第482話 ティティ、ヒースとブリアと再会す
少し長めです。
「小さなレディ! 弟くん! また会えてうれしいよ!」
私たちがメイドさんに案内されて、応接間に入って行くと、私たちに気づいたヒースがだっと近づいてきて、私たち2人をさっと抱き上げた。
「ちょっ!」
「きゃあ!」
私は驚き、ノアは喜びの声を上げる。
「街に来てから、すぐに私に会いに来てくれたんだね! 小さなレディ!」
「ちょ! 下ろして! ぐるぐる回るな!」
「きゃあ! きゃあ!」
ノアは喜んでるみたいだけども!
私はこんなことで喜ぶ子どもではない!
ちょっと楽しいとは思うけれども!
「ああ、レディにたいして、少し失礼だったかな! うれしくてそれを精一杯表現したかったのだよ」
私たちをようやくおろしてくれたヒースは、さっと前髪を掻き上げた。
「そ、そう。十分伝わったよ」
相変わらずのようで、なによりである。
「ティティ、ごめんなさいね」
一歩引いて、ヒースの興奮が収まるのを待っていたブリアが近づいてきた。
この絶妙のタイミング。やはり幼なじみである。
そしてエキゾチックな美人さん、相変わらずの美しさで何よりである。
イリオーネも相当の美人だが、どうしてもその美しさよりも、厳しさが前面に出てしまっているので、堪能できないのが残念である。
「ブリアさん、お元気そうで何よりです」
「ええ。やりがいがある研究も見つけたから。疲れてなんかいられないのよ」
そう言いつつ、ウインクしてくれるブリアさん、素敵である。
そしてそのウインクの意味は。
おそらく、魔法を使う為に短命になってしまう魔法士を救う聖力循環の研究を進めているとの合図であろう。
よかった。まだ始めたばかりであろうが、地道に研究を進めて、成果があるように祈るばかりだ。
ひとしきりの挨拶がすみ、私たちはソファに腰を落ち着けた。
ヒースとブリアは、ライに対して仰々しい挨拶をしようとしたところ、ライが「今はただの冒険者のライだから、不要である」との一言で、なしになった。
ライ、「ただの」好き、続行中である。
ローテーブルを挟んで、左側にヒースとブリアが座り、右側にライ、私、ブライトと座る。ノアはライのお膝にオンである。ノアも大きくなってきたので、私がお膝にのせると、前が見えなくなるので、重要な話し合いの時には、ライに預けている。少し悔しい。
「こほん」
さて、どう切り出そうか。多分ヒースは断らないとは思うんだけど、人に頼み事をするのはどうも苦手である。
<何をいまさら。お主のずうずうしさを発揮すればいいだけのことよ>
足下にちょこりと座るスヴァのアドバイス。ひどっ!
<本当の事ではないか>
うん。まあ、時には強気になることもあるけどね。
ごほん。
そして私が口火を切ろうとしたとき、ヒースが先に口を開いた。
「ああ、小さなレディ、僕の家に来た理由は、もうわかっているよ」
「えっ」
「冒険者ギルドのイリオーネ殿が書状に要件を書いてくれていたからね」
おお。ありがとう、イリオーネさん。
先触れだけでなく、要件まで伝えてくれていたとは。説教くさいと思ってごめんよ。
「隣国に行くのに、私が、いやカレドニア家の身分保障の証文が欲しいんだよね?」
「そうなんだ。お願いできる?」
「もちろんだよ! お安いご用さ! 私が小さなレディのお役に立てるならなんでもするさ!」
「いや、なんでもって。でもありがとう、助かるよ」
「いやいや、礼には及ばないさ。当然のことだからね! 私とぶっ!」
そこで、隣に座るブリアが、ヒースの口を平手で押した。
痛そー。そして ブリアは平然と尋ねてくる。
「それで、どうして隣国まで?」
「あー。うん。そのね?」
うー。言いたくないな。別に秘密にしたい訳ではなく、言ったら、とても心配されそうだからだ。
「わかったわ。私たちに言えない重要な理由があるのね? それはおそらく貴き人に関わるものかしら?」
「えーと、そうかな?」
うそは言ってない。私の魂を安定させる為に、これから他国を巡って、各国の御使い様に天の溶光をもらわなければならないんだから。貴きお方が関わってるのは間違いない。うん。
それでもギリギリな気がするから。背中にいやな汗が流れる。
「そう。では無理には聞かないわ。でもこれだけは確認させて、その使命は隣国で終わるのかしら? それとも、他の国にも行く可能性はある?」
「あ、はい。可能性は大いにありますね」
これは言える!
