第59話 保温筒っ
「デルおじ! 保温筒! できてる?!」
ドリムル武器屋に入って開口一番、ティティはそう言い放った。
「なんじゃ、お前は。挨拶もなしで! 保温筒ってのはこいつの呼び名か?」
ぶつぶつ文句を言いながらも、デルコの手には、ティティの望んだ品があった。
「わお! そうだよ! 保温する筒だから、保温筒! それが保温筒の完成品?」
目に期待を一杯に載せて、ティティは尋ねる。
そのキラキラした目に勝てなかったのか、デルコはそれ以上文句も言わずに、保温筒を差し出した。
「そうだ。ほれ」
「ありがとう!!」
デルから念願の保温筒を受け取ったティティは、蓋をきゅっと回して開け、中を覗いてみた。
「ふおおお!」
中はピカピカの金属でできている。
外側は緑色をしているすべすべした素材だ。
これはなんだろうか。初めてみる。木なのか?
それは置いておいても、望み通りのものだ。
「デルおじ! すごい! まさしく私が欲しかったものだよ! ああ~嬉しい! 今日絶対欲しかったんだよ!」
切実にだ。これで、湖にもぐった後、内側からあったまる事ができるよ! 零れる心配もないし!
スープを入れてよし、お茶を入れてよしだ。
「当然じゃ! わしにかかれば、こんなのちょちょいのちょいじゃ!」
「そっか! デルおじってすごいんだね」
「もっとほめろ!」
デルコは長いあごひげを撫でつつ、ふふんと鼻をならす。
「本当すごいよ。この蓋のとこなんて、ずれもないし、きゅっと閉まる」
ティティは開けたり閉めたりと、繰り返して試す。
「この外側の素材は何かな? 私初めてみたけど」
「ああ、これはバンブールという植物だ。中が空洞になっとる植物で作ってみた」
「へえ。なんかいい匂いのする植物だね」
「そうか。まあ、独特の匂いがするな。気にならないんならよかった。今回作ってみて、思ったが、このバンブールだけを使って、簡易な水筒を作るのもありかと思ったぞ」
「そうなの?」
「ああ、バンブールは中は殆ど空洞だからな。節ごとに切ってやれば、中はくりぬく必要がない。ほれ、私の弟が作ったやつじゃ」
ティティが持ってる水筒と同じ大きさぐらいのものをデルはもう一つ差し出した。
それはそれほど、凝ったものではなく、円筒で、上部に大人の親指の太さぐらいの穴が開いており、コルクで蓋がしてある。
コルクを抜くと、ポンと小気味いい音がした。
その穴から中をのぞくと、中は真っ白で、少し青臭いが爽やかな香りがした。
「うん! 水筒として十分使えるよね」
「じゃろ? バンブールは繁殖力が高くて、すぐに大きくなる。けど、あまり使う用途がなかったんじゃ」
「じゃあ、安く手にはいる素材なんだね」
「ああ、そうじゃな。ただ同然じゃ」
「一度買ったら、当分使えそうだね」
「ああ、軽いし、持ち運びも楽じゃろう」
うーん。これ、横にパカッと切ったら、簡易な皿に使えそうだよね。
「デルおじ、これ横に、切ったら、蓋つきの入れ物に使えないかな?」
「なんじゃと」
「ちょっと細長いけどさ、炊き込みご飯はおむすびにすると崩れやすいけど、これに詰めたて、蓋をしたら、持ち帰りに丁度良さそうじゃない?」
「ああ、それはいいかもな。バンブールは増えすぎて、たまに伐採依頼が冒険者ギルドに出るほど成長するからな」
「そんなに!」
「ああ、これが、幅を利かすと、他のものの成長を妨げるからな。ちょうどいいかもしれん。弟に提案してみるか」
「お願い! そうすれば、私の夕食の幅が広がるよ」
「そうなのか?」
「そうなの! 私、ほら、こんなチビだし、そんなに強くもないから、夕食は屋台で買って、宿の部屋で食べるようにしてるの。そうすると持ち帰れるものって決まってくるでしょ?」
「そうだな」
「そう。だから、今回お願いした保温筒も、食生活改善の1つだったんだよ。バンブールだけの水筒もいいけど、このポットなら、こってりしたスープも入れられるし、洗って何回も使えるから!」
「なるほどな。とすると、もしバンブールの皿ができて、屋台や店で使うようになったら、お前も助かるってことだな」
「うん! すごく! 混ぜご飯もバリエーションが増えそうな気がする! それにバンブールの水筒も売るようになったら、私、買うよ! 皮の水筒より、飲みやすそうだし!清潔そう!」
「そうか! なら、弟と相談してみるか!」
「わーい!!」
どうやら、自分の保温筒から、思わぬ、副産物ができたようだ。
嬉しいことである。
今日はもう1話更新がんばります!
固有名詞間違いを修正しました(2024/5/24)




