第64話 にょっ 伸びた
ようやくあったまったティティは、立ち上がった。今日はこの後、近くの林で枯れ木を拾って、明日に備える。明日は少し遠いコマルナ湖に行かなくてはいけないのだ。
枯れ木を拾っている時間はないかもしれない。
「焚火にくべる枯れ木!枯れ木~!」
少し調子っぱずれな鼻歌を歌いながら、枯れ木を探す。
「それだけ元気であれば、これから足を伸ばしてコマルナ湖に行ってもいいのではないか?」
スヴァが横を歩きながら、そんな物騒な事を言い出した。
「やだよ! 元気に振舞ってるけど、実はくたくたなんだぞ! 魔力も使ったしな」
「そうなのか?」
「そうなんだよ!」
「ならば仕方あるまい」
スヴァは素直に引き下がった。
ふう。あぶないあぶない。今日これ以上、水に潜るのはごめんだぜ。
もしかしたら、2つ潜るかもって思ったけど、時間的にも体力的にも無理だ。
「明日に向けて、枯れ枝を探すぞ! ほら、スヴァも手伝え!」
「わかった」
亜空間があるから、いくら拾ってもいい。
「確か、アイテムボックスには、制限があるはずだよな。魔法士が使う収納はどのくらい収納できるんだろうな?」
魔族が使う亜空間、すごい便利であるが、ばれたら、討伐されるかもしれない。気を付けないと。
「亜空間と魔法士が使うアイテムボックスはぱっと見た感じ違うのか?」
「わからぬ。魔力を使うのは共通してるから、同じようなものかもしれぬな」
「でも、わかんないよな。根本的に作りが違ったらやだし、やっぱ見つからないようにした方がいいな」
誰もいないところでも、油断せずに、リュックを亜空間の入り口にして、枯れ枝を入れて行く。
うん。私考えてるね。
「お主にしては、考えてるな」
「だろ?」
まさに今同じ事を考えてたので、つい胸を張る。
ん? でも少しばかにされているような。ま、いいか。
食事をしたせいか、さっきより元気が出て来たな。スヴァには絶対言わないけど。
と、隣を歩いていたスヴァが立ち止まった。なんだ、元気が出て来たのバレたか?
「なんだよ。どうしたよ?」
「さっき預けた、植物スライムのかけらを出してくれ」
ふう。違った。もうびっくりさせるなよ。
「ほらよ。どうするんだ?」
スヴァに言われた通り、皿にのったままのぶよんとした植物スライムを亜空間から出す。
「ここにかけてくれ」
そう言って示したのは、ツキミノ草という薬草である。
まだ採集できるほどに育っていない。地面からチビっとしか出ていない。どうしようっていうのか。まあ言われた通りするけど。
「わかった」
ツキミノ草の根元に植物スライムのかけらをでろんと落とす。
「それから、これが成長するように念じながら、魔力を少し当ててやれ」
「ええ?! またお前、急に無茶を言うなあ」
「いいからやれ」
元魔王様は、どうも魔法についてはスパルタである。
「わかったよ」
腹から魔力を持って来てと、植物の成長か。
うーむ。お日様のようにあっためてやるイメージでいいかな。
「促進」
自然に出たその言葉とともに、おっきくなれよという気持ちを込めて植物スライムのかけらとツキミノ草に魔力を放出する。
すると、ぽわっと植物スライムのかけらがひかり、地面に吸収された。
それと同時に、ツキミノ草がぐんぐんと成長して、採集できるほどになった。
「うわ! どういうことだよ!」
「植物スライムの身体はエネルギーの貯蓄庫だからな。植物にかけてやれば、成長を促してやれる」
「そっか。すげえな。でも、魔力もあててやらんとだめなんか?」
「いや。今回はお前に見せるため、急激に成長させるようと魔力を使っただけだ。奴のかけらをまけば、徐々に吸収していくさ」
「そっか!」
「だが、植物スライムの身体は核から離れると、徐々に空気や地面に放出されていくから、田畑などを回復させるためには、計画的に手早くする必要がある」
「おお! そうなのか! スヴァすごくね! 俺たち、不作の対処方法も提案できるってことじゃん!」
「ああ、だから、余計に報酬をもらおう」
「おうよ!」
「そして、うまいものをたくさん食べよう」
「おお! わかってきたじゃん! おまえ!」
「ああ、生まれ変わって、食べ物がすごくうまいんだ。これは楽しまねばなるまい」
「ああ、そうだよ! そうしなきゃな!」
ティティは拳をスヴァに突き出した。
「なんだ?」
「ほら、お前も前足をだせ」
「こうか?」
スヴァが出した前足にこつんと拳をぶつけた。
「たくさん金もらって、うまいものを食おう!」
へへっ!なんか元気出てきたぜ!
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