第475話 ティティ、説得を試み、返り討ちにされる
スヴァの言に私は、いやな予感が膨らむのを感じた。
まさか、ライ。まさかだよね?
私はごくりとつばを飲み込み、ライの次の言葉を待った。
「ならば。ラーセラは通り抜けて、一路ゴルデバに向かうべきだと思います」
ああ! 悪い予感が当たってしまったあああああ!!
「理由は言わなくても、ティティさんはおわかりになってらっしゃると思います」
「あー。私の身体が虚弱だからだよね?」
「はい。ティティさんはこのままでは、ほんの数年先で寿命が尽きてしまう状況です」
ライが私よりも深刻に辛そうに、顔をゆがめている。
ライはディッセントヒルの人魚の里で、私の魂の不安定さ、命の危うさを知ってしまった。そのことに刺激されてしまったのだろう。私の前世であるジオルを、ライ自らの剣で殺してしまったというトラウマを。
そんなに思い詰めなくてもいいのになあ。
今は私こうして、楽しく過ごしてるんだから。
気にするなって言ってんのに。
「幸いその打開策をアマノリア様がくださいました。大変ありがたいことです。ならば、その恩義に報いる為にも、一刻も早く、天の溶光を集めきるよう努力をすべきだと思います!」
真面目か!
そんなに拳を握りこまんでいいから!
もっと、肩の力を抜けと私は言いたい。
<お主よりも余程、事態をしっかりと受け止めて居る>
スヴァは少し黙っていようか。
「いや、でもね。ほら、ホープトーチで頑張ったじゃない? だからさ、息抜きも必要だと思うんだけど」
「ティティさん、ここに来る道すがら、いやあ、今回は案外楽だったとおっしゃっていたではないですか」
「う」
無事、天の溶光を手に入れられて、つるっと心の声が漏れてしまったのをライはちゃんと拾っていたのか。
「でもほら、数日滞在するだけだし!たいしたことがないよ」
「わかりません。後になって、この数日が問題だったとなるかもしれません」
「う」
「そうならない為にも、急げる時には、先に進むべきだと思います」
「うう」
「僕もそう思うな」
「げ」
ブライトまで何をいうか!?
「海鮮は隣国でも食べる機会はあると思うよ? 海に面しているからね。どうしても海鮮が食べたいなら、ラーセラを通過する時に、買い物していけばいいと思うよ。ほら干物とか一夜干しとか色々あるから」
ちがーう! 私が食べたいのは、新鮮なその町でしか食べられない料理の数々である。
しかしそれを言い出せる雰囲気ではない。
<言ったところで、自分の命と海鮮とどちらが大事かと言われるのがオチだろうな>
なにそれ。その落差が激しい二択は。
ライとブライトを見ると、スヴァの予言通りに言葉を紡ぎそうである。
「でも」
私はそれでも諦めきれなくて、頭を巡らせる。
「わかりました」
ブライトがため息交じりに言葉を零す。
「わかってくれた?!」
よかった! そうだよね! その土地ならではの料理、ブライトも堪能したいよね!
「明日ここを出て、ラーセラの町に入ったら、昼食を取りましょう。そうすれば、ラーセラの海鮮料理が食べられます。その後すぐに町を抜けましょう。ライ殿もそれでいいですね?」
「ああ、かまわない」
「ティティちゃん、それでティティちゃんのお望みの海鮮料理も堪能できる。先にも進める。良い妥協案ですよね?」
これ以上、わがままは許さないよっていうブライトの裏の声が聞こえてきそうである。
違う! 私が望んでいたのとは、まったく違う! そんな急ぎ足ではなく! まったり、ゆったりと町を料理を堪能したいのである!
が、それを言い出すことはできない雰囲気である。
<あきらめるのだな。2人はお主を思って申しておるのだからな>
わかってるよ! だから、言い返せないんじゃないか!
くう!
「うう。わかりましたよ」
私は頷くしか、道は残されていなかったのである。
ティティ、涙をのむ。仕方がないですよね。
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