第479話 ティティ、綺麗な怖いエルフと話し合う
少し長めです。
連れて行かれたのは、前とは違う、少し広めの部屋である。
部屋の真ん中にテーブルが置かれ、その右側には椅子が1つ。左側には椅子が3つ並んでいた。イリオーネさんは右側に。私たちは奥からライ、私、ブライトの順で座る。私の足下にはスヴァである。
私たちは4人、なのでノアはライのお膝にオンである。
私のお膝に載せたかったが、イリオーネさんと話をするのは私なので、泣く泣くライに譲る。
「さてと」
その前置き怖いよ。イリオーネさん。
「ティティも、仲間が出来たのね。よかったわ」
ふわりと微笑んでくれた。
うっ。不意打ちである。説教をくらう覚悟で、部屋に入ったのに、まさかの笑顔。
どうやら、とても心配してくれていたらしい。
「はい。とても頼りになる2人です」
「そう、それは何よりね?」
そう言いつつも、イリオーネさんはライを凝視したままである。
それは仕方がない。ライは街に入ってからずっと目深にフードをかぶったままなのだ。
門でもちらりと顔を見せただけ。
だって、英雄様で有名人だし。顔見せNGなのである。
けど、イリオーネさんならいいかな?
「ライ、イリオーネさんなら大丈夫だと思うから、フードを取って」
「わかりました」
ライはあっさりとフードをのける。
「まあ、とても素敵な顔立ち…え!? ああ!!」
イリオーネさんが驚愕に目を見開く。
「気づいてしまいましたか?」
「ええ!まさか、ティティ、こちらの方は?!」
「ええ。そうです」
私が脅かし成功と、にんまりする。
「私はただのライだ。ただの冒険者として扱ってもらいたい」
ライが仰々しい挨拶は不要の意味を込めての挨拶をする。
しかし、二度もただって使っているよ。ライの今一番のお気に入りワードだな。
「わかりました。もうフードをかぶってもらって構いません。人払いはしてありますが、緊急で人が入ってくる場合もありますから」
イリオーネさんが一瞬で動揺を収めつつ、的確に指示をくれる。
さすが副冒険者ギルド長である。
「了解した」
ライが再びフードをかぶる。
「ティティは、心強い仲間が出来たのね」
「はい。こちらのブライトも、とても頼りになるんですよ」
「ブライト=スローターと申します。ティティちゃんがお世話になっていたようで、ありがとうございます」
「スローター? もしかしてスローター商会の関係者の方ですか?」
どうやらイリオーネさん、ブライトの家も知っていたようである。
「はい、実家になります」
「これはまた。ティティちゃん、素敵な仲間ができたのね」
イリオーネさんがため息交じりに言う。
「ええ。でも、小言がうるさく感じる場合もあります」
私は少し愚痴ってしまう。
「それはしょうがないでしょう。ティティはつるっとやらかすことがあるから」
「やはりこちらでも?」
ブライトが身を乗り出す。
「ええ。おかげで、ひやひやし通しでしたわ」
「わかります!」
いやいや、イリオーネさんとブライト、わかり合わなくていいから!
私は2人の結託を阻止するべく、紹介を急ぐ。
「私の腕にいるのが、従魔のニーネです」
<ニーネなの~。よろしく~>
腕に巻き付いたニーネが、しっぽをふりふりする。
「あら、可愛い従魔ね」
蛇の魔物でも動じない。イリオーネさん素敵。
でもニーネの本来の姿を見たら、流石に驚くかな。ひひ。
「足下にいるスヴァはもう知ってるから省略。後は弟のノアの相棒で、亀のワイスもいるけど、今はリュックの中で眠ってる」
ノアがそっとリュックをあけて中を見せる。
「あらあら。素敵な相棒ね」
「あい!」
「少しの間に、仲間が増えたのね。よかったわ」
イリオーネさんが安心したように、笑う。
やっぱり心配かけてたんだなあ。
てか、心配してくれてた。ありがたいことだ。
「そうですね。とても心強い仲間です」
真面目すぎるきらいがあるけど!
