第492話 ティティ、ベルナルディと再会す
「お待たせ致しました」
という台詞とともに、入ってきたのは、予想通りの人物、そう、ベルナルディである。
長身で黒髪を後ろに流している男性。油断できない感じがいやだ。
ベルナルディは、さっさと私たちが座る向かい側の席につく。
今回の部屋は私たちが少し人数が多いからか。以前利用した時よりも、気持ち大きめの部屋だ。
とはいっても、作りは変わらない。
部屋には真ん中にテーブルがあり、それを挟んで椅子が配置してある。
ちなみにベルナルディ側は椅子が1つ。
私たち側は椅子が3つで私が真ん中左にデルコ、右にノアである。ブライトとライは私たちの後ろに立っている。
椅子を借りて座りなよって言ったら、断られた。
何かあった時に、座っていては遅れをとるからと。
いやいや、商業ギルドでいったい何があると言うのか。
2人とも気を張りすぎだよって言っても、全然聞いてくれない。全く困ったものだ。
私は来てしまったものは仕方なしと、気を取り直して挨拶をする。
「ベルナルディさん、こんにちは。ご無沙汰してます」
「ノアです。こんにちは」
苦手でも、もちろん表には出さない。にっこりとスマイルである。
ノアは分け隔てなく、全開スマイルだ。
私もそうなれれば、どんなにいいか。
誰も私を、子どもでは居させてくれないのか。
<いや、お主は好きな時に子どもでいるであろう>
足元にちょこりと座るスヴァが、安定の突っ込みをしてくる。
スヴァも相変わらず私に厳しいぜ。
「はい。ティティさん、ノアさん、こんにちは。お久しぶりです。待っておりましたよ」
「え? 私がこの街に帰って来てたの、知ってるんですか?」
「もちろんですとも。重要な情報は、逐一この商業ギルドに入ってきております」
こわっ。こわいよ! それに私がゴルデバに来たことって、重要な情報なの?
<領主と懇意にしている娘であれば、重要ではないか>
懇意にはしてないよ! ブルコワ様が、ちょこっと気にかけてくれてるだけで!
<身元保証の証文を出してくれてるんだぞ。十分懇意だろうが>
ぐっ。否定できない。
「それで? 後ろのお二方は初めましてですね。ティティちゃん、紹介してもらえますか?」
「えっと、デルおじの後ろに立つのが、冒険者のライ、扉側にいるのがブライトだよ。旅の仲間だよ」
ライがローブをかぶったまま、頭を下げる。ここでは正体ばらす必要はないからね。ブライトも、しかり。にこにこしながら、同じく軽く頭を下げる。
「ライ様に、ブライト様ですね。ベルナルディです。よろしくお願いします」
「さて、挨拶も終わったな! じゃあ、話を始めるぞ!」
それまで黙っていたデルコが、ずいっと話を始める。
デルコは前置きなし。ドワーフのいいところだ。商談前の肩慣らしは、しないってね。
「今日はこの3つを登録したい。共同名義でな。取り分は前と同じでな。これは仕様書だ」
共同名義と、取り分についてはデルコと議論しても無駄なのは、ここに着くまでで諦めた。金はいくらでもあったほうがよかろうと。旅を続けるなら、なおさらだと説得され済みである。ブライトまで加勢してくるから、私に勝ち目はなかった。
「ほう。またティティさんが」
「そう、ティティがな」
なにその2人とも、意味深な視線やめてよ!
「では、デルコさんと、ティティさんの共同名義でいいのですね」
「あ、それについて、1つ。小さいシャベルの名義は、私でなく、ノアの名義にしてください」
「ノアさんの、ですか?」
「はい。そのシャベルはノアを見て思いついたものですし。それにノアも商業ギルドに所属してますから、隣国に行く前に1つ実績を積んどかないと、罰金が取られてしまいますから」
「わかりました。それではそのように」
ベルナルディが、あっさり頷いてくれる。
もっと何か言われるかと思った。
それが顔に出たのか、ベルナルディが補足してくれる。
「発案者のティティさんが納得してるなら、私から言うことはありません」
うん。納得してる。私に万が一があっても、金のつてがあるのは、ノアにとって、プラスだろうからね。
「ありがとうございます」
「ではこちらで手続きをしておきます。承認されるまで、数日かかりますが、認可の知らせはどちらに」
「わしにくれ。ティは早々に隣国に向かうからの」
「そうですか。やはり、隣国へと行ってしまうんですね。ならば、これをお持ちください」
そうしてベルナルディが差し出したのは、1つの書類。
「これは?」
「商業ギルドの身元保証の証文です。商業ギルドで商品を登録する時など、出してもらえれば、スムーズに進むと思います。ティティさんはまだ小さいので、これがきっと役に立ちましょう」
「ありがとうございます!」
なんと! こんなものまで用意してくれているとは! ベルナルディ、実はいい奴だ!見直したかも!
「しかし、隣国に行ってしまうとは。残念です」
「残念?」
なぜに、ベルナルディが残念に思うのか。君とは、そんなに仲良くした覚えはないが。
「色々な商品のアイデアを垂れ流すティティさんを近くで見れないのが、残念なのです」
「垂れ流すって」
皆、同じ表現するよね? 失礼だよ!
「それに、隣国に行って、誰かにそのアイデアを利用されてしまわないかも、心配です。しっかりしてるようで、そこら辺はティティさん、大雑把なので」
またも失礼発言、連発だよ!ベルナルディ! 見直し撤回だから!
「大丈夫です。私がしっかり見張っていますから。ええ。タダ垂れ流しにはさせませんとも!」
そこで話に割って入ってきたのは、黙って聞いていたブライトだ。
「ブライト! なにその、タダ垂れ流しって! 表現力!」
「ブライトさん、貴方が?」
「ええ! 私が全力で、利益に持って行きます!」
2人とも私を無視かよ!
「拳を握らなくていいから! 私はそこまでこだわらないよ!」
「僕がこだわります! タダ垂れ流し阻止! その為の旅の同行です!」
「まさかの理由!? マジだったのか!」
「ブライトさん、まさか、ブライト=スローターさんですか? スローター商会の?」
「ええ。まさか、ご存じであったとは。恐縮です」
「もちろん、存じておりますとも! そうですか! 貴方が一緒なら安心ですね」
「ええ。任せておいてください」
ねえ! なに2人で握手してるの!
2人の私の扱いひどくない?!
<妥当であろうな>
スヴァもひどい!
なんのかんのいってもベルナルディはティティの味方でした。
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