契約書を書いてくれ」
「デルおじ話が違うよ! 私は、端っこに名前をのせてもらうだけだって言ったじゃないか!」
「ティは店を持ってないからな。代表者はわしで構わん。ティは目立ちたくないってことだからな」
「むう」
それならいいか? いいのか? 書類だけなら、目立たないのか。
「デルおじ、5割はもらいすぎじゃない? 私は自分の欲しいものをデルおじたちに作ってもらっただけだよ?」
「なに、保温筒は売れるともかぎらんし、バンブールの皿や水筒は薄利多売の製品だからな。気に病むことはないぞ」
「私、2割ぐらいでかまわないのに」
2割でももらいすぎだ。
「ごちゃごちゃいうと、7割にするぞ!」
「ええっ! 何その脅し文句!?」
「もう、決めたことじゃ、マルコも了承してる」
マルコに目をやると頷いている。
<2人の好意だ。素直に頷いておけ>
スヴァからも後押しがあった。
「わかった。デルおじ、マルさん、ありがとうございます」
ティティは深々と頭を下げた。
「話はまとまったようですね、ではそれで書類を作りましょう」
ベルはにこりと笑って、書類をトントンと揃えた。
「それにしても、こんな小さな女の子が商品のアイデアを4つも出すなんてすごいですね」
「それだけじゃないぞ。実はまだ作成中じゃが、変わった武器の発案もある。それも近いうち持ってくる」
実は水筒のアイデアもまだある。
「それは楽しみですね」
ベルが好奇の目をむけてくる。
なんだか、居心地が悪い。
「ベル、大丈夫だとは思うが、ティはまだ小さい、目立つと色々と起こりやすい。ティのことはあまり職員の中でも触れ回らないでくれ」
「かしこまりました」
ぴしりと背筋を伸ばして、ベルは頷いてくれた。
デルおじナイス! これで、目立つことはないだろう。
「明日、正式に認可が通ったか、ドリムル武器屋にお知らせします」
同じ商品が登録されていないか、精査した上での、登録になるらしい。
何でも他国を含めて調べられるらしい。それも一日で。商業ギルドのシステムすげえ。
最後にベルと握手して、終わりになった。
まだ7歳のガキだったのに、なんか一人前になったようで、ちょっと照れ臭かった。
部屋から出たところで、ティティの腹がぐうっとなった。
デルコとマルコ、それにベルナルディまで、噴き出した。
「むう」
緊張でお腹すいたんだよ。
「ティ、昼には早いが、知り合いがバンブールの皿を使った蒸し飯の試作を色々作ってる筈じゃ。それを食べにいくか?」
「行く!」
もちろんだ! ついでに初売り日を聞いて、がっつり買う!
「それじゃ、行くか」
「私もご一緒したいところですが、仕事があるので、売り出されたら、是非に買います!」
「おう! 味は期待していいぞ!」
それににこりと頷き、ベルさんは、一礼してカウンターの中へと入っていった。
「よし! それじゃ、早飯だ!」
「おう!」
ティティは高々と拳を振り上げた。
<コマルナ湖へはいついくのだ?>
スヴァのぼやきなんてきこえなーい。
今日は3話更新できました。
皆さま、いつもお越しいただき、ありがとうございますvv




