第487話 ティティ、理不尽を嘆く
「口で説明するのもと思って、また石板に描いてきたよ」
ごそごそと鞄から石板を取り出して、デルコに見せる。
「どれ」
デルコ、そしてブライトがのぞき込む。
「これはシャベルか?」
「そう! 素材を採取するのにね、この形のものも欲しいなって思って」
「そうか。それにしても刃の部分が随分細いの」
「そう! 細いのが欲しいんだよ。これの使い道としては、根が地中深くはっていてそれを掘りたい時とか、貴重な素材の採集する時に、慎重に掘りたい時、それと固い地面を掘る時、細長い方が、深く掘れたりするでしょ? そういった時に使いたいと思って」
話しているうちに、色々と浮かんできた。
「だからね、色々なサイズのものが欲しいかな。例えば、柄の部分を長くして、立ったまま使うもの。逆に小さく作って、繊細な草花を採取する時に使うとかね! あっそうだ!」
ティテイは石板の空白の部分に、今思いついたものを描き足した。
「こんなのもいいかも。刃を内側に丸めて筒状にしたもの。あ、でも完全に筒にしてしまってはだめだよ? 20度から35度くらいは前が空いていないとだめ。おそらく使いにくいから。貴重な素材をこの筒状のものでそっと囲ってから、回りを普通のシャベルで掘り出す。そうすれば、多少乱暴にしても、素材は傷つかないでしょ。うん。こういうのも欲しいかも!」
ティティは一気にまくし立てた。
あれ? なんか反応がない。私のアイデアだめだったかな?
でも、これはあくまで私が欲しいものであって、別に商品化するものではないから、評価なんてどうでもいい。
「デルおじ? 作れる?」
「誰に聞いている? もちろん作れるわい」
「そ。それにしては難しい顔しているから、何か問題があったかと思って」
「問題か?」
「問題ですか?」
デルコとブライトがぐりんとこちらを見る。
「なに? 2人とも顔がこわい」
「やっぱりちゃんと見ていてよかったよ」
「だな」
「もう! なに? 2人とも訳わかんない!」
それに感じ悪いぞ!
「やってくれましたね。垂れ流し。じゃぶじゃぶと」
「は? 私はただ自分が欲しいものを、デルおじに作って欲しいと頼んだだけだよ!」
「それが、有用だと言っとるんじゃ」
「は? まさか。こんなのが商品になる?」
「なりますとも」「なるな」
「ええ?」
でも、私が前世でもこれに似たもの使ってたぞ。自作だけどな。
だから、どこかで同じようなものが作られているんじゃないのか。
だが、それをそのままこの場でいう訳には行くまい。
「でもさ、私が思いつくものだよ? すでに作られているんじゃない?」
「シャベルはここまで細いものは見たことがないな。柄が長いものと合わせれば余計じゃ。この素材を傷つけずに、囲うものもじゃ。そこまで素材を大事に採るという発想を持つ冒険者が少ないからな」
「ああ、確かに」
きっちりしっかり、注意して取れば、もっとお金になるのにって思うほど、乱暴に素材採取する冒険者はいる。
「まあ、作ってから、商業ギルドに持って行って登録してみれば、わかります」
「だな」
2人が頷いた。
「ええ!? まさか、これも商業ギルドの登録するの?!」」
「当たり前じゃ! これは冒険者の素材採取の道具として有用なものになる可能性がある。金になるぞ!」
「ですね」
ああ、2人の目がお金に目が眩んでいる。
私は面倒の方が先にたってしまう。
何より商業ギルドに行きたくない。
なので、抵抗を試みた。
「私、自分の分だけ、デルおじに作ってもらえればいいし。後はデルコが好きにしてくれてもいいよ? ほら、私これから隣国に行くし!」
「だからこそ、ティの名前で登録せねばならん。旅をするのに、金は邪魔にはならんじゃろ!」
「でもほら、手続きに時間かかると、出発が遅れるしさ」
だから諦めてくれ。デルコよ!
「急ぐのか?」
そう!と返事を仕掛けたところで、ブライトが割って入って来た。
「大丈夫です。少しなら待てますから。でも、できれば早めにお願いしたいです」
「わかった。では、今から急ぎで作ってみよう。明日、いや明後日、来てくれ」
「わかりました」
なぜに、ブライトが返事をする。私が欲しいものだよ!
「なら、今日はもう帰ってくれ。店を閉めて、制作する」
「デルおじ!?」
いや、そこまでしなくても!?
「ほら、ティ! グズグズするな! わしを制作に集中させてくれ!」
といって、店から追い出されてしまった。
もちろんライも、ノアも、ワイスも、スヴァもである。
「ノア、もっとおみせみたかった」
「ああ」
<我が輩もじゃ>
ノア涙目、ライも不機嫌そうである。そしてワイスまで!?リュックから顔を出してまで言う!?
私だって文句を言いたいよ!
「ブライト! なんで話を大きくするの!? 私は穏便に自分の分だけ作ってもらえればよかったのに!」
「個人で使うだけではもったいないアイデアを、ティティちゃんが垂れ流すからですよ。僕は悪くありません」
と、しれっとしている。
「ああ、ティティさん、またやりましたか」
「ねえね、やった?」
<やったな>
<やった>
「やってないよ! 私は無実だ!」
その叫びは誰の胸にも届かなかった。
くそ!
ティティの訴えは誰にも届きません♪
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