「イリオーネさん、私たちをこの部屋に連れて来たのはなぜですか?」
「ああ、それはティティの近況を聞きたかったのだけど、どうやら私が心配しなくてもきちんとした保護者ができたようなので、詳しくは聞かなくても大丈夫と判断したわ」
そこでなぜかイリオーネさん、ブライトと握手をする。やめて!
「なら、お暇しても?」
「まあ、待ちなさい。この部屋に呼んだのは、さっき小耳に挟んだ件よ」
「もしかして、私が隣国に向かうっていう話ですか?」
「そう、それ」
もしかしてとめられる?
私は思わず眉間に皺を寄せる。
「ティティ、誤解があるといけないから、先に行っておくけれど、隣国に行くのをとめたりしないわよ。冒険者の行動を制限することは基本ギルドはしないわ。ただ、ティティが弟と2人で行くとなっていたら、もちろん全力でとめたけれどね」
何気に握る拳が怖い。
「でも、頼もしい仲間もいることだし。そこは心配してません。ただ、隣国に行くなら身元保証の証文を持って行ったほうがいいとのアドバイスをしたかったの」
「身元保証の証文ですか?」
なにそれ? はじめて聞いた。
「そう。冒険者は基本ギルドカードがあれば、隣国に入れるわ。商業ギルドのカードも同様ね。でも、高い身分、ぶっちゃけて言うと貴族、そして更にいいのは領主さまが身元保証するという証文を持っていると、他国では行動しやすくなるし、何かあったときに、融通も利かせてくれるの」
へえ。そんなものがあるのか!
「やはり、もらっておいたほうがいいですか?」
ブライトが尋ねる。ブライト、証文の存在を知ってたのか。
「ええ。ティティちゃんはほら、うっかりぽろりとするでしょ? そうするとトラブルに巻き込まれやすいから」
「ああ、そうですね。うっかりぽろりぽろぽろですからね」
やめて。2人でうなずき合うの!
「証文はいくつか持っておくのをおすすめするわね。ケースによって使い分けたらいいわ」
「では、ゴルデバの冒険者ギルドの証文ももらえますか?」
「ええ。もちろん。2、3日で用意できるわ」
「ありがとうございます」
ちょっとイリオーネさんとブライト、2人で話を進めないでよ!
「それだけでは足りないわね。ブルコワ様の証文ももらっておいたほうがいいわ」
「ええ、ブルコワ様の!?」
ブルコワ様とは、ここゴルデバの領主、ブルコワ=ガンデール様である。
「いやですよ! また城に行くのは!」
「でも、そのほうが今後の旅が安全になるわよ?」
「いーやーでーす! 貴族の証文でいいなら、そうだ! ヒース! ヒースに頼みます!」
「まあ、ヒース様も子爵のご子息様ですから、いいといえばいいのですが、よりいいのはやはりご領主さまの……」
「いえ! ヒースの証文でいいです! 百歩譲って、カレドニア子爵さまに頼みますから!」
ここは譲れない!
「わかったわ。では早くに頼んだ方がいいわ。そうしないと、出発に時間がかかってしまうかもしれないから。貴族の方々はお忙しいから」
「わかりました! すぐに! ヒースの家に向かいます!」
これ以上ここに長居したら、また話を蒸し返えされてしまう危険がある。
私は慌ただしく席を立つ。
「イリオーネさん! 貴重な情報ありがとうございました!」
そう挨拶すると、私は部屋を後にするのだった。
またお貴族様に会うのに、正装するのはごめんである!
ヒースに会うのに、正装しなくていいのかっていう突っ込みは受け付けない。
ヒースはいいの! 友達だからね!
あ、その前にワイスの従魔登録しとこう!
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