第60話 デルコはやりて
「お前の保温筒は、材料費もかかっとるし加工も細かいから、売るにしても高めの値段になる。量産しても、売れるかはわからないからな」
「うえ?! 別に売る気はないよ?」
なに言ってんねん。このおっさんは。
「いや、これは商業ギルドに登録するぞ。後で、利権にかかわることだからな」
「なにそれ? 私、ただ欲しいものを作ってもらっただけだよ? なんでそんな面倒なことするの!?」
「わしと弟がこれを作って、店に置こうとしてるからじゃ」
「じゃあ、デルおじの名前で登録しちゃっていいよ」
作れるのはデルコと弟さんだし。
「そうはいかん! アイデアを出したのは、お前じゃからな。ちゃんとお前の名前で登録せんと」
「やだよ! 目立ちたくない!」
それ以上に面倒くさい。
「目立つとどこで目をつけられるかわからないじゃないか!」
この年で商品登録なんかしたら、目立つに決まってる。危険回避! ダメ! 絶対!
「それにバンブールの水筒と皿もあるしの」
「ええ!? 水筒はデルおじが考えたんでしょ? 皿は、ただ切って皿にすればって言っただけじゃん! 登録するような商品じゃないっしょ?!」
「わしらが、商品になるように、ちっと工夫するんじゃ。きっちりとな」
「デルおじ、なにそんな悪い顔してんの!」
「まあ、バンブールの皿や水筒はすぐ、類似品がでるだろうが、それまではしっかりと稼げるようにわしが手配するから心配するな」
デルおじ。偏屈で人づきあいがあまりないと思っていたが、どうしてどうして、したたかな商売上手らしい。
これは逃げられないか。
「う。じゃあ、共同名義で登録しようよ」
「うむ。元よりそのつもりじゃ」
「なんだ。だったらいいよ」
末尾にちょろっと名前をのせてもらうだけなら、問題あるまい。
前向きに考えるなら、お金が入ってくると思えば、危険度が多少あがるくらい、目をつぶろう。
しかし、この流れで金属の水筒の話をすると、これも登録をとの流れになりそうだ。
それに今日はこの後予定があるし。
何よりお腹がまたかなり減ってきた。
よし、一時保留だ。
「話はついたな。いつ商業ギルドに行く? これからすぐ行くか?」
「ごめん。今日これから、急ぎの用事があるから、明日以降にしてもらってもいいかな?」
私はこのまま行ってもいいけど、スヴァがうるさそうだ。
「了解じゃ。明日これくらいの時間に来てくれ」
「わかった」
「保温筒のほうも、もう少し改良を加えようかと思っておる。さすれば、もう一登録増やせるかもしれん」
デルが独り言のように呟いた不穏な発言は、聞かなかったことにする。
絶対に。
「デルおじ! この保温筒の代金は?」
「ああ、それは試作品だから、いらん。持って行け」
「ええ!? だめだよ! ちゃんとお金をとってよ! じゃないと、後2、3個頼みたいのに頼めなくなるじゃないか」
「わかった。なら、原材料費だけで今回はいい。お試しだからな。後はちゃんと、代金をとる」
「わかった。本当にいいの?」
「ああ、かまわん。銀貨1枚でいい」
「ええ!?そんなに安くていいの?」
「ああ、それ自体、材料費はそんなにかかっておらん」
「そうなの?じゃあ、ありがたく」
ティティは財布からお金を取り出すと、デルコに渡した。
「ありがとう。デルおじ! とっても助かったよ」
「おう! わしもじゃ! 新しいものを作るのは、楽しいからな!」
「デルおじは武器以外でも作るのに抵抗はないんだね」
「武器が一番得意だが、それ以外でも作るぞ。まあ、小物作り専門の者がいるから、わしは滅多に作らんがな」
そっか。そうした専門の人がいるのか。
「それに職人仲間は沢山いるからな。わしよりも向いてる奴がいれば、そちらを紹介するさ。だから、また何か作りたいものがあれば、言ってこい」
「うん! ありがとう」
助かる、顔は怖いけど、頼りになるな。
そこで、ティティの腹がぐうっとなった。
「なんだ?」
「あはは。さっき朝ごはん食べたんだけど、買い物してたらまたお腹が空いちゃった」
「がはは! なら、屋台にでも行って、たんと食え! お前はやせっぽちだからな!」
「うん! お腹が減ってたら、動けないもんね」
「そういう事じゃ」
「じゃ、また早めに顔を出すね!」
「おお! その時には、保温筒の使い心地を聞かせてくれ」
「わかった!」
筒をリュックにしまって、ぶんぶんと手を振る。
「スヴァ待たせた。行こう!」
<屋台にではなかろうな?>
「違うよ! 湖にだよ!」
串焼きは食べるけどね。
だってお腹空いたんだよ。
食べたばっかりだけど、気にしなーい。
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