「そう。わかったわ。ティティが1人で旅をするっていうなら、私もついて行くところだけど、今は2人の力強い仲間がティティにはついているから、心配ないわね」
「ノアも! ノアもいる! ねえね、まもる!」
ノアがふんすと主張する。
可愛い! うちの弟、マジ可愛い!
「おお! その意気であるぞ! ノアよ! 姉君をしっかりお守りするのだ!」
「あい!」
「ちょっと、ヒース、あまりけしかけないでよ!」
今はワイスという相棒もいるけど!
はりきりすぎて怪我したら困るんだから!
「そうですよ。ヒース殿。暴走するのはティティちゃんだけで、手一杯なんですから」
「ちょ、ブライト! ひどい! 私がいつ暴走したと?!」
「自覚がないのですか? やれやれ。テルミニーネとの再会の時には、我々騎士は、ひやりとしたのですよ?」
「うっ! それはまたね? ニーネが攻撃されちゃうと思ったから?」
「誰かに一言言ってからでも、よかったのでは?」
「頭になかった」
いやまじで。
「そういうところですよ」
「うう」
返す言葉がない。
「ふふ」
私とブライトのやりとりをみて、ブリアが安心したように笑った。
「どうやら、親睦は深まっているみたいね」
私は少し考えてから、返事をする。
「かな」
「小さなレディ! 私とももっと親睦を深めようではないか! さあ、私の胸に飛び込んできたまえ! ぶっ!」
またもブリアの平手が、ヒースの口をふさぐ。
「身元保証の証文は任せておいて。少し時間がかかるかもしれないけれど、しっかりしたものを用意するから」
「あ、はい。お願いします」
私は頭を下げた。しっかりしたってなんだろうか。書き方が難しいのか?
「小さなレディ、私に任せておきたまえ! 大船にのったつもりでな!」
「はいはい。お願いしますね」
まあ、ブリアに任せておけば大丈夫だろう。
ちなみにこの身元保証の証文であるが、救国の英雄であるライが書いたら、ピカイチの証文になるとの指摘があるかもしれない。これはライ自身に断られている。曰く自分は今タダのライだからと。ふ。
「証文ができるまで、うちで滞在しておくとよいよ! 歓迎する!」
ヒースが立ち上がって、くるりと回った。
それ? 必要な動作か?
「え、ありがたいけど、いいの?」
「もちろんだとも! もうそのつもりでセルジオが動いているさ」
「そうして。私もティティちゃんたちが滞在する間、泊まるから」
ヒースに泊まっていいかと聞かない。ブリアすげー。もう嫁決定なのか?
「ありがとう。ブリアと話せる時間ができて嬉しい。じゃあ、お言葉に甘えてしまおうかな。みんなもいい?」
ブライトとライの顔を見る。
「もちろん」
とブライト。
ライは無言で頷く。
「ノアもいい?」
「あい!」
私は立ち上がり、ヒースの方を向いた。
「それでは、お世話になります」
そこでぺこりと頭をさげる。
「小さなレディ! 堅苦しい挨拶は不要だよ!」
「でもきっちと礼はしないとね」
宿代が浮くんだし。これから先、長旅が待っているのだ。少しでも節約できるのはありがたいのである。
「要件は終了したね。ではこれから夕食を共に楽しもうではないか!」
それには賛成!昼寝したら、お腹がすいたよ!
ヒースは相変わらずです(笑)
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