第68話 もみくちゃはいやだっ
翌日。
買い置きのおむすびをぱぱっと食べて、ティティとスヴァは、冒険者ギルドへと顔を出す。
ギルド内は、昨日よりもかなりかなーりにぎわっていた。
注目はやはり金貨五枚の依頼書である。
この依頼は情報収集のための依頼であるため、特定のチームあるいは人間が受けるものではない、いわば全冒険者が対象の依頼になる。
その為、依頼書は張りっぱなしになる。
昨日他の依頼でいなかった者が今日その依頼書を見て、騒いでいるのだろう。
依頼ボードに近づけない雰囲気である。
受けられる依頼があるか確認したいが、少し落ち着くまで待つしかないかもしれない。
ならば、買い取りをお願いするか。
この賑わいなら、多少レアな素材を出しても、目立たないだろう。
そう思って、買い取りカウンターに目をやると、イリオーネがいた。
目が合うとにっこりと微笑んでくれる。
おう。今日はコマルナ湖とタリオス湖の検証が終わっていないので、情報を伝える訳にはいかない。残念。どうか頼む。2、3日後もどうか、そこにいて俺に笑いかけて欲しい。
そう切に願いつつ、イリオーネがいるカウンターに近づいて行く。
「おはようございます。お久しぶりです」
「おはよう。久々ね。元気そうで何よりだわ」
そう言ってにっこりと笑ってくれる。落ち着いた美人さん、とてもいい。
「買取お願いしてもよいですか?」
「もちろん」
「本当は、先に依頼ボードをチェックしてから、お願いしようと思ってたのですが」
ちらりと依頼ボードの方へと視線をやり、肩をすくめる。
「今は無理そうなので、先にお願いしに来ました」
本来なら、新しい依頼を先にしたかった。依頼は早いもん勝ちだからだ。
イリオーネさんも、依頼ボードのほうをちらりと見て苦笑した。
「そうね。今あの中に行ったら、ティティちゃんは怪我をしてしまうかもしれないわね」
「はい」
「じゃあ、ここに買い取りして欲しいものを出してもらえる」
「うーん、わかりました」
ティティはきょろりと辺りを見回す。
それでピンと来たのかイリオーネが声を低める。
「もしかして、レアな素材?」
「えっと。多分、そうだと思います」
じっと、イリオーネさんはティティを見つめると、カウンターを開けて、中へと素早く引き入れた。
ティティの身長だと、カウンターを締めれば、もう姿は見れない。
「ついてきて」
そう小声て囁くと、歩き出した。
ティティは慌てて、ついていった。
うお。即判断。即行動。
すげえな。イリオーネさん。
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