第478話 ティティ、冒険者ギルドで馴染みの職員と会う
「ギルドの馬屋に馬を預けてきます」
ライはそう言って、建物の裏手に2頭の馬を引いて、歩いていった。
「我々は先に中へと入りましょう」
「そうだね」
ノアは危ないので、ブライトが抱っこしている。
小さいからね。その方が安全か。ニーネは私の腕に、スヴァは足下にワイスはノアのリュックの中である。
冒険者ギルド。うむ。変わっていない。石造りのどっしりした4階建ての建物。
そりゃそうだ。7年経っても変わっていなかったのだ。そうそう変わるもんでもない。
その入り口もぴったりと閉まっている。
ふふ。数ヶ月前には開けるのも苦労したこの観音開きの扉。
今の私であれば、楽に開くはずである。大分体力はついたし、筋肉もついたからな。
私は自信満々で、扉を開けようとした。
が、ブライトがずいっと先に行き、片手でさっさと開けてしまった。
「ああっ!」
私の数ヶ月の成長を見せる場を奪われた!
私は驚愕に目を見開いて、ブライトを見た。
「な、なんです? ティティちゃん、その恨めしげな目は?」
ブライトが少したじろいだように、首を後ろに引いた。
「いや、何でもありません」
ふう。私、大人になれ。ブライトはよかれと思って扉を開けてくれたのだ。
怒ってはいけない。
「なら、入りましょう」
「はい」
私は少しの悔しさを滲ませながら、中へと入る。
見慣れた風景。
正面に受付カウンター。左側に依頼ボードと酒場兼休憩スペースがあり、その奥に二階に続く階段が見える。右側には買取カウンター。
いかにも冒険者ギルドな配置である。
ここは私が先に行く。私のほうがこの場は知ってるからである。
私たちは正面にある受付カウンターに行く。
そこには見知った顔が1人。
茶色の髪。オレンジ色の瞳がキラキラしている。小柄な体、頭には大きな三角の耳。
「おはようございます! マージさん! お久しぶりです!」
全開の笑顔で元気よく!である。笑顔はノープライス!
「あら! ティティちゃん、お帰りなさい! 帰って来ていたのですね」
「はい! たった今、こちらに到着しました。そしてマージさんに会いたくて、真っ先に冒険者ギルドに来ました!」
「あらあら。おだてても何もでないですよ? でもそう言ってもらえて嬉しいですね」
「本当です!」
うそは言ってない! 私は可愛い猫さん獣人が大好きである。
「それはありがとうございます。それで今日は依頼を受けますか?」
「いえ。今日は挨拶だけです。少しの間、またお世話になります」
「しばらくではなく、少しの間なのですね?」
「私としてはしばらくゆっくりしたいところなのですが、難しそうです」
そしてちらりと後ろを振り返ってブライトを見る。
「知り合いに挨拶をして、必要なものを買い足したら、隣国へと向かう予定です」
「隣国へ?! ティテイちゃん、国を出るのですか!?」
「はい。どういう訳か、そうなってしまいまして」
「まさか。1人でではないですよね?!」
「はい。幸い、頼もしい仲間が出来ましたので」
そう言って、もう一度後ろを振り返る。
そこにはブライトとノア、そしてライがいた。
「そうですか。せっかく久しぶりに会えたので、食事でも一緒にと思ったのですが、急ぎならば仕方ありませんね」
「私も残念です。イリオーネさんはいらっしゃらないのですね」
「奥にいらっしゃいますよ。呼んで来ましょうか?」
「いえ! それには及びません! どうかよろしく言っておいてください!」
イリオーネさんには最初からお世話になっているのだが、どうも怒られるイメージがあるので、少し苦手である。姿はドンピシャで好きではあるのだが。
<お主が抜けているから、あの者もつい小言を言ってしまうのであろうよ>
うっ。そう言われると返す言葉がない。
イリオーネさんの指摘はいつも的確だった。
今一瞬、ぞくりとした気がした。
これは予感だ。これには従うべきである。
「私が居ない間のこととかお聞きしたかったのですが、お忙しいみたいですし、また来ます」
急げ! ティティはくるりときびすを返した。
「あら、私に挨拶しないで帰るつもりかしら? ティティ?」
ぎくりとして振り返ると、マージの後ろにイリオーネさんが立っていた。
「エルフは長い耳のせいかよく聞こえるらしいよ?」
ブライトがそうこそりと教えてくれた。
そういう事は早く言って欲しい! ブライトよ!
「ティティ? 私は今丁度手が空いたから、談話室で話をしましょう? じっくりとね?」
イリオーネさんが私たちが通れるようにカウンターをあげた。
ひいい!!
何も悪いことはしてない筈なのに、なぜかたらりと汗がこめかみを伝う。
イリオーネさん、美人のすごみは怖いから!!やめて!!
ティティ、ゴルデバの冒険者ギルドの職員さんと会えました。
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