第72話 いよいよ商業ギルドっ
長めです
商業ギルド。冒険者ギルドとは違い、貴族が住む区域に近い場所にそれはあった。
茶色のレンガ造りの3階建ての建物である。
冒険者ギルドよりも、品がよく見えるのは気のせいだろうか。
中に入ると、正面に受付のカウンターがあった。右側には、3人から4人掛けのテーブルがいくつか並んでいる。どうやらフリースペースで。奥にカウンターがあり、1人の男性がカップを熱心に磨いていた。どうやらお茶を注文できるようだ。
左側には扉がいくつか並んでいる。
ジオル時代、商業ギルドにはとんと縁がなかったので、入ったのは初めてだ。
冒険者ギルドとは違って、がやついていない。
ギルドによって、雰囲気が全く違う。
「ほれ。まずはお前の商業ギルドへの登録を先にすましちまおう」
デルとマルがまっすぐに受付に進む。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」
20代の茶色の髪のお姉さんだ。少しきゅっと目尻が上がっていて仕事ができそうである。
「まずは、この子のギルドへの登録をお願いできんか?」
マルは一歩下がって、デルの横にティティを立たせた。
「かしこまりました。どうぞお座りください」
ティティを真ん中にして、デルとマルも座る。スヴァはティティの足元にお座りしている。
うん。ここも冒険者ギルドと違うな。冒険者ギルドは椅子ないもんな。
まあ、冒険者ギルドは上品に座って話する雰囲気でもないしなあ。
それから受付のお姉さんは、ティティに向かって話しかけた。
「初めまして、私はマルティナと申します。以後よろしくお願い致します。まずはお名前を教えてください」
「ティティルナです」
おお、子供に対しても、丁寧だ。
「ティティルナ様ですね」
「あ、でもティティって呼んでください」
「かしこまりました。お年はいくつですか?」
「7歳です。登録に問題ないですか?」
「大丈夫ですよ。ただ、登録料がかかります。銀貨8枚です。お支払い可能ですか?」
「はい」
素材を売ったばかりだ、お金はたっぷりある。
お財布巾着から、いそいそと銀貨8枚を取り出す。
この巾着も模様も何もないからなあ。そのうち時間ができたら、色々工夫したい。
ジオル時代には、色々作って、店に直接売りに行ってたな。
あ、もしかして商業ギルドに登録してたら、もっと儲かったのか?
当時は考えもつかなかったぜ。知ってたら、ちびたちに沢山うまいものくわせてやれたのかもしれない。くやまれる。
「では、登録にあたり、説明をしますね。商業ギルドに登録していただいた方には、ギルドカードをお渡しします。なくさないようにしてください。なくした場合は有料での再発行になり、金貨1枚かかります」
「金貨1枚! 高いですね!」
「ええ。それだけ、ギルドカードは重要なものだとお考えください。すべての情報がカードに記憶されますので、また口座の開設も兼ねておりますからね。罰金の意味合いもあり、金貨1枚となっております」
「わかりました。絶対なくしません」
冒険者のギルドカードとともに、首からぶら下げておこう。
「ギルドに登録していただいたからには、貢献をしていただかなければなりません。年間費として金貨1枚かかります」
「ええ!」
無理だよ。貧乏人には無理だ。
「ただし、1年に1回、新製品を登録してもらうか、もしくは1月に1度、素材を売っていただければ、年間費は無料になります」
「よかったです」
なんだよ、脅かすなよ。それなら何とかなるだろ。
「初めて登録をなさった場合は、ランクはアイアンになります。徐々に貢献度がアップすると、ランクも上がって行き、年間費も上がっていきます。それにつれてもちろんギルドとしても優遇されますね。そちらもご説明いたしますか?」
「いえ! 結構です! 私は、そんなにランクがあがる筈がないですから」
「畏まりました。では、ランクが上がる時にまた、詳しくお話致しましょう。何か質問はございますか?」
「全くの勝手がわからないので、疑問が出たら、その都度聞きます。受付で質問しても大丈夫ですか? お金かかりますか?」
「疑問に思った事はどんどん質問してください。勿論無料でお答えしますよ。それでは早速、登録をしますね。文字は書けますか?」
「はい」
「では、ここに名前を」
「あ、私、冒険者ギルドにも登録してますけど、問題はないですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「よかった」
ティティは紙に、名前と年齢をさらさらとかいた。出身か、ティティの住んでた村はなんて言う村だったか? ぱっと頭に浮かばないし、できれば記録に残したくないな。ないとは思うが、親にティティが生きているのがばれたくない。
「あの、出身なんですが、私、山に捨てられたんです。なんとかこの街に辿り着いたんですが、自分が住んでいた村の名前はわかりません。なので、この街を出身地にしてはだめですか?」
マルティナの目に憐みの色が出たが、それもほんの一瞬だ。すぐに笑顔で答えてくれた。
「構いませんよ」
よし。冒険者ギルドと同じで行けたな。
それに軽く流せた。
けど、なんか両隣の雰囲気が暗い。
あ、デルには話してなかったか。
まあ、察してくれるだろう。
ここで長話する訳にはいかないしな。
「それでは少々お待ちください」
お姉さんは、書類にさっと目を通すと、小さな鉄のプレートを出し、四角い透明な石の上に、それをかざす。
すると、ポオっと淡い光がゆっくりとそのプレートの上を通る。
「ティ、お前」
デルがもの問いたげな眼でこちらを見る。
きっと気遣ってくれてるんだろうが、怖いよ。
「うん。私、口減らしに山に捨てられちゃったんだよね。幸い、この街に下りて来られたから、助かったんだ」
「そうか」
「うん。スヴァもテイムできたから、採集とか狩りで何とか食べていけるようになったんだ」
「そうか」
ティティはぐにっとデルの頬をひっぱった。
「もう! そんな顔しないで! 私は大丈夫だから! デルおじもマルさんもいるしね! 何かあったら、頼らせてもらうよ!」
「おう! 任せておけ!」
「わしも力になるぞ!」
デルコは力強く頷き、マルコはティティの頭をぽんぽんと叩いてくれる。
顔は怖いが、このドワーフのおっさんコンビは、いい人だ。
なにせ、自分たちで独り占めしないで、こうして商業ギルドに俺を登録させてくれてんだからな。
「お待たせしました。登録は完了しました。こちらが、ティティ様のギルドカードです。口座も開設しておきましたので、入金出金の際には、ギルドカードをお出しください」
「よし! それじゃ、いよいよ、本番じゃな。わしら、商品を登録したいんじゃ」
「かしこまりました。それでは、2番のお部屋にお進みください。担当者をお呼びいたします」
そうして示されたのは、左側に並ぶ、扉だ。なるほど、扉には番号が書かれている。
「行くぞ」
「うん」
ここまではスムーズだ。うん、いい感じである。このまま行きたいなあ